第四百八十一話 氷の刃


 <させるか!!>

 

 急に放たれた冷気のブレスの前にサージュが踊り出てアイナ達を守るため立ちはだかる。一瞬で体に霜が降り、動きが鈍くなることを恐れたサージュが火球を吐き、前進する。


 <ほう!>

 <ブレスが止まった……! 今だ!>

 「無理するなサージュ! 俺もやる! ジャック、ドラ猫も参加させろ! 爺さんドラゴン、ティリア達になんかあったらぶっ殺すからな、ちゃんと守れよ!」

 「よ、よし、ドラ猫行くぞ!」

 「にゃーん!!」

 「頑張ってねードラちゃん!」

 

 アイナ達がドラ猫から降りると、ジャックを肉球に乗せて青白いドラゴンに向かって飛んでいった。そこでセフィロがティグレ達の背中に声をかける。


 「ボクがふたりを守るから大丈夫だよ!」

 <ふむ、お主は戦わんのか?>

 「……ボクが戦うのは悪魔達だけで十分なんだ。それに、悪魔に対抗するための力を手に入れるため、この実を食べるためにはボクが手を出すわけにはいかない」

 <……それは……。いや、やはりお主らは面白いのう>


 セフィロの言葉と手に乗せた果実を見て一瞬言葉を詰まらせるが、グランドドラゴンは口の端を吊り上げて笑いながら誰にともなく呟く。

 するとアイナとティリアがグランドドラゴンのローブの端を引っ張って口を尖らせる。


 「じいじ、セフィロちゃん、サージュたちを応援しないと!!」

 「そうだよー! あ、パパが背中に乗った!」

 「がんばってー!」


 その声が聞こえた青白いドラゴンは背中のティグレを振り落とそうとしながら口を開く。


 <チッ、娘の前だからか? いい動きをするな! うおっと!?>

 「そうかい? てめぇには羽があるから、狙いやすいぜ!」

 <アイナは赤ん坊のころから面倒を見ているし、我にとっても娘のようなものだ! かぁ!!>

 <こいつ自滅する気か!? ハァ!!>


 ティグレに気を取られている隙にサージュの拳が青白いドラゴンの腹に突き刺さる。そのまま顔を目掛けて口から火球を放つと、青白いドラゴンもブレスを吐く。


 「先生、こっちに飛び移れ!」

 「おう!」


 直後、火球が爆発し二体のドラゴンはたたらを踏んで後退する。


 <やるな……!>

 <くっ……厄介なブレスだ>

 <その火球しか出せない割には頑張って戦っている方だと思うがね? 私はフリーズドラゴンだ、初手で倒せなかったのは久しぶりだ>

 <我はサージュ。ここに居る者達の友達だ>


 友達と聞いたフリーズドラゴンが目を丸くしてパチパチと瞬きをし、すぐに鼻で笑いながら大きく息を吸い込んだ。


 <ドラゴンと人間が友達になれるわけが……ない!! ‟フロストレンジ”!>

 <そんなことはない! ブレスなら火球で――む!?>


 サージュが火球で対抗しようとするが、ふわりとした新雪のようなブレスが広範囲に渡って広がり、火球を包み込むとあっさりかき消される。


 「やべえぞサージュ! さっさとケリをつけるぞ!」

 「にゃーん……」

 「お前、寒さに弱いのかよ!? 猫だから? ドラゴンだから?」

 <ならば直接攻撃で! ……うぬ、滑る……!?>

 <くく……私に近づけるかな?>


 たった数秒で床や壁、天井にも霜が降り、つららが生えてくる。

 床が凍ってしまい、足元がおぼつかないサージュは空を飛び、ティグレ達も動きが鈍くなって鼻水を垂らしているドラ猫の手に乗った。


 <これなら滑ることはあるまい、行くぞ! ティグレ達は背後へ回り込め!>

 <くく……同じドラゴンを相手にするのにそれを想定していないとでも思っているのかな? オォォォォン!>

 

 空中から強襲したサージュの爪を回避しながらフリーズドラゴンが遠吠えのような声を上げた。すると、部屋の中が振動し――


 「まずい……!? ドラ猫、俺を頭に乗せろ! 爺ドラゴン、セフィロ! そっちは頼むぞ」

 <ぐお……!?>

 「サージュ! うわわ……」

 「くおーん……!?」

 <ほれ、子熊よ自慢の毛で防御してみせてみい>

 「く、くおーん」

 「まだ無理だよお爺ちゃん。ボクが防御するよ!」


 天井が震えると育っていたつららが一斉に降り注ぎ、サージュたちを襲う!

