第四百七十七話 ダンジョンへ


 <……ドラ猫はダンジョンに入れるのか?>

 <まあ、人化しないでも入れるから大丈夫>

 「大きくならないのー?」

 「にゃーん」

 「ドラちゃんの毛、ふわふわー」


 ドラ猫の頭の上に乗っているアイナが眼下のロザに尋ねると、サージュを抱っこしたまま口を開く。

 

 <アイナ達に合わせているだけだから気にしなくていいわ。そのドラ猫? その子もそうだけど、大きいと人間と一緒に行動するのは大変だから。だからサージュも人化を求めているのだろう?>

 <そういうことだな……って、なら我も大きくなればいいのか、離してくれ>

 <んふふ、いいじゃない。楽でしょ?>

 <いや、持ってもらうのも悪いからな>

 <いいからいいから>


 「……なあ先生、サージュはもう……」

 「ああ、ロックされたな。男気を見せたから気に入られたんだと思う。ドラゴン同士、仲良くやってくれたら嬉しいがな」

 「パパとママみたいになるのー?」

 「シッ、ティリア、サージュはまだ気づいていないから言うなよ?」

 「うん」


 ダンジョンへ向かう人材が決まった後、準備に時間がかかってしまい、夜移動するのは危険だからだと翌日行動を開始。

 そろそろ昼を過ぎようとしている中、獣道をひたすら歩いていた。


 ティグレとジャックがロザについて考察していると、セフィロがドラ猫を撫でながら言う。


 「ボクもラース兄ちゃんとけっこんしたいなあ。マキナちゃんとルシエールちゃんとクーちゃんとも!」

 「ラースならできるだろうけど、あいつは一筋だから無理だと思うぞ? お金もあるし、子供いっぱい作ればいいのにな」

 「まあ、色々あるんだろ? デダイトも一人しか娶ってないし」

 「うーん、どっちにしても教主と悪魔達を倒さないとそんなことも言っていられないし、頑張ろうか!」

 「くおーん♪」

 

 アッシュが両手を広げて歓喜の声を上げると、アイナ達に一斉に撫で回されご満悦だ。そんな和やかな雰囲気で歩き続けていると、山の麓に到着した。


 「ここか……?」

 <うむ、でかいだろう?>

 <確かに広い入り口だな、我が住んでいた山に似ている。よし、今度こそ大きくなるぞ>

 <はいはい>


 サージュはロザの手から逃れると巨大化し、ドラ猫と並び立つ。それでもまだ入り口の天井には頭がつかないので相当大きいことがうかがえた。


 <では私はここまでだ。アイナ、ティリアこちらへ来い>

 「んー? なあに?」

 「ロザおねえさんどうしたの?」


 微笑みながら子供二人を呼ぶと、ロザは自分の指先を爪で切り裂き、その指を差し出した。


 <私の血を舐めておけ、多分役に立つ。血は平気か?>

 「ん、サージュの血は舐めたことあるからアイナは平気!」

 「わ、わたしも……大丈夫……!」

 

 アイナ達が血を口に含むと、ロザは手を引いて来た道を戻り始める。


 <死ぬなよお前達。この島にはドラゴン以外の魔物も居る。私達にとっては雑魚でも人間には強敵、ということもある。油断するな>

 「……分かっている。戦った俺達なら分かるが、悪魔と戦うならそれくらい返せないとダメだ、丁度いい」

 <サージュ、任せたぞ>

 <無論だ。急ごう、戻るなら早ければ早い方がいい>

 

 「ドラ猫はアイナちゃん達を守れよ」

 「にゃーん」

 「ボクも歩いていくね」


 ロザがドラゴンに変化して飛び去ると、残されたサージュやティグレ達はダンジョンへと入っていく。入ってすぐに前が見えなくなり、ティリアが体を震わせる。


 「暗いね……パパ、大丈夫?」

 「ああ。入ったばかりだしな。でもこのままだと罠が見えないな……灯りを出せるかティリア?」

 「あ! うん! <ライティング>!」


 ティリアはここぞとばかりに魔法を使い周囲を明るくすると、アイナが拍手をして壁に反響する。


 「やっぱりティリアちゃんは魔法が上手ー!」

 「えへへー」

 「めちゃくちゃ明るいな……それに堀っただけかと思ったけど、壁は結構しっかりした作りになってんのな」

 <うむ。まるで人間の手が入っているようだ>

 

 サージュは先頭を歩きながら壁に手を当てて具合を確かめつつ慎重に進んでいく。飛ぶほどの幅はないので、戦闘になった場合ほぼ肉弾戦になることが予想された。


 「お、階段だぜ」

 「ここからが本番らしいな、気を引き締めていくぞ」

 <階段の幅が広い、ティグレとジャックは我の手に乗れ>

 「ボクはドラちゃんに乗るね!」

 「にゃーん♪」


 一行は階段を降りていく。ティグレは迷路のようなモノが広がっていると思っていたが――


 「……随分広い場所に出たな?」

 「やっぱドラゴンがウロウロするからじゃないのかな? さっきの通路だとドラゴンも満足に戦えないだろうし」


 ジャックが目を細めて遠くを眺めながらそう言うと、ドラ猫の頭に乗っているアッシュが唸り声をあげる。


 「くおおおん……!」

 「どしたのアッシュ? なにか居るの?」

 「くおん! くおーん!」


 アイナが抱き上げると、アッシュは慌てたように暗闇の方へ手を振りそっちを見ろと言わんばかりに叫ぶ。


 その瞬間、暗闇の中で赤い双眸が浮かび上がり――


 <む!>

 「危ねぇ!」


 ティグレがサージュの手から飛び降りながら、飛んできた何かを大剣で弾きながら着地すると、腰のダガーを抜きながら、ティリアに指示を出す!


 「ティリア攻撃魔法を撃て! なんでもいい、でかいのを!」

 「分かったよパパ! <ファイアーボール>!」

 「アイナも! <ファイアアロー>!」

 「わ、二人とも凄いー!」


 アイナとティリアの魔法が暗闇に吸い込まれると、大きなものに着弾して一瞬その姿を浮かび上がらせた。

 

 「そこだ……!」

 <ふん……!>

 

 ティグレがダガーを投げつけると、山のような体躯を機敏に動かしてそれを躱す。

 そのまま地響きを立てながら近づいてくると、全貌が明らかとなった。


 <お前もドラゴンか?>

 <人間の匂いがすると思ったら、同族もいるのか。古代竜とはまた珍しいな……この島の生活を捨てた者の末裔がこのダンジョンに何の用だ?>

 「アイナ達はロイヤルドラゴンさんに会いに行くのー!」

 <……ほう>

 「くおぉぉん……!」


 アイナの言葉に山のようなドラゴンが目を向けると、アッシュがガタガタと震えながら唸りを上げた。


 <この島の生活を捨てた……お前は我の母を知っているのか?>

 <さあな。知りたければワシを唸らせてみせい。グランドドラゴンのワシをな!>

 「くっ……初めて会った時のサージュみてえな咆哮だ……!!」

 <我がやる、ティグレとジャックは下がっていろ>

 「がんばれーサージュ!」


 ぐっと腰を落として、サージュはグランドドラゴンに飛び掛かった!!

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