第四百六十九話 人間の意地
「お、終わった、のか……?」
刹那の沈黙の後、リューゼが喉を鳴らして口を開く。
信じられないが目の前にはボロボロにされたサージュが横たわり、満身創痍だとはいえサージュを倒したバーンドラゴンが立っていた。
今まで俺達の中では最強を誇っていたドラゴンが、ここまで惨敗するのを見るのは初めてだ。こいつがこの島でどの程度の強さか分からないけど俺達が全員でかかって倒せるかというレベルじゃないか……?
下手に動けばバーンドラゴンが火を吐いてくるのと、ティグレ先生が動こうとした瞬間、トカゲに似たドラゴンが動き出そうとするのでサージュとバーンドラゴンの一騎打ちになったのだが――
<う、ぬ……恐ろしいやつよ……私との戦力差は二ドラゴンはあったはず。ここまで手傷を負わされるとは思っていなかった……>
サージュがかなりダメージを与えたおかげでバーンドラゴンは今なら倒せそうだ。油断している今なら行けるかと思った瞬間、アイナが駆け出していた
「サ、サージュ、動かないよ? し、死んじゃったの? ……うわああああああ!」
「あ、待てアイナ! ラディナ、シュナイダーついてこい!」
「くおーん!!」
「グルゥ!!」
「ガルゥゥゥ」
「俺達も行くぞ!」
俺は転移魔法でアイナの下へ。そこでアイナはバーンドラゴンへ魔法を放った。
「サージュの仇!! <ハイドロストリーム>!!」
<む……?>
アイナがハイドロストリームを使えることにも驚いたけど、それをバーンドラゴンが手のひらでガードするだけで霧散したのも驚愕する。
「近づくなアイナ! あいつの皮膚は、恐らく熱を持っている」
「うううう……! サージュを返せぇぇぇ!」
もう半泣きのアイナが叫びながら魔法を連発する。
しかし、手のひらで魔法を防ぎ、バーンドラゴンには届かない。すると目を細めて俺達に話しかけてきた。
<小さき人間達よ、私には勝てんぞ? それでもやると言うのか>
「……当たり前だ。サージュをこんな風にしてくれたお礼はしないとね。勝つとか負けるとかじゃない、意地の問題だ」
「ラースの言う通りだぜ、友達がやられて無視できるかってんだ! ……くそ、膝が笑いやがる、落ち着け俺……」
リューゼがそう言うと、ティグレ先生やマキナ達もそれぞれ口を開く。
「言っとくがタダじゃやられねえぞ。その首はもらっていく」
「私の本気で撃つカイザーナックルをお見舞いしてやるわ……!!」
<……人間風情が威勢のいいことだ。ふむ、その古代竜はまだ生きている。お前達がトドメを刺すなら、見逃してやってもいいぞ?>
「てめぇ……!!」
ジャックが激昂した声を上げる。
俺はわずかに口元を歪めたバーンドラゴンを見て怒りが加速した。
「遊んでいるつもりか……! こっちはお願いに来ただけだってのに、喋れると言っても魔物は魔物なんだな!! 食らえぇぇぇ! <ドラゴニックブレイズ>!」
「あ、あらぁ……!? い、今までとは比べ物にならないくらいの魔力……!!」
<こんなもの……お、おお……!?>
バーンドラゴンは受け止めようとしたが、その手を切り裂き胴体へ突き刺さった。その直後、トカゲドラゴンが俺達に向かってくる!
