第四百六十三話 バスレーとレガーロ


 悪魔レガーロ。

 

 前世の俺を見かねて今世ではいい人生をとこの世界に送りこんでくれ、【超器用貧乏】を使えるようにした張本人。夢かなにかで一度きりしか会っていないけど、忘れるはずもないその名前を、どうしてバスレー先生が知っているのか……

 喉が渇いていき、言葉を出すことができずに立ち尽くす俺に、バスレー先生が微笑みながら口を開く。


 「……驚くのも――『無理はありませんねえ、あれから十一年。大きくなりましたねえラース君』

 「こ、声が……」

 「変わった……」


 マキナとルシエールが手を合わせて驚いているのを聞いて、俺はハッとなりバスレガーロへ口を挟む。


 「ど、どういうつもりなんだええっとレガーロでいいのか? お前どこかへ行くって言ってたじゃないか。それがどうしてバスレー先生の口から喋っているんだ……?」

 『話せば長くなるんですがいいですかねえ? イシシ……』

 「いや、言わないと分からないだろ……」

 『ま、それがお望みなら……』

 「お前が話しかけてきたんだろうが……!!」


 相変わらず疲れる会話をしていると、兄さんが苦笑しながら俺に話しかけてきた。このままじゃ埒があかないと踏んだのだろう。


 「ええっと、レガーロさん? は、バスレー先生に憑りついているということですか?」

 『ああ、ラース君のお兄さんですねえ。さて、どこから話すべきか……そうですね、まずそこのセフィロトとアタシはこの世界の神と同じ次元に存在する者でしてね』

 「な、なんじゃと……?」

 「か、神って……十神者みたいな?」


 驚くファスさんとマキナが呟くと、レガーロは人差し指を立ててからその答えを返す。


 『そう、ですね。この中の何人かが見た十神者の正体……あれは『悪魔』という別世界の創造物が形になったものでしてね。アタシもその一人です。……昔、ラース君にこの世界には神がいないとお伝えしたことがあるのですが、それと関係がありましてね』

 「……!? お前、あの時知らないって言ってたじゃないか」

 『アタシとしてはアレに関わらないで生きていけばそれでいいと思っていたんです』

 「ラース、お前はこの人……悪魔を知っているのか?」

 「……ああ」

 「どういう――」


 俺は父さんの言葉に短く返事をする。なにか聞きたいことがありそうだったが、俺も混乱していてどう説明しようかと考えていると、レガーロは続ける。


 『さて、ラース君のことは少し置いておき、アタシがこの世界に降りたのは神を消した者を探しに来たのです。そして、アタシはそれを突き留めました』

 「なんだって!?」


 驚くリューゼ。だけど、俺はなんとなくそれが何者なのかを頭に思い浮かべる。


 『まあ、それも置いといて……』

 「おやおや、重要な部分だと思いますが話していただけませんかね?」


 ガクッとずっこける俺達にレッツェルが冷静にツッコみを入れるが、レガーロは頭を掻きながら苦い顔をする。


 『わかっちゃいるんですが語ることが多すぎてですねえ。では、一気に話しましょう!!』

 「な、なんなんだよラース、この悪魔ってやつ……」

 「こういうやつなんだよ……もう少し付き合ってやろう」


 どう転んでも最悪の話にしかならないような気がするが、このタイミングで現れたのは『そういうこと』なのだろう。


 そして語り始めた内容は信じがたいものだった。

 神を消した者を探して世界を渡り歩いていたところ、ベリアース王国とエバーライドの戦いを目にしたらしい。

 そこで窓から逃がされたバスレー先生を助け、この世界で行動するための手段として、バスレー先生の復讐の手伝いをすることを条件に、身体に宿ったらしい。

 

 「戦争は俺が産まれる前じゃなかったっけ……?」

 『イシシシ……あの時はすでにこの世界に居ましてね、この世界に産まれてきたひ……ラース君を感知したので夢で逢ったんですよ』

 「何……何を言っているの……?」


 困惑する母さんの肩を兄さんとノーラが支えていた。

 

 「そしてわたしはヒンメル兄ちゃんに拾われ、レガーロと共に調査をしました。権力は必要だったので大臣になり、ティグレ先生に近づくため教員に。レガーロから話は聞いていましたからラース君のことはずっと見ていましたよ」

