第四百七十二話 忙しいラース


 「そうか、無事に上陸したか」

 「はい。中には言葉で意思疎通ができないドラゴンもおりますが、幸い言葉が通じるドラゴンと和解できたため、島でしばらく生活しながら修行をするそうです」

 「承知した。騎士達を送るのはしばらく待てと言うのだな?」

 「できれば。人間は島におらず、どういう島なのかよく分からないので調査する人間くらいでしょうか」

 「ふむ……規模は広そうだがどうして最強種が島から出ないのか……」


 俺は謁見の間で国王様へ島のことを報告していた。

 ちなみにリブレ学院長も傍で聞いており、興味深いと言った顔で俺の言葉に耳を傾けている。確かにサージュみたいな例もあるけど、あまり人間の世界で見ないのは学院長の言う通りだ。


 「分かった。ホークやイーグルも行きたいと言っていたから機を見て行くことを頼みたい。ラースはこの後どうするのだ?」

 「オルデン王子達と昼食をした後、バスレー先……大臣と共に地下牢へ行きたいと思っています」

 「明日は?」

 「……? 明日は友人のウルカを連れてガストの町付近の偵察をした後、オーファ国で鍛冶師の下へと行きますが……」


 国王様が何故か俺の予定を聞いてくることに不思議さを感じながら答えていると、少し考えてから国王様は苦笑しながら口を開く。

 

 「フッフ、忙しいなお前は。……実はお前には色々と手伝って欲しくてな。ドラゴンの島から戻ってきたことは僥倖だったのだが」

 「それでしたらウルカを送った後にお話を伺ってよろしいでしょうか? 地下牢の十神者の話を聞いてから戦いに向けて国王様に相談するつもりでした」

 「おお、そうだったか! ではまた訪ねて来てくれ」

 「はい!」


 会話は終わりだと俺は一礼をして下がろうとすると、最後にもう一度声をかけられる。


 「そうだ、昨日ガストの町へ偵察部隊を送り込んだ。志願した冒険者達も一緒に行っている、恐らく五日ほどで到着すると思うので、オーファ国へ行った帰りに確認を頼めるか」

 「承知しました。それでは――」


 謁見の間を後にして息を吐く。

 俺にできることがあればやるつもりだし、時間があればマキナ達の様子も見に行きたい。新しい料理とか差し入れてみるかな。

 そう思いながら扉を閉めると、オルデン王子が手を上げながら通路を歩いてくるのが見えた。


 「やあ、終わったかい」

 「ちょうど出たところだよ、お昼は食堂かな?」

 「ラースの料理でも食べたいところだけどね? ライド王子も唐揚げ気に入っているよ」

 「はは、この後バスレー先生のところへ行かないといけないから料理をする時間は無いんだ」

 「そっか、そりゃ残念……あ、バスレー大臣といえば今朝ラースのご両親が訪ねて来ていたね」

 「え?」

 

 父さん達がバスレー先生に……? 何か聞くことあっただろうかと首を傾げるが、聞いてみればいいかとオルデン王子についていき食堂でお昼を取る。


 「ラースのご両親とてもいい人だよね。僕はライムのお母さんしか知らないし、父と母もそうだったのかなって思う時はあるよ」

 「ウチはお人好しな面もあるけどね。それでも尊敬できる両親だから兄さんも俺も二人のためには色々したいと思っている。ガストの町奪還はそのひとつでもある」

 「ああ、だから積極的に動いているんだね。ラースは争いは好きじゃなさそうなのに不思議だと思ってたんだよね」


 と、話の流れで両親の話になり、ライド王子はやや寂しそうに語ると、オルデン王子は肩がこるみたいな話をして場を和ませていた。

 両親は帰ってこないけど、国は取り戻せるからとライド王子が笑顔で言っていたのは心が痛かったかな……

 

 昼食を終えると俺はその足でバスレー先生のところへと向かい、扉にノックをするとバスレー先生の疲れた声が聞こえてくる。


 「どうぞー……」

 「失礼します……って、凄い弱ってる!? どうしたんだよバスレー先生」

 「お、おお……ラース君でしたか……実は仕事が溜まっていてまだお昼を食べていないんです……ラース君達と居れば三食、自分で用意しなくても食べられていましたから、つい……」

 「『つい』なんだよ……忘れるようなことじゃないと思うんだけど……。今からアイーアツブスのところに行くつもりだけど、バスレー先生はどうする?」

 「……い、行きましょう……ですがその前に……ご飯……ご飯を……」

 「仕方ないなあ」


 俺はストレングスを使ってバスレー先生を抱え、再度食堂へと歩き出す。


 「おおう……楽ちん……ラースハイヤー……」

 「馬じゃないんだから止めてくれ」


 そんな感じで手遅れにならないうちにバスレー先生を食堂へ運び、食事を取ってもらうとようやくまともに話ができる状態になる。


 「ふう……食いましたね。そういえばアイーアツブスのところに行くんでしたっけ?」

 「気持ち悪いくらい食べたし、気持ち悪いくらい元気になったなあ。そうだよ、あいつにも悪魔が憑いているはずだ」

 「……なるほど、外に叩きだせば色々と聞き出せるかもしれませんね。しかし、地下牢でそれは難しいですよ? 悪魔自体強力なので、そのまま国王様を狙われたら倒せないわたし達だけで対処できないですし」

 「ま、そこは考えているよ。レッツェルも呼ぼう、面倒だけどあいつは役に立つ」

 「ですね。監視役のヒンメル兄ちゃんも一緒に連れて来ましょう」

 

 慌ただしく移動する俺とバスレー先生。

 父さんと母さんがバスレー先生に会いに来た経緯は後回しにし、今度はレッツェルを隔離している屋敷へ。……いや、本当に忙しくなってきたな……


 ウチの近くにある家で隔離されている家は騎士達が門番をし、静かな住宅街には似つかわしくない物々しい感じだ。

 中へ入るとヒンメルさんが出迎えてくれ、リビングでアイーアツブスのことを説明する。


 「ええ、構いませんよ。バスレーさんの中の悪魔にも興味がありますし」

 「中の人などいませんよ?」

 「知られてるんだからその言葉はどうかと思うよバスレーちゃん。イルミさんとリースさんも用意をしてもらえるかい」

 「ボクはいつでも大丈夫。くくく……ラースを独り占めするチャンス……!!」

 「私もいいわ。あの脳筋女子に浮気をしていたって言っておくわね」

 「ちょ、離れろリース!?」


 腕に絡みついてくるリースを押しのけながら再び登城するため歩きだす。

 ……ウロウロし過ぎだな。ま、これも町を取り返すために仕方ないか……

 

 そして地下牢へと到着すると、アイーアツブスは拘束された状態で――

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