「シャァァァァ!」
「く、来るの! 私は強いわよ!」
「お姉ちゃんの援護は私が!」
「動きが速い、よく見るのじゃぞ!」
各自臨戦態勢に入るのを見ながら、俺はどこかのタイミングでサージュを治療し離脱することを考える。だが、その思考はバーンドラゴンの叫びでかき消されることになる。
<止めんかお前達!>
「きゃあ!?」
空気を切り裂くかと思うほどの声で俺達はすくみ、トカゲドラゴン達もピタリと立ち止まる。
そして――
<フッフッフ、面白い人間達だ。古代竜をボロボロにしてやったというのに、命乞いどころか殺しに来るとはね>
「あ!? 小さくなった!」
「くおーん」
<ちびっ子、いい気迫だったわ。どうやっても勝てない……だけどこの古代竜、サージュのためにというのは心に響いた>
「に、人間になれるのか……」
俺は冷や汗をかきながら呟くと、人型になったバーンドラゴンは傷ついた左腕に魔力を込めながら笑う。
<そうさ、それくらいは容易いものよ。……むん! ふう、ここまで痛めつけられたのは久しぶりね、相当魔力を使ったわ>
「治った……不死身かよ……」
<そうではないぞ少年。私とて心の蔵を貫かれれば死ぬ。ただ、ドラゴンは死にさえしなければ再生能力がある。そこの緑の髪をした子供のようにな?>
ジャックの言葉に、バーンドラゴンはセフィロを見ながら口元に笑みを浮かべてそんなことを言う。さらに続けてバーンドラゴンは拍手をしながら俺達へ告げた。
<合格だ。お前達はこの島に上陸する権利を得た! いいか貴様等、この客人は私が相手をする! 手を出すことは許さん!>
「うおお!?」
直後、トカゲドラゴン達が一斉に吠え、バーンドラゴンの声に応え、そのまま森の方へと帰っていく。
「サスガだな、バーンドラゴンさまにミトメられるとは」
「ムウ……このオレがやられるとは……」
<はっはっは、そこに居る人間の何人かは間違いなく強者。地上戦ならお前達では勝てんぞ。ほら、さっさと目を覚ませ古代竜!>
「あ、ちょっと待てよ! <ヒーリング>!」
サージュを蹴飛ばす人型バーンドラゴンを止めて回復魔法を使うとサージュの傷は消え、少ししてからゆっくり目を開けた。
<むう……我は……ハッ!? ヤツは!?>
<よう、起きたか同胞>
<き、貴様……まさか……>
<ああ、さっきまで戦っていたバーンドラゴンだよ。ほら>
尻尾は変化できないのか、ピコピコと動かし証明すると、サージュは起き上がり口を開いた。
<人化の方法、やはりあるのか>
<ああ、教えてやる。それと、人間達と……魔物、お前達もな>
「マジか……!」
リューゼが色めき立った声を上げるが、バーンドラゴンは不敵に笑い続ける。
<……死んだ方がマシだった、と思うかもしれんがな? はっはっは、楽しみだ>
「だ、大丈夫かな……?」
「まあ、上機嫌だし多分……最悪サージュと逃げるか、こっそり転移魔法陣を作るよ」
<なにをしている? ……ああ、移動手段は必要か>
バーンドラゴンが口笛を吹くと、先ほどのトカゲドラゴンが人数分やってきて俺達の前に屈む。
「乗っていいの?」
「クルォォォ!」
「いいみたいだよー! オラこの子にするねー」
「鱗がごつごつしているね、うん、サージュとはまた違ってカッコいいかも?」
マキナとノーラがまたがると、重さを感じさせずスックと立った。兄さんはちょっと嬉しそうだ。手綱とかあると乗りやすそうだなと思っていると、
「アイナはラディナに乗るからいいよーありがとう!」
「わ、私はお姉ちゃんと乗るから……」
「行くわよー! あははは、いいわね依頼を受けるとき、馬車の代わりに欲しいかも。強そうだし」
「グルォォン!」
ルシエールやアイナはそれぞれ別に移動手段を持ったため、数頭はガッカリしていた。
「仕方ない、俺が乗るか」
「いや、オヌシはワガハイにノレ」
「え、ワイバーン? いいのか?」
「ウム、ツヨキモノにまけたのだ、シュジントシテフサワシイ」
「なら遠慮なく……」
「ラース、いいわねー」
「悪くないね」
低空飛行もお手の物らしいワイバーンがマキナの横を通り、マキナが手を振ってきたのでそれを返し前を凄いスピードで歩くバーンドラゴンについていく。
さて、何を教えてくれるのやら? そんなことを考えながら、森の中を進むのだった。
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