 「今のは……バスレー先生か。それで俺の旅立ちについてきたのか……」

 「そうです。レガーロは静かに暮らして欲しいと願っていたようですが、ラース君の力は色々なものを引き寄せました。旅に出て、福音の降臨と戦うことになり、そしてわたしとレガーロの目的である‟神を消した者”の正体をサンディオラで発覚することになりました』


 最後の言葉はレガーロに変わり、表情も笑みから真面目な顔になっていた。


 そして、俺達に告げる。


 『神を消した者、それは十人の悪魔を従える男……福音の降臨の教祖であるアポス』

 「……」


 うっすらと笑みを浮かべるレッツェルはその答えを予想していたようだ。


 「あの頭が三つあるやつとかが悪魔だからか?」

 『そうですよリューゼ君。この世界に存在しない悪魔。それを従えてる彼以外にあり得ない』

 

 はっきりと答えるレガーロに、壁に背を預けて立っているルシエラが目を細める。


 「じゃあそのアポスはどうやってその悪魔達を従えているのよ? この世界に存在しない。けど居るわよね」

 「ルシエラおねえちゃんの疑問はもっともだよ。だけど、あの男には出来たんだ」

 「セフィロ、なにか知っているのね?」


 マキナがセフィロを抱っこしてそう言うと、セフィロは大きく頷き、続けた。


 「あの男の正体は別世界の人間。成仏せず、神様を欺いて無理やりこの世界にやってきた存在なんだ」

 「べ、別世界の……人間……?」

 

 ウルカが青ざめ声を絞り出し、他のみんなからもどよめきが起こる。それはそうだろう、俺みたいな転生者ならともかくこの世界に最初から産まれてくる人が信じれる話じゃない。

 

 ……だからこそ、アドラメレクなどの悪魔達が正体を見せた今、話をしたのだろう。そしてセフィロはさらに話す。


 「その時、ボクは切り倒されたんだけど、力を振り絞って神様がこの世界に落としてくれたんだ。ボクは記憶を失って彷徨い続けた……トレントを仲間だと思って……」

 「そうだったのか……」


 話を聞くとパズルのピースがはまっていく気がする。

 

 「セフィロ君を見つけた時はゲロを吐きそうになるくらい喜びましたね。レガーロ」

 『馬鹿言わないでください!? アタシじゃなくてアンタが復讐の相手を殺せるって喜んでいたでしょうが』

 「嫌ですねえこれだから悪魔は……」

 『その悪魔の力を使わないと復讐のひとつもできない人間がいいますかねえ』

 「あの、今までの話が嘘っぽくなるからそう言う喧嘩は止めよう?」

 

 ルシエールに窘められ、一人漫才をしているバスレガーロは頭を下げる。


 「ああ、すみませんルシエールちゃん。ま、そういうわけで確証は無かった者がついに判明した、そういうわけです」

 『結局、ラース君の手を借りる羽目になったのが心苦しいところですがね……イシシシ……』

 「どうしてラースなんだ? 確かにこの子は才能とスキルがあるが……」

 

 父さんがそういうと、レガーロは少し考えた後、答えた。


 『……ラース君のスキルはアタシが与えたものですからねえ。貧乏な家に産まれたのが不憫だったもので、ね』

 「そ、それだけなのー? オラにはラース君を利用しようとしていたようにみえるよー……」

 『利用はしないつもりでした。それは本当です。セフィロトを見つけさえすれば元々、国で片づける問題だったのですよ。そのためのバスレーの地位を上げたんですし』

 <……どういうことだ? どうしてレフレクシオン王国が出てくる? 確かにセフィロの力が悪魔達に有効のように見えるが、国は関係あるまい?>


 沈黙を守っていたサージュがついに痺れを切らし口を開いた。するとバスレー先生が目を瞑り、何度目かの衝撃発言をした。


 「教主アポス……あの男は現国王のアルバート様の従兄にあたる人物なのです」

 

 その瞬間、何故か俺の背中がゾクリと寒くなった。


 「ラース? 大丈夫、顔が土気色になっているわ」

 「だ、大丈夫……少し気分が悪いけど……」


 さっきアポスは別世界で死んだ人間がこの世界に無理やりやってきたと言っていた。ということは転生者のはずだ。それが王族……これは相当闇が深い話で少し見えてきたと思いながら俺は耳を傾ける――

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