第四百七十六話 行動停止と開始
「それじゃあ俺はこのまま馬車でオーファ国へ行くよ……って、母さんそろそろ離してくれない?」
「いいじゃない、最近ずっと離れて暮らしてたんだし。それとも私を好きになっちゃったりするの?」
「それはないよ」
あっさり言い放つ俺に父さんが笑う。
「母さんは俺のだからな?」
「そんな力強く肩を掴まなくても分かってるって。というか、母さんは母さんだし、いくら昔の記憶があっても異性としては見れないよ? 美人だとは思うけど」
「へえ、そうなの? よしよし♪」
「髪型が崩れる!? ……うん。小さい頃は不思議に思ってたけど、なんていうのかな、心と記憶が別物って感じかな? 俺はラースであって前世の人間じゃない……言葉で説明するのは難しいな……二つ心があるっていうか……」
「いや、なんとなくだけど言いたいことは分かる。あくまでも『覚えている』だけで、お前はお前ってことだろうな? ……まあ、辛い記憶が残っているのは良いことじゃないけど」
そういう父さんたちは表情を曇らせた。ああ、そのあたりも聞いているんだなと冷静に受け止める。
「確かにそうだけど、今は幸せだからね? 父さんも母さんも兄さん、アイナにノーラにマキナ。みんな大好きだ。過去の家族なんてもう覚えてもいないよ」
「……そう」
「?」
母さんが泣き笑いのような顔で俺の頬を撫でた後、頬を引っ張ってきた。
「なにするのさ!? もう……」
「ふふ、別になんでもないわ。気を付けてね!」
「俺もこの後、陛下と夕食兼会談だ。今から出たら陽も暮れるが、お前なら大丈夫だろう」
「もちろんだよ。ニーナとトリムにもよろしく言っておいてよ、ハウゼンさんもガストの町を監視するために向こうへ行っているらしいから挨拶しておくよ」
「分かった。馬車を出すんだろ、手伝うぞ」
父さんと俺は庭へと向かい、馬車を用意するため馬たちの下へ。傍に行くと二頭は立ち上がり俺に鼻の頭をこすりつけてきた。
「ぶるるー」
「ひひんー」
「よしよし、お出かけだぞ。マキナ達は居ないけど頑張ってくれよ」
「ラース、荷台は表に出すか?」
「そうだね。よし、こっちだ」
サッと馬達を表に連れていき荷台に接続。念のため、転移魔法陣の予備を庭に敷いておこうと、庭のど真ん中に置いておく。
「……」
「お、ロックタートルじゃないか、お前も行くか?」
「……」
俺が声をかけると、寄ってきたのでどうやらついてくるらしい。
ロックタートルを小脇に抱え、久しぶりに荷台に誰も居ない状況で御者台に座ると少し寂しい気持ちになる俺。
「すぐ帰ってくると思うけど、家を頼むよ」
「ええ、悪いけど少し住まわせてもらうわね」
俺はそれじゃ、と馬車を歩かせてバスレー先生達が居る家へ向かう。
――後はマキナ達にも言わないといけないな……
「あ!?」
と、ここで俺は重要なことを思い出した!
「……そういえばサージュに明日もまた来いって言われてたな……」
俺は引き返し、顔を赤くして父さんたちに事情を説明し『本当にすぐ帰ってきたな!』と、父さんにからかわれてしまった。受け入れてくれたのが嬉しくて、ちょっと気が緩んでたな……恥ずかしい。
そんな感じで、バスレー先生達にも話を持っていき、今日のところは家で過ごすかと再び家に戻ろうとしたところで町の人が空を見てざわざわと騒ぎ出した。
「影……? ……あ!?」
◆ ◇ ◆
一方そのころ、マキナ達は――
<さて、そろそろ行きましょうか>
<頼む>
「私達はどうすればいいの? ドラゴンと戦って訓練するんじゃないのかしら?」
人数分の家完成後、縄張りを意識した柵を作ったところで満足したロザが小さくなったサージュを抱っこし、ダンジョンへといくと歩き出す。
しかしそこでマキナが尋ねると、ロザは手を振りながら返事を返した。
<少し待て。サージュをダンジョンに放り込んだら戻ってくるついでに数体手練れを見繕ってくる>
「そうか。ならワシらはご飯の準備をして待つかのう」
<そうしてもらえるか。温泉も明日、ルシエール達と探索に行くまではお預けだ。……それと、この場所から動くなよ? 私はいいとしても、他のドラゴンは認めたわけではないのだ。特にアイナとティリアは絶対にみなの言うことを聞くのだぞ>
「はーい! アッシュもダメだよ?」
「くおーん!」
<うむ。では、しばし待つが良い>
「いってらっしゃいー♪」
ノーラが元気よく手を振ると、ロザは「あ」と短く呟き振り返り口を開く。
