第四百七十八話 ロザ
<戻ったぞ>
「あ、早かったですね。どうでしたか?」
<問題はない。後はサージュ次第だろう。ロイヤルドラゴンにさえ会えばサージュや人間達の望みは叶うだろう。生きて辿り着ければ、な>
「やはり危険か?」
人型に戻りながら拠点に戻って来たロザを、昼食の準備をしていたマキナとファスが出迎え質問を投げかける。ファスの厳しい顔に、ロザは不敵に笑い答えた。
<もちろんだろう? まあ、あのティグレという男もタダ者ではないし、道中は厳しいが到着すれば子供二人も役に立つし、ジャックという者も中々面白いスキルを持っているからロイヤルドラゴンを楽しませることは出来るだろう>
「楽しませる、か。ワシも行ってみるべきじゃったかのう……」
「残念そうにしないでくださいよ師匠。こっちはこっちで、やれることをやらないと」
マキナが呆れながら拳を合わせるファスを窘めると、ロザはぐつぐつとたぎる鍋の蓋を開けながら二人へ言う。
<お主の言う通り、こっちも決して楽ではないぞ? 昼を食べたら戦闘訓練に最適な奴を呼んでやる。ルシエール達は?>
「家にいるわ。温泉と鉱石を掘るため、道具を用意しているわ。戦いの相手はロザさんでもいいんだけど、どうなの?」
<私は探索と監視役だな。この島にはドラゴン以外にも魔物は存在するし、友好的でないドラゴンも居るからな>
「なるほど、さっきのラプトールドラゴンはマシな方という訳か」
<うむ。名前を付けた個体はそれぞれ死ぬまでお供をしてくれるだろう。ルシエールやルシエラはあまり戦う力を要しておらんようだし、アレに乗ってもらう>
「心強いわね。ルシエールはあまり巻き込みたくないんだけど……」
<そうか? 戦いは武力だけではない、支援要員も必要だと思うがな>
ロザが適当な木を椅子にして座り、足を組みながらそう言うとファスが鍋の蓋を受け取りながら返す。
「……随分、人間のことを知っておるようじゃな? この島から出たことがあるのか? さっき人間がここに来たのは初めてだと言っておったのう?」
<……ふふ、どうかな? どうやら匂いにつられて皆やってきたようだぞ>
「ふむ」
答えになっているのか微妙な返事を聞いてファスは口をへの字にしてロザが指差した方へ目を向けると、肩を回しながらリューゼ達が歩いてきたのが見え、話を中断した。
「あー、腹減った……クーデリカとルシエラ達だけで大丈夫か?」
「ロザさんも来るし、多分大丈夫だよ! 私も魔法は使えるしね」
「どちらかと言えば鉱石を掘る方が大変よ……」
「あ、それはわたしが【金剛力】でやるから平気ー」
「ならルシエラが一番役に立たなさそうだな」
「ぶっ殺すわよ?」
「みんな、ご飯できてるわよー」
マキナが呼ぶと、それぞれ笑顔で駆けだし焚火の周りに集まってくると、鍋のスープと串焼きを配り、昼食が始まる。そこでリューゼがロザへ質問をした。
「そういやドラゴンってサージュしか知らないけど、飯はラースやデダイトさんと暮らしていたから普通に食ってた。ロザさん達は何を食べているんだ?」
<基本的になにも食べなくても百年は魔力だけで生きていけるぞ? もし食べるとしたら魔物か海の魚になるか。ドラゴン同士、食い合うことは殆んどないな。おお、これは美味いな>
「ふうん、この島のドラゴンってどれくらいいるのー?」
<私と同じく人化、言葉を話せるのは数体だな。他はそこのワイバーンのように多少知恵があるものが存在する。ラプトールドラゴンなどはそこのデッドリーベアとそれほど変わらんな>
「グルゥ」
「わふ」
「クルゥル?」
ラディナとシュナイダーもラプトールドラゴン達と昼ご飯を食べながらそれぞれ呼ばれたのかと一声鳴く。ラプトールドラゴンも五体大人しく座っていた。その様子を見てノーラがデダイトへ訪ねる。
「向こうに連れて帰ったら怒られるかなー?」
「うーん、ウチの庭ならいいかもしれないけど。サージュの例もあるしね。だけど、珍しいから狙われたら困るかなあ」
「町で歩いていたら警護団とかに止められるわ。ラースみたいにテイマーならいいけど、野生の魔物を引き連れていたらダメって言ってたし」
「残念だなー、せっかく友達になれたのにー」
<まあ、そのあたりは私がなんとか……む、誰か来るぞ?>
「あ、ラースかな?」
◆ ◇ ◆
――昼過ぎ
俺は色々な食料品を買い込み、転移魔法陣を踏んで向こうへ移動する。昨日は赤っ恥をかいたので一人で来ていたりする。
「お、ちょうど揃っている」
大きな荷物……というより、馬車そのものを持ってきたのでこっちを見ていたリューゼが口から何かを噴く。
「ごめんおそくなって! 食料を持ってきたよ」
「ありがとうラース! ……馬車、通ったのね」
「正直、すこーし魔法陣を拡張したんだけどね。馬達も出発前に歩かせとこうと思って」
「あ、久しぶりね」
近くへ行くとルシエールとルシエラが提供してくれた馬なので、嬉しそうに首を撫でるルシエール。そこへラプトールドラゴンが寄って来た。
「……クルォォン♪」
「……!! ダメ! 馬さんは食べ物じゃないからー! ほら、コウ君達は向こう! お肉上げるから」
「クルォン!?」
なにかを悟ったノーラが物凄い剣幕でラプトールドラゴンを追い払うと、心外だと言わんばかりに散っていく。だけど涎を垂らしていたら説得力はないよ……
「これ全部いいのか!?」
「うん。空にしていいよ。飲み水とかも手に入るか分からないし、戻ってもすぐに町へ行けるわけじゃないからさ。それに俺もこの後、バスレー先生達と一緒にオーファ国へ行ってくるよ」
「あ、出発するんだ。私も行きたかったけど、その分強くなるからね!」
「うん、でも気を付けてくれよ?」
そんな調子で荷台の食料を降ろしながら話をし、サージュはともかく、ティグレ先生やアイナがダンジョンへ向かったことに驚いた。
そして俺は城へ戻ろうと思ったその時、ロザから声がかかる。
<ラースよ、これを持っていけ>
「え? ……っと!? これは……爪?」
<うむ。鍛冶師に会うのだろう? これで一つ剣を作ってもらえ。そしてリューゼに渡すといい>
「へ? 俺?」
「そりゃ構わないけど……」
<この男は火や炎と相性がいいようだ。バーンドラゴンの私の爪は炎の増幅効果があるから、という理由だ>
――それから少ししてから俺は魔法陣を踏んでドラゴンの島を後にする。残りたい気持ちもあるが、こっちは任せよう。
「さて、バスレー先生とウルカを迎えに行くか!」
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