第四百八十話 巨大迷路


 「ふーん、ここは最初以外は本当にダンジョンになっているんだな」

 <左様。先ほども言ったがわしは実力を図る者だ、強き者でなくばこの迷路に入る資格すらない>

 「よう、どうにも『誰かが来る』ことを前提とした言い方だが、どういうことだ?」

 <フッフ、ロイヤルドラゴンに会うことはこの島にいるドラゴンなら誰でも憧れるのだ。最高峰のドラゴンに会うにはそれくらいの力が無くてはいけないということだな>


 ティグレ先生の言葉にグランドドラゴンが指を立てながら片目を瞑って笑うと、ジャックが続けた。


 「俺達は大丈夫なのかよ? ロザは何も言ってなかったけど、人間と会うのは嫌だとか言われそうだぞ……」

 <なあに、匂いで分かるがお前達はサージュと長いこと一緒だったようだし、ティグレと言ったか? お主は相当実力者じゃ、問題はあるまい>

 

 ローブのような服をめくると、先ほどティグレが攻撃した足と同じ個所に血が噴き出ていた。アイナはそれを見てびっくりした声を上げる。


 「じいじ血が出てるよ!?」

 <うむ。まあ、放っておけばその内止まるから安心してよいぞ>

 

 そう言って歩き出そうとするグランドドラゴンだが、アイナとティリアが慌ててはみ出ている尻尾を掴んで引き留めにかかる。


 <うおお!?>

 「ダメだよ! お母さんがいつも怪我したら治さないとって言うもん!」

 「そうだよ! ママもわたしに回復魔法をかけてくれるよ!」

 <はっはっは、そうかい? なら治してくれるのかのう>

 「うん、アイナはいつもサージュの血で治しているからサージュにお願いするね」

 <む、我か。……ドラゴン同士で効くのだろうか>

 <まあ、古代竜の血は怪我には万能じゃから大丈夫だろう。……なるほど、それでこの娘は――>


 含みのある言い方でアイナを見るグランドドラゴンに、ティリアが訝し気な目を向ける。 


 「なんだ?」

 <なにか気になることでもあったかな?>

 「……いや、なんでもねえ。先を急ごう」

 「わーい、流石サージュ! 治ったよー!」

 <ふっふ、当然だろう>

 <……>


 ドラゴン時と同じ赤い瞳をサージュとアイナに向けながら、グランドドラゴンはティグレ達についていく。


 そして迷路を歩いていると、段々と魔物に遭遇するようになってきた。


 「ジャイアントバット! ドラ猫、叩き落せ!」

 「サージュも頑張れー!!」

 「パパ、魔法を使っていい?」

 「おう、練習しとけ! ママはこういうのやらせたがらないからな」

 「うん! <ファイヤーボール>!!」


 ジャイアントバットやヒュージスパイダーといった大型の魔物を蹴散らし、先を急ぐ。グランドドラゴンは特に手伝うと言うことは無く、後ろからついてくるだけ。

 それを不満に感じたジャックが口を尖らせて言う。


 「なあ、爺さんドラゴン、魔物退治を手伝わないのはいいけど、道は教えてくれよ」

 <なにを言うか。わしは興味本位と名前を貰うためだけに一緒に居るだけだぞ? 手助けなど期待するものでは無いのう。ほら、どんどん来るぞ>

 「ジャック、爺さんの言う通りだ。ここは俺達だけで突破すべきだ」

 「へーい……サージュ【コラボレーション】するぜ! 手から‟火球”だ!」

 「んなことできるのか!? へっ、成長してんなみんな!」


 ジャックはサージュに触り、スキルを使いサージュの火球を再現していた。ティグレが目を丸くして驚きながら襲い来る魔物を倒していく。 


 「じいじはお名前が欲しいのー?」

 「くおーん?」

 <む? そうじゃな、バーンドラゴンが貰ったからわしもついでに、というところじゃ。ふむ、デッドリーベアの子は戦わんのか?>

 「アッシュは気が弱いから仕方ないんだよ」

 「くおーん!? くおんくおん!」

 <違うと言っておるぞ? ラースとお前を守るために頑張るらしい>

 

 心外だと言わんばかりにアッシュがアイナの足に抱き着き抗議していると、グランドドラゴンが通訳をしてくれ、アッシュは満足げに鼻を鳴らす。

 しかしそこで、グランドドラゴンがアッシュを持ち上げて目線を合わせてから諭すように告げる。


 <ふむ、小さいながらも心意気は良いな。しかし、実力はまだまだじゃな>

 「く、くおーん……」

 「アッシュはまだ赤ちゃんだからアイナはいいと思うよ!」

 <まあ、戦いが無ければ平和に人間と暮らせばいいのじゃが、すでに『こんな場所』に来ている以上、お前達は『タダ者』ではない。今はいいが、アイナやティリアに危機が迫った時、アッシュではなにもできんじゃろう>

 「くおーん……」


 ハッキリ言われてシュンと耳と小さな尻尾を下げるアッシュをアイナが強奪してグランドドラゴンへ叫んだ。


 「いいの! アッシュはアイナの友達だから。大きくなったらラディナみたいにかっこよくなるもん」

 「……くおーん!」

 「あ!? アッシュ!」

 「行っちゃった……!」

 <あやつは優しいのが取柄じゃが、それだけでは守るものも守れん。それが伝われば幸いじゃな>

 「じいじはアッシュを強くしたいの? あ、アイナもお手伝いしなきゃ!」 

 

 アイナが駆け出していき、グランドドラゴンは腕を組んで苦笑する。


 <ふっふ、久しぶりの人間は中々面白いのう。デッドリーベアも子供とはいえ、あそこまで慣れているのはあり得んことじゃ。……ラースといったか、会ってみたいところだ>

 「倒したぞ爺さん! 先行くぞ!」

 <おお、行くとしようか>


 さらに迷路を突き進むティグレ達は行き止まりに何度もぶつかり、魔物とも戦闘を繰り返し、そろそろ夕飯時になろうかという時間に、下へ降りるための階段を発見することができた。


 「うおお……やっと見つけた……そして階段でけぇ……」

 <我とドラ猫で運ぼう、グランドドラゴン殿は――>

 <わしのことは気にするな。この時間で辿り着くとは、お主ら持っておるのう>

 「んだと? くそ、降りたら休憩だ! ダンジョンが過酷だとは思っていたけど、まさか一つ階段を見つけるのに半日かかるとは思わなかったぜ……」

 <休憩、か>

 「……?」


 グランドドラゴンがにやりと笑い、ジャックが訝しむが、その言葉の意味はすぐに分かることになった。


 「……なんか寒くない?」

 「ティリアちゃんもそう思う? アイナも涼しくなってきたなって思ってたの。アッシュ、ティリアちゃんに抱っこさせてあげて?」

 「くおーん」

 

 まだラディナほど毛が硬くないのでぬいぐるみのようにティリアに抱っこされるアッシュ。そして階段を降り切ったその時、器用に胡坐をかいている青白い細身のドラゴンが、居た。


 「……次の門番ってわけか。ちょっと疲れてるけど、どうだサージュ?」

 <問題ない。どかぬなら倒すのみだ>


 サージュがそう言って一歩前に出ると、細身のドラゴンの目がゆっくりと開く。


 <……初めまして、だな古代竜と人間達。そして、さようならだ……!>


 細身のドラゴンは座ったまま、口を開けたかと思った瞬間口からブレスを放ってきた!!

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