<ふむ、サージュだけでもいいのだが……誰か一緒についてくる者は居るか? ただし、死ぬ確率は格段に上がるが>
「……マジか……」
ジャックが顎の汗を腕で拭い取っていると、設置していた転移魔法陣が光を放ち、輝きだした。
「なんだろ? デダイト兄ちゃん、なんか出てくるよー」
「ラースかな? でも、明日来るって言ってたし騎士さんかも」
「……ん? でかくねぇ――」
リューゼが言い終わらない内にその姿を現したのは――
「にゃーん♪」
「あ!? お前、ドラ猫!!」
ジャックが叫ぶと、ドラ猫は嬉しそうに走って来てジャックに顔を摺り寄せ、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。それを見ていたロザが何とも言えない顔をして呟く。
<なんだこの生き物は……? 猫の頭と手に、ドラゴンの体……い、異様な……>
「にゃーん」
「お前、広場で大人しくしてろって言ったろ?」
「寂しくなったんじゃないかな? ずっと放置は可哀そうだよ」
ルシエールがジャックにすり寄せている顔を撫でながらそう言うと、頭を掻きながら口を尖らせる。
「とはいってもこの図体だから連れて歩けないだろ。よくここまで来れたな……」
「にゃにゃ」
「んー。ジャックやサージュの匂いを辿ったって言ってるよー。後、ラース君が手伝ってくれたって!」
「そういうことか。まあ、ここなら広いし、アイナちゃん達の遊び相手になってくれりゃあいいか」
ジャックがドラ猫の足を撫でながら笑うと、ロザが目を細めて指差す。
<そやつ、なんらかの形でここにいるようだな? ふむ、はしゃいでいるところ水を差すが、そのままだとそのドラ猫は消えるぞ>
「「え!?」」
ロザが冷静に告げると、ティグレやベルナといった大人以外の人物が驚愕の声をあげる。だけどジャックはあまり気にした様子もなく口を開いた。
「やっぱそうか。あの絵を具現化する奴のスキルをコラボレーションして俺が書いた絵なんだよ、こいつ。効果が切れないなと思っていたけど、そろそろか」
「にゃーん」
知ってか知らずか、ドラ猫はそれでも楽し気な鳴き声を上げると、クーデリカが肉球を触りながらロゼへ問う。
「じゃ、じゃあこの子消えちゃうの?」
<うむ。元より存在しないモノだから仕方あるまい>
ハッキリというロザとドラ猫を交互に見て寂し気な表情を見せる一行。そして、アイナが口を尖らせてからロゼに食って掛かった。
「ロゼおねえちゃん、ドラ猫が可哀想だよ! ラース兄ちゃんならなんとかしようとするもん! なんか方法は無いの? それでもドラゴンなの!」
<む、むう……ならサージュと共にロイヤルドラゴンの下へ連れていくか? もしかすると何か知恵を授けてくれるかもしれん>
「行く!!」
「お、おい、アイナ、もしかしたら死んじゃうかもしれないんだぞ?」
「そうだよ、オラが行くよー」
「ううん、アイナが聞いたからアイナが行く!」
「まいったな……」
ドラ猫にしがみついたアイナはデダイトに叫び、ノーラ達が困惑。しかし言い出したら聞かないと、デダイトが同行しようとすると――
<デダイトよ、我が死んでもアイナをここに連れてくる。だからお前はここで皆と訓練をするがいい>
「で、でも……」
「デダイトさん、俺もこいつの産みの親としてついていくから待っていてくれるかい?」
「ジャック君……危険が伴うけど、いいのかい?」
「ああ! 俺もみんなにゃ負けていられないからな!」
「じゃあボクも行くね! それならいいでしょ?」
「くおーん!」
「セフィロにアッシュまで行くのか? ……分かった、ならみんなを頼むよ」
<任せろ>
サージュが頷き、食料等をリュックに詰めていると――
「……パパ、ママ、わたしも行きたい! ロイヤルドラゴン、見てみたいよ!」
ティリアが拳を握りティグレとベルナにしがみついた。
ベルナはびっくりして飛び上がると、目線を合わせて愛娘を撫でながら諌める。
「ええ!? うーん、危ないからだめよぅ……?」
「……いや、ティリアも行かせてやれ」
「え、ティグレ?」
「俺も行く。それでいいだろ? こっちにはファスさんが居る、ならダンジョンは俺だ。いいかロザ?」
<物好きな人間達だ。構わない、ロイヤルドラゴンの退屈しのぎになればいいがな>
目を細め、ロザはそう言って笑うのだった――
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