第四百六十六話 竜の棲む地へ
「気を付けるのよ? 帰ってくるまでが遠足ですからね」
「はーい!」
「いや、母さんそんなに緩い場所じゃないんだけど……」
母さんの言葉と、ラディナの背に乗り、虫取り網を元気よく振り回して返事をするアイナにため息を吐きながら返す。もうテイムした魔物とかそういう感じでなく友達という感じだ。
俺達家族はすでにガスト領の人達が集まる居住区に集まっており、後は出発メンバーを待つばかり。
マキナを連れていくことについてはファスさんとマキナの両親の下を尋ねて説明をし、許可をもらっている。基本的に俺とファスさんが居れば大丈夫だろうという今の母さんくらい緩いものだったから一層気を付けないといけない。
……だけど、俺はその竜の棲む島へ行った後、こっちに帰ってこないといけないからそれができないのが心苦しい。まあ、マキナも守られるより自分で切り開くタイプなのでそこは無茶をしないと思いたい。
「ノーラとサージュが居ればドラゴンと会話できる可能性は高いし、大丈夫だと思いたいけどね」
「うんー! オラ頑張って修行相手になってもらうよう話すよ」
「他に魔物が居ないといいけど、みんな強いし大丈夫かな?」
「僕もラースみたいに強くなって帰ってくるよ」
兄さん達とそんなことを話していると、竜の棲む島へ向かうメンバーが集まってくる。
「お待たせ! あら、アイナちゃん可愛い服ね」
「あ、マキナちゃんだ! えへへー、ティリアちゃんに見せるんだよ!」
「くおーん」
「はいはい、抱っこ? アッシュ達も行くのね?」
「わふ」
「俺も家を空けることが増えそうだからね。未知の島ならテイマーのルールも無いだろうし、たまにはマキナ達と一緒に広いところで過ごしてもらいたいと思ったんだ。お前達、俺が居なくても大人しくしろよ?」
俺が声をかけると、三頭は元気よく返事をした。
ちなみにロックタートルはその気が無いらしく、馬小屋であくびをしながら丸くなっていたので置いて来た。あいつは自由だな……
「よう、来たぜ! ドラゴンと修行だってな! クソ医者もたまにはいいこと言うな」
「うふふ、わたしも久しぶりに魔法の訓練をするつもりよぅ」
「アイナちゃんおはよう!」
やって来たのはティグレ先生一家で、続いて――
「お前、荷物多すぎだろ!?」
「うるせえ、テントとか必要だろうが!」
「喧嘩しない!」
リューゼとジャック、ナルがやって来て、ルシエールとルシエラの姉妹とクーデリカがやってくる。
「来たよラース君!」
「結構大人数になったわねえ。……ねえ、ルシエール、その恰好で行くの?」
「え? もちろんだよ! 私の【ジュエルマスター】で鉱石を見つけるんだもん!」
「凄い乗り気だわ……」
マキナが苦笑していると、ルシエールは笑顔で『普段お家のお手伝いしかしていないから、楽しみなの』と返していた。
うーん、母さんじゃないけど遠足気分は大丈夫だろうか……。リューゼやマキナみたいに日常的に戦う人ならいいんだけど。
「ごめん、遅くなったかな?」
そこでウルカも登場し、一旦全員揃ったかと思ったところで、ウルカが口を開く。
「ごめん、僕は今回見送りだけ。ちょっとヨグスを探そうと思ってるんだ。ルツィアールにいるみたいだからね」
「そういえばそんなことを言っていたっけ」
「ヨグスに会ったら、そのままアルジャンさんのところに行くつもりだから帰ってくるのは少しかかるかも?」
「え? ウルカが行くのか? 装備は壊れてないだろ」
リューゼが方眉を下げて尋ねると、ウルカはスケルトンを呼び出して続ける。
「おおう!? びっくりした!?」
「わ、ホネホネだ! すごいねアイナちゃん」
「うん、どうやって動いているんだろう」
「お、おお……拙者が怖くないのか……?」
急に現れたスケルトンに大人たちはびっくりするけど、子供たちは興味津々と言った感じで逆に近づいていく。強い。
「知っている人が多いと思うけど、いつも僕を助けてくれたオオグレさん。彼が腕のいい鍛冶師が居ないかって言うからさ」
「ああ、あの時は助かったよ」
「労いの言葉、かたじけない。鍛冶師が必要なのは他でもない、拙者の武器を鍛えなおしていただきたいと思っているのですよ」
そう言って持っていた剣……いや、刀か? それを持ち上げる。それをティグレ先生が見て目を細める。
「……業物だ、でも刃がボロボロか。確かにこいつを修復できる鍛冶師はそう多くない。アルジャンならあるいは、というところだな。故郷はどこなんだ?」
「拙者は『モミジ国』という南の方にある国出身でしてな、武者修行として世界を歩き回っていたところ……ん? 何故拙者は死んだのだ?」
「知るか!? まあ、でも結構遠いな。サージュならすぐ行けそうだけど、あそこって外国人を入れるのを渋るって聞いているからドラゴンで飛んで行ったら確実に戦闘になるだろうな」
ティグレ先生はその国を知っているそうだけど、教科書には載っていなかったから国交というものが無いのかもしれない。
しかし、オオグレさんの持っている武器が刀ならその国にも興味はある。いつか行ってみたいものだ。
「まあそんなわけで僕は別行動をするね」
「ああ。サージュに飛んで行ってもらってからは難しいか?」
<我は構わんぞ>
「ううん、ちょっとガストの町がどうなったかも見たいし、サージュ達は早いところ修行に入っちゃってよ」
<すまぬ。では、早速行くとしよう>
サージュが頭を下げた後、俺達はいつものゴンドラに乗り込む。すると、見上げていた父さんが俺に言う。
「気を付けてな、俺は先に城で話をしてくる、ラースは帰ってきたら俺のところへ来てくれ」
「うん、悪いけど頼むよ。国王様にも話をしないといけないし」
「おとうさーん、いってきまーす!」
「こら、身を乗り出したら危ないだろ」
アイナが縁に掴まって手を振るのを、兄さんが諫めているとサージュはゆっくり上昇。そして、レッツェルが言っていた方角へと飛行を始めた。
「楽しみだねー」
「うん!」
「ドラゴンの島に行くのに嬉しそうって凄いわね……」
「え? でもサージュもドラゴンだし、大丈夫じゃないかな?」
ある意味ルシエラが正しいのだけど、確かにサージュをずっと見ていたノーラやルシエールの気持ちもわかる。
賢いドラゴンも多いようだし、お手合わせをお願いする形になればいいと思っていた。
だけど、それらしい島に近づいたとき――
「グルルル……」
「あれ、どうしたのラディナ?」
「くおーん……」
「グゥゥゥゥゥ……!」
ラディナとシュナイダーが毛を逆立てて唸りを上げ、アッシュは俺の懐に飛び込んできた。
――そして
<チッ!>
舌打ちしたサージュが急に体を動かし、俺達は大きく揺らされた。リューゼが縁を掴んで叫ぶ。
「うわ!? ど、どうしたんだ!?」
「下から火球が飛んできたぞ!?」
「<レビテーション>」
「ラース!」
俺はゴンドラから飛び降りて眼下を見ると、ドラゴンと思わしき生物がこちらに向かってくるのが見えた。
「サージュ、俺が援護するから急いで降りろ! 戦闘になってみんなが落ちたらことだ」
<承知した!>
「ギャァァァァ!!」
「……来るか!」
俺はドラゴンに手を向け、戦闘態勢に入った。
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