第四百七十話 名前は重要


 「あ、凄い!」

 「うん、広々としているね! アッシュ達が運動できそうだよ」

 「くおーん♪」


 トカゲドラゴン……ラプトールドラゴンに乗って森を進んでいると、しばらくして開けた場所に出た。程よく草があり、眠そうな顔をしたドラゴンがもそもそと草を食べているのが見える。


 <そうだろう、そうだろう。私達ドラゴンなら森を切り開くのなど容易いこと>

 「でも家は無いんだな?」

 <……基本的に人型になる必要が無いからな>


 マキナとルシエールがきれいな広場を見て感嘆の声を上げると、バーンドラゴンは得意気に胸を張る。しかしジャックの一言で頬を膨らませていた。

 見た目は美女だけど、割と子供っぽいところがあるのかもしれない。


 <しかしここなら我も体を伸ばすことができる。大型ドラゴンのためにあるのだろう>


 サージュがそういうと、バーンドラゴンは三白眼を見開き、口元に笑みを浮かべながらサージュの足をぺちぺちと叩きながら言う。


 <おお、そうだぞ! さすがは同胞分かっているじゃないか>

 <や、やめんか>

 「んじゃ、ここで色々教えてくれるのか?」

 <そうだな、ここから奥はダンジョンがあるし、こっちは湖だ。島の中心はまだまだ先だが、人が生活するならここが最適だろう>

 「そっかー。ならここでお別れかなー? ありがとうねー、コウ君」

 「クルォゥン♪」

 <……コウ君?>


 ノーラがラプトールドラゴンから降りて微笑みながら首を撫でてやると、嬉しそうに鳴く。だが、その様子を見てバーンドラゴンが訝し気な目を向けていた。


 「あ、名前つけてあげたんだけどダメだったかなー? ここに来るまでにみんなで考えたんだよー!」

 「ノーラが言うにはこいつ雄らしいから、私のはブルザってつけたわ!」

 「わたしはトゥエルちゃんねぇ」

 

 ルシエラとベルナ先生もノリでつけてやったらしい。するとリューゼもドラゴンの首後ろを撫でながら言う。


 「こいつは気が強そうだからヴァルカンだ! ティグレ先生のやつと兄弟らしい」

 「デルカイトってつけてやったぜ!」

 <うぬぬ……!>

 

 楽し気なみんなを見て、バーンドラゴンは歯噛みをして呻き、恨みがましくラプトールドラゴンを睨むと、ラプトール達はビクッと体をこわばらせた。


 「お前達にもつけた方がいいのかな?」

 「デキルならオネガイシタイ。つがいとイッショに」

 「じゃあ――」


 と、俺が口を開こうとしたところでバーンドラゴンが地団太を踏み暴れ出した!?


 <なんで私より先に名前をつけてもらってるのよっ!! ここまで案内したし、戦って分かり合った私が先でしょう!!>

 「ええー……」

 

 美人ドラゴンはそんなことを言いながらポツポツと火を口から出し、俺達は慌てて距離を取る。そこへアイナが近づきバーンドラゴンの手を取り合ってぶんぶんと振りながら尋ねた。


 「ドラゴンおねえちゃんはお名前が無いのー?」

 <うむ、そのラプトールは群体として生息するが、私や古代竜のような種は存在そのものが長生きなのであまり繁殖をする必要がない。恐らく世界のどこかに散っているだろうが、この島でバーンドラゴンは私だけだ>

 「ああ、個体として認識できるから名前が必要ないってことか」

 <そういうことだ。しかし、バーンドラゴンとは呼びにくいだろう? ほら、私に名前をつけるといい>

 「自分で名のればいいのに……」

 <我もそう思う>


 ジャックとサージュが呟くと、バーンドラゴンは二人を指さし激高する。


 <自分で名乗るのは恥ずかしいでしょうが! 自分で『●●ですぅ』とか人間でも言うまい!>

 <お、おお……>

 「まあ、確かに父ちゃんとか母ちゃんに生まれた時つけてもらうか……」

 <そうだろう、そうだろう>


 得意気に鼻を鳴らすバーンドラゴン。

 このままじゃ話が進まないかと思っていると、アイナが俺に言う。


 「ラース兄ちゃん、つけてあげようよ!」

 「俺が? 女の子だし、マキナやルシエールの方がいいんじゃないか?」

 「そう? クーデリカは可愛い名前をつけそうだけど」

 「わたしでいいのかな? バーンドラゴンさん、どう?」


 クーデリカが尋ねると、バーンドラゴンは顎に手を当てて考えた後、俺に言う。


 <ふむ、可愛いのも悪くないが、強き名が欲しいな。先ほどの魔法といい、人間の中ではお前が一番強そだ。頼めるか?>

 「そっちがいいなら俺は構わないよ。……そうだなロザ・ムーナ、なんてどうだ?」

 <悪くはないな! だが、少し語呂が悪い気がする>

 「うーん、なら縮めてロザは?」

 <ロザ、ロザか……うむ、いいな! 皆、私はこれからロザだ。よろしく頼む>

 「わーい、ロザおねえちゃんだ!」

 <うむ、ロザだ。お前の兄はなかなかセンスがいい>


 バーンドラゴン、改めロザはアイナを高く抱き上げ、満面の笑みで自分の名を口にすると、俺達へ目を向けて話し出す。


 <このドラゴンの棲む島でなにも変化なく暮らしていくと思っていたが、存外、他種族と触れ合うのも面白いものだな。私も三百五十年は生きているが、人間が来たのは初めてだったしな>

 <なに!? お前、年下だったのか!>

 <ほう、サージュはいくつなのだ?>

 <我は五百年は生きているぞ>

 <なるほど、それは確かに……>

 「あ、でもサージュって十年くらい前まで封印されていたんだよー」

 <こら、ノーラ余計なことを言うんじゃない! ……? どうした、ロザ>


 からかわれると思っていたらしいサージュが、封印と聞いて神妙な顔になるロザに声をかけると、ロザはハッとした顔で首を振る。


 <いいや、なんでもない。さて、それじゃ私の名前も決まったし、お前達の目的をもう一度聞かせてくれるか? サージュの人化はダンジョン内に居るロイヤルドラゴンのところへ行くとして、人間たちだな>

 「他にもドラゴンが居るなら色々頼みたいところだな、それじゃ俺からだ」


 口火を切ったのはティグレ先生。

 そして兄さんやリューゼ、ジャックと続き、ロザに各人の目的を告げていく。真面目な顔で全てを聞くと、ロザは腕組みをしてから口を開いた。


 <よし、少し時間がかかりそうだ。まずはここに家を作ろうぞ。テントでもいいが、しばらく滞在するならアリだろう。転移魔法陣で戻るよりここで緊張感を持った方がいいだろうしな>

 

 そうして、まずは拠点づくりからスタートするのだった――

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