第四百七十三話 悪魔レディはどっちだ


 アイーアツブスを捕えている地下牢へと到着した俺達は、早々に牢番に道を開けてもらい厳重に魔法結界が張られている一番奥の牢へ足を運ぶ。


 「……フフフ」

 「気分はどうですか、アイーアツブス?」

 

 全員が入るのを確認して牢の入り口を閉めてもらうと、バスレー先生はベッドの上で笑みを浮かべているアイーアツブスに声をかけた。


 「もちろん最低ですよ? 早く私を解き放ってほしいのですが?」

 「出来るわけないだろう。それよりお前に聞きたいことがある。いや、正確には――」

 「お待ちください」


 俺が状況を説明しようとすると、アイーアツブスは手で制してきた。よく見れば顔色が悪く、脂汗をかいていた。

 

 「あの、ホント解き放っていただけませんかね……? そろそろ我慢の限界、というやつでして……」

 「我慢? なんのだ? 捕まって怒りでもしたのか」

 「それはちょっと乙女の口からは……」

 「トイレですね」


 確信を得たとばかりにどや顔で指を突き付け言い放つバスレー先生。生理現象、あるのか……?


 「あああ!? 言いましたね美人の人!?」

 「それがなにか? しかし、大きい方か小さい方……答えによってはこのままですがどっちですかね?」

 「言えるか!? い、いいからお手洗いに行かせなさい……!! この可愛い私が漏らしてもいいというのですか!」

 「断ります。そして、そのことに興奮を覚える者もいる、ということも――」

 「流石に漏らされたら嫌だよ!? バスレー先生とイルミ、リースで連れて行ってくれ」

 「チッ、仕方ありませんね。どうやら大――」

 「いいから! あ、そういう持ち方は感心しませんね!?」

 「うるさいぞ人殺し」


 リースに睨まれてアイーアツブスは黙り込むと、バスレー先生に両腕、イルミとリースに片足ずつ持ち上げられて連行されていった。


 「なんだったのかな?」

 「まあ、少し待ちましょうか」

 「ああ……」


 しばらくして真顔の三人と俯いたアイーアツブスが戻って来て、バスレー先生の話が始まる。


 「気分はどうですか、アイーアツブス」

 「最低、です……まさか用を足す時に三人に囲まれたままじっと見られるとは思ってなかった……」

 

 色々と問題がありそうな状況だったようだけど、先ほどリースが言ったようにアイーアツブスはそれだけのことをしているので同情の余地はない。

 そしてこの茶番を続けるのもしんどいので、俺が口を開くことにする。

 

 「アイーアツブス、ガストの町でお前の仲間である十神者と会ってきた。結局、町は取られたけどお前達の正体を知ることができた」

 「……ほほう、はったりにしては面白くない話ですねえ?」

 「お前達が悪魔だと知っているとしてもか?」

 「……」


 俺の言葉にうっすらと口の端を歪めて目を細めるアイーアツブス。


 「悪魔、ですか。しかし教祖様は人間ですよ? 私達を――」

 「シラを切っても無駄だ『リリス』。お前の正体はすでに分かっている」

 「……!?!?? あ、ががが……!?」

 「これが……!?」


 冷静にこいつの真名を口にすると泡を吹いて苦しみだし、ベッドの上で喉を抑えてのたうち回る。そして、他の十神者動揺、黒い靄を口から吐き出した。

 それは徐々に形を作り――


 『フ、フフフ……まさか、悪魔の名だけでなく私の名前まで言い当てるなんてね。その通り、私はリリス。【不安定】のリリス。……それを知るあんたは何者なのかしら?』

 

 濃い紫をした短い髪に、色白すぎる肌は水着のようなブラとショーツだけつけている。

 それだけなら露出狂の女で済みそうだけど、背中には蝙蝠のような羽が一対くっついていた。

 そんなリリスは赤い瞳を俺に向け、試すような視線を送ってくる。


 「おい痴女、質問するのはこっちだ。お前達はこの世界の存在ではないことは知っている。どうしてこの世界に存在しているんだ? それに教祖は人間だと言ったな? お前たちの力は強大のようだけど、悪魔のお前たちが人間に従っているのはどういうことなんだろうな?」


 リースがポケットに手を突っ込んだままリリスの目の前に立ち、確認するように言う。俺も聞きたかったことを一気に聞いてくれた感じだ。


 『それは言えないわね。守秘義務ってやつ? アハハ、喋らないわよ私は。痴女なんて言われちゃあねえ? それに喋ったらどうなるか分からないし……ぶべ!?』

 「ぺらぺらとよく囀る口ですねえ。ラース君、セフィロちゃんを呼びましょう。殺していいんじゃないですかね? どうせみんな殺るんですし」

 

 挑発するように高笑いをしたリリスの顔を平手打ちし、顔が九十度に曲がる。

 

 『な、なに――』

 「うるさいですよ、ダメージは通るので死んだ方がマシだと思える拷問は覚悟してくださいね?」

 

 笑顔のバスレー先生はリリスの髪を掴み目線を合わせる。そんなリリスは鼻血を出しながら青い顔で口を開く。


 『ちょ、可愛い私の顔に傷がついたじゃない……!! 殺してやる……あ、あ、すみません……へぶ!?』

 

 思わず目を背けたくなる残虐非道ぶりに俺は目を背けたくなる。だが、素直に話をしてくれるまではこういった行為も辞さないと考えていたので仕方ない。


 「ラース君、なにをしているんですか? 【召喚】で呼んでください』

 「あ!? お前、レガーロだな、いつ入れ替わった……」

 『おっと、ばれましたか……イシシシ。先ほどお手洗いに行ったあたりですかねえ?』

 『レ、レガーロ……? ま、まさか……!?』

 『おっと、アタシのことは言わなくていいんですよ? これ以上可愛い顔を腫らしたくはないでしょう? アタシ達の聞きたいことだけを話して……頂けますかね? イシシシ』

 『くっ……!』

 

 リリスはだらりと下がった両手から黒い靄を出して俺達に向けようとしたが、その前にレガーロがその手を……握りつぶした。


 『ああああああああ!?』

 『あなたは他の悪魔と違って戦闘力はそれほどありませんからね。アタシでも制圧するのは難しくない。そしてここにはセフィロトを呼べるラース君が居ます。さて、話してくれますかねえ?』


 レガーロは口を三日月の形に歪めながら髪の毛を引っ張り問う。リリスはカタカタと震えながら頷いた。


 『わ、分かりましたぁ……命ばかりはお助けを……お望みなら体も差し出しますぅ……』

 『よろしい。では、すみませんがラース君、治療をお願いします」

 「今、バスレー先生に戻ったな? <ヒーリング>」


 床に尻もちをついたリリスの前に膝をついて回復魔法を使うと、すぐに傷は塞が……らなかった。


 『あうあああ!?』

 「あれ!?」

 「あ、レガーロがラース君の血を一滴上げれば治ると言ってます、間違えちゃった、えへ、だそうです」

 「よっぽど恨みがあるんだな……これでいいのか……?」

 『……はあ、はあ……う、うまい血だわ……ふう、死ぬかと思った……』

 「はっはっは、意外とタフですね。それじゃ、そろそろ教祖について話してもらいましょうか? あの男には不審な点がたくさんありますから」


 リリスの傷がすっかり塞がると、レッツェルが手を叩きながら俺達に並びたちながら言う。

 

 『仕方ないわね……その代わり、私の身の保証はさせて欲しいわ』

 「……いいだろう。サンディオラに見舞いはしてもらうけどな」


 そしてリリスは再びベッドに腰かけ、俺達に語り始める――

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