 感づいたティグレはつららを武器で斬りはらい、アイナ達はセフィロの出した樹木で難を逃れたが。

 しかし、空を飛んでいたサージュはオートプロテクションにぶつかりバランスを崩して落下した。


 <人間などと一緒に居るから弱くなるのだ。グランドドラゴンは面白いと思って最後までやりあわなかったようだが、私は違う。人間ともどもここで始末するのみ>

 <さ、させんぞ……! かぁ!!>

 <無駄だと言った。……本当に弱いな。火球しか吐けないようでは私のフロストレンジを破ることは不可能。この寒さなら先に人間が息絶えるか、それを見届けるのもいいだろう……!>

 <うぐ……!?>


 倒れたサージュを踏みながらそんなことを言うフリーズドラゴンに、ティグレが飛び掛かった。


 「うるせえ! こいつは封印を解かれてからずっと一人だったんだ! 人間が友達でなにが悪い、そんなに人間がダメってんならてめぇらがこいつを迎えに来てやりゃ良かったろうがよ!」

 <ぐあ!? 鱗を突き破るのか!? この虫けらが……!>

 「うおおおお!」

 「先生! こんなんでも役に立つか? <ファイアアロー>!!」

 <小癪!>

 <うう……ティグレ……ジャック……!>

 「頑張れサージュ!! いっぱい火を吐けばいいんだよ! アイナ達は大丈夫だから」


 アイナの声援を受けて、サージュの目がカッと見開く。


 <いっぱい吐く……ファイアアロー……そうか、同じドラゴンならできるはずだ!! ドラ猫、ティグレを回収して下がれ!>

 「にゃふーん……」

 「うお!? 何をする気だ!?」

 <チッ、人間め逃がすか!>

 <お前の相手は我だぞ……!! はぁぁぁぁぁ!!>

 <おお……!?>


 サージュが鼻から息を吸い、大きく開けた口から火球……ではなく、火炎を吐き出した。

 いつもであれば炎を凝縮させたものを吐き出していたが、今は炎の絨毯を敷いたような範囲の広いブレスになっていた。


 <まだだ……! この部屋の氷を全て溶かせ!>

 <フッ……>


 フリーズドラゴンは目を瞑り、腕組みをして立ち尽くすと、何も抵抗せずにサージュの吐く炎にまかれていった。


 やがて蒸気が上がるほどに溶かしつくしたころ、サージュはブレスを止め、


 <ぬう……>

 「ああ!? サージュ!」


 地響きをたてながら前のめりに倒れた。

 アイナやティグレが慌てて駆けつけると、サージュはゆっくり目を開けてから口を開く。


 <だ、大丈夫だ。慣れないことをしたから疲れただけだ。それよりもヤツは……>

 「……残念だが、まだ試合続行中のようだぜ」


 湯気が消えると、不敵に笑うフリーズドラゴンが腕を組んだまま立っていた。


 「無傷かよ……! どうするティグレ先生、サージュの手がないと厳しいぜ」

 「俺がなんとかする。一撃を心臓に当てれば――」

 「くおーん!!」

 「アイナもやるよ! サージュの仇をとらないと!」

 「うん!」

 <し、死んでないぞアイナ……う……>


 サージュを背にそれぞれ戦闘態勢を取ると、フリーズドラゴンが片手を前にかざし、言う。


 <ここまでだ。いいブレスだったぞ? お前はここを通る資格を得た、合格だ>

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