勝利の鍵を掴むために
第四百六十五話 決意と緩急
「ファスさん、本気?」
「うむ。マキナはどうする?」
どうやらファスさんは本気でサージュと共にドラゴンのダンジョンへ行くらしい。話を振られ、マキナは目を丸くして答えた。
「わ、私? ……そうですね、悠長なことを言っていられないから師匠にお供します」
「決まりじゃな。サージュ、早い方がいい。準備をして明日にでも出発するぞ」
<そうだな>
「雷撃だけあって早い!? なあ、俺も着いて行っていいか?」
そこでリューゼが手を上げて動向を求めると、ファスさんが口を開く。
「構わんが、命の保証がない場所かもしれん。それでもいいのかのう?」
「マキナも同じ条件だ、それは構わないぜ。ラースも行くだろ?」
「もちろ――」
俺が頷きかけたところで、バスレー先生が首を振って口を開く。
「申し分ないですが、ラース君は行かないでもらいたいです。マキナちゃんのことは心配ですが、今後の戦いに向けてアドバイスなどをいただきたいと思っています」
「ちょ、ちょっと待ってよ先生。別に俺じゃなくてもいいと思うんだけど……」
「いえ、リースとイルミから聞きましたが……あの悪魔達の正体を看破した君には色々聞きたいことがありましてね。地下牢にいるアイーアツブスの正体を当ててもらうのと同時に、ね」
「お、そ、そういや何でラースはあいつらの名前が分かったんだ……?」
ジャックがあの時のことを思い出し、俺は胸中で舌打ちをする。考えが当たっているか咄嗟に口にしたのがここで枷になるとは思わなかった。
「な」
「な?」
「……なんかパッと頭に浮かんだんだよ」
「雑な言い訳だなあ……ラースにしては……」
ウルカが呆れてそう言い、俺は言葉に詰まる。すると、眠っていたはずのレガーロが急に喋り出した。
『ああ、その件ですがスキル【超器用貧乏】のせいですね。イシシシ……アタシが直々に渡したスキルなので、そういうことでしょう。ほら、ひ……ラース君は規格外ですし』
「な、なるほど……? ラースの力はあなたの仕業だったのか……」
「もっと普通のでも良かったのに……」
レガーロがいいフォローをしてくれ、父さんが汗を拭い、母さんが口を尖らせる。
『普通のスキルだったらもっと最悪な形になっていたかもしれませんからねえ。まあ、そのせいでアレと関わることになったのは心苦しいですが? イシシシ。では、アタシはこれで……』
「あ、もうちょっと話を!?」
父さんが止めようとするが、すぐにバスレー先生に戻り口を開く。
「いよいよ限界だったようなので眠りにつきました。これはラース君のハンバーグを食べないと回復しません」
「局地的だな……」
「二人分のエネルギーを確保しないといけませんからね。さて、それではご飯にしましょうか、そろそろ食材も届くはずですし」
バスレー先生が得意気にそう言うと、話の途中だったリューゼが口を開く。
「とりあえず俺は行くからよろしく頼むよ」
<まあ知らん仲ではない。しかし未知の領域だ、ラースが来れないなら――>
「え? 別に来れなくはないわよね?」
サージュが俺は行けない旨を聞いて友達を心配していると、マキナがキョトンとした顔で言う。そこでルシエールがポンと手を打って口を開く。
「あ、そうか! そしたら私もクーちゃんも行けるかも? サージュと一緒にラース君が飛んで行って、転移魔法陣で王都と繋げたらいいんじゃないかしら?」
「あ」
ルシエールがそう言った瞬間、数人が間の抜けた声を上げた。確かにそうすれば自由に行き来が出来るし、危なくなったら帰って来れる。するとバスレー先生が目を泳がせながら言う。
「……それで行きましょうか! わ、忘れていたなんてことありませんからねえ?」
「うん、大丈夫。俺もそれを思いつかなかったから、多分疲れてるんだよ……」
「秘境にも行き放題か……やっぱりラースはずるいよなあ。おかげで面白くなりそうだけど」
「あー、珍しい場所ならヨグスを連れていきたいね。新しい発見をしてくれるかもしれないよね」
「みんなで行くなら鉱石とか掘れないかな? 探してみようかな」
「あ、あんた危ない場所だって言ってるじゃない……」
いつでも戻って来れると聞くや、ジャックやウルカ、ルシエールまでもがピクニック気分になり、緩い空気が流れ始める。
「いや、ルシエールとか行ったらダメだと思うんだけど……」
「わたしも行くし、大丈夫よぅ? 今度はマリアンヌさんに子供達を任せて、わたしも参加するわ。みんなで訓練しに行きましょう」
「ええー……」
「オラも行くよ! 新しいドラゴンさんと友達になれるかもしれないし!」
「くおーん♪」
「アッシュも行くならアイナもー!」
「お前達まで……!」
俺が口をへの字に曲げると、レッツェルが笑いながら俺に声をかけてきた。
「くっく……いいじゃありませんか。頼もしいことだと思いますよ? 僕にも仲間がいましたけど、こういう感じでしたし。ま、いつでも帰れると思えばラース君も安心でしょう」
「……まあな」
腑に落ちないが、死なない悪魔と戦うよりはマシかと思うことにする。
みんながワイワイと話し合っている中、俺が苦笑しながらため息を吐いていると、母さんの抱っこから逃れたセフィロが袖を引っ張って来た。
「お兄ちゃん、大丈夫。お兄ちゃんが行けない分、ボクが向こうに行ってくるから。……どっちにしても、木の実を食べるには強靭な力が必要なんだ。ドラゴンとの修行は好都合だよ」
「強靭な力って? そうじゃないとどうなるんだ?」
「……最悪、耐えられなくて、死ぬんだ……」
「……!?」
セフィロが不安げな顔でそう言い、俺は冷や汗をかいて言葉に詰まる。しかし、セフィロ一人に戦わせるわけにもいかない……俺は食べるとして、残り九人。誰になるのだろうか……?
そして、開戦に向けて各人が行動を開始する――
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