第四百六十八話 最強種の考え


 真っ赤な鱗は陽に照らされ、バーンドラゴンという名に相応しい体躯をしていた。

 地上に降り立った瞬間、俺達の前に立つサージュよりも少し大きいかと思いながら眺めていると、バーンドラゴンが口を開いた。


 <我らが同胞がここに来るのは有り得ない話ではないが、まさか人間も居るとはな。この島に何の用だ?>

 

 女性の声で、サージュと同じく流暢に言葉を並べ、爬虫類のような目を細めて俺達へ問う。それに対し、サージュは一礼をして話し出した。


 <突然の来訪、失礼する。我の名はサージュ、目的があって友と一緒にやってきた。今、我が友が窮地に立たされているのだが、この姿では満足に戦うことが難しい。小さくなればとも思うが、それでは全体の攻撃力の低下を招いてしまう。そこで、このドラゴンが住まう島に人化の方法を知るものが居ないか確かめに来た次第。何か知恵がないだろうか?>


 サージュは淀みなく、真っ直ぐにバーンドラゴンを見据えてハッキリと言う。

 すると少しの沈黙の後、バーンドラゴンは静かに語りだした。


 <お前は古代竜だろう? ドラゴンの中でも上位種ともあろうお前がなぜ人間を友と呼び、厄介ごとの解決を図ろうとする。高貴な存在が、人間などという吹けば飛ぶようなちっぽけな存在のくせに世界を支配するチグハグな者達など捨て置けばよかろう>

 

 フン、と鼻を鳴らし俺達を文字通り見下してきたので、あまりの言い草に俺達は声を荒げた。

 

 「言ってくれるね、これでもサージュや悪魔を相手にしているんだ。ちっぽけか試してみるか?」

 「そうだぜ! やるってんなら相手になるぞ!」

 「オラは戦いたくないけど、サージュを馬鹿にするならやるよ!」

 「サージュはウチの家族だからね!」


 俺が前へ出てバーンドラゴンに言うと、リューゼやノーラ、兄さん達も並び睨みつける。そこでティグレ先生も不敵に笑いながら指さす。


 「てぇこった。俺達はここに修行を兼ねて来ていてな、お前が相手になってくれるなら願ってもねえ」

 「うむ。お主、そこの翼竜よりも強いじゃろう?」


 ファスさんも挑発するような口調で片手を握り、指を鳴らす。すると――


 <人間風情が生意気を言う。あいにく、弱者を相手にするほど暇ではないのでな。……ふむ、いいことを思いついたぞ。サージュとやら、人化の方法教えてやらんでもない>

 <ほ、本当か! 是非頼む!>


 サージュが歓喜の声を上げると、バーンドラゴンは口元を歪め、とんでもないことを言い出した。


 <……では、今そこにいる人間どもを殺せ>

 <!?>

 「な、なにを言い出すの……!?」

 <困っているのは国なのだろう? サージュ、お前には人化の方法と今よりも強大な力を分けてやる。人間どもは修行、と言っていたが人間の努力よりもはるかな高い能力をだ。そうすれば国は救えるぞ? なに、多少の犠牲は止むをえまい。人間たちも目的が遂げられれば本望であろう>

 「そ、それは……」


 ルシエールが言葉につまりながら言い返そうとする。だが、それよりも先にサージュが首を振り、バーンドラゴンへ言う。


 <……先ほどデダイトが言ったが、我は家族であり友達だ。それはドラゴンも人間も関係ない。たった一頭の我を快く迎え入れてくれた友を殺すなどできるわけがない。……せっかくここまで来たが帰ろう。初めて別のドラゴンと出会ったが、これほど薄情だとは思わなかった>

 「いいの? この島に居るのが殆ど仲間だと思うけどこんな別れ方で。私達はラースの転移魔法陣で帰れるし、このままここに住んでもいいんじゃない?」


 寂しそうな眼をして踵を返すサージュに、ルシエラが冷たく言い放つ。

 このままここで、というのは本心ではないだろうが、同じ種族が喧嘩別れをするのを良しとしなかったのだろう。……妹のルシエールと和解したルシエラならではの言葉かもしれない。


 <良い。我にはお前達が居る、寂しいことなどあるものか>

 「アイナがずっと一緒にいるよ! あんな分からずやとはバイバイしよう!」

 「くおーん!」


 アイナとアッシュも足元でぐるぐる回りながらサージュに言うと、目を細めて笑う。こいつは本当に俺達が好きなんだなと心が温かくなった。


 「いい修行相手になると思ったんだがな」

 「まあ、ワシらの組手を考えてもよかろう。セフィロの実を食べられるようになるまで鍛え上げれば――」


 サージュが疎まれるなら俺達はこの島に用は無いかと帰宅した後のことを話し合う。慌てて着地したため転がったゴンドラを直そうと近づいたその時、黙っていたバーンドラゴンの口が大きく開いた。


 <はあ!>

 <なんだと!? 貴様ぁ!!>

 「<オートプロテクション>! みんな俺の後ろに!」

 「う、うん!」


 なんとバーンドラゴンが巨大な火球を撃ちだしてきたのだ!

 すぐにバリアを張り、みんなを庇うとサージュが火球を片手で弾き飛ばしてくれた。


 「きゃああ!?」

 「落ち着けナル。大丈夫だ!」

 「あいつ、いきなりなにすんだ!?」


 それでも破片は飛んできたので、オートプロテクションは張っていて良かったと安堵する。だけど今はバーンドラゴンだ!


 「危ないだろ、なにをするんだ! 俺達は帰るって言ってるだろ?」

 <人間よ、生きてここから帰すとは言っておらんぞ? おお、そうだ。お前達を倒し、このまま地上に侵攻しようか。そうすればお前達の懸念も解消される、いいことではないか>

 「こいつ……!」


 ケラケラと笑うバーンドラゴンに怒りを覚える。それはみんなも同じだったようで、それぞれ武器を構えて睨みつける。


 先制を仕掛けるかと魔力を集中させていると、サージュが先に動いた。


 <我やラース達を貶めるだけならず、殺そうとしてくるとは言語道断! ラース、転移魔法陣で帰れ。我はこやつを叩きのめしてから戻る!>

 <馬鹿め、古代竜といえども人間と暮らしていたような軟弱者が私に敵うはずが――>

 <うおおおおおお!>


 サージュが感情的に叫ぶのを初めて聞いた気がする。

 足を踏み出し、右腕で殴りつけると、バーンドラゴンはそれを受け止めようと手をかざした。しかし、振りぬいたサージュの拳は受け止めようとした手ごとバーンドラゴンの体を浮かせた!


 <ぬぐ……! 私が受けきれなかっただと!>

 <まだだ……友を殺そうとした貴様を許すわけにはいかん!! ……ぐお!?>

 <調子に乗るな! ‟バーストフレア”>

 「サージュ!」

 <案ずるな! はあああああ!>

 「凄いわ、呼吸で炎を裂いた!」

 <やるな……どうやら甘やかされて育ったわけではなさそうだ、少々本気で行かせてもらおう>

 <来い!>

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