第四百六十二話 予想外
「おかえり、ラース兄ちゃん!」
「くおーん!」
「おっと、元気だな……」
自宅へ帰ると、早速アイナとアッシュのコンビが俺に突撃してきて抱っこをする。しかしその後に続く人達を見てアイナがびっくりした声を上げた。
「わ! いっぱいお客さんが来たよ! あ、お父さんとお母さんも居る!」
「くおーんくおーん♪」
「こら暴れるなって」
マキナにファスさんという元々住んでいる俺達以外には両親と兄さんにノーラが。
さらにサージュ、リューゼ、クーデリカ、ウルカにジャック、ナルという学院のメンバーが勢ぞろいしている。
人がいっぱいいて嬉しいアッシュが興奮状態で小さな尻尾を振りながらもぞもぞと顔を動かす。
バスレー先生はヒンメルさんに絞られるようで、連行され、リースとイルミもバスレー先生に連れられてあの場に居たらしいので一緒についていったので帰ってきていない。……というかレッツェルが居ないのは気になるけど、家に居るのか?
ティグレ先生はヒッツライトという友達と、学院長と共に城に残っている。後、ジャックが生み出したドラ猫は大人しく城の広場で寝転んでいたりする。……あいつ、消えないのかな……
俺がそんなことを考えていると、アイナが俺の足元にいるセフィロの前に立って首を傾げる。
「あれ? 知らない子だ。アイナだよ!」
「うん知っているよ! ボクはセフィロなんだ」
「え! あのトレントのセフィロ? すごーい、人間になったんだ!」
「ラース兄ちゃんのおかげでね!」
「え……? あの動く木なの?」
「わ」
母さんがセフィロを抱っこして呟いたので、俺は頷き親指を奥に指して口を開く。
「……とりあえずベルナ先生達にも話をしないといけないし、リビングへ行こうか」
「そうだな。相変わらずいい家だな」
「そうね、ここに住んでいいの?」
「部屋はあるし、ファスさんは庭にある小屋だから全然問題ないし」
「うむ。家族水入らずのところ、すまぬがよろしく頼む」
「いいえ、こちらこそ。……というか、ファスさんも随分変わったわね……」
母さんが『若い肌いいわね……』と呟いたのを聞き逃さず、言及はするまいと思いながらリビングへ行くと、ベルナ先生やルシエールが俺達に気づき立ち上がる。
「あ! お、おかえりなさい!」
「みんな!」
「おかえりなさいラース様! ……と、旦那様に奥様? ま、まさか……!?」
「ただいま。ニーナの思っている通りだと思うけど、とりあえず座ろう」
「そうね。私、お茶を入れてくるわ」
「手伝うわマキナちゃん」
――マキナと母さんが台所へ向かう中、俺達はリビングに各々座り、あの時いなかったベルナ先生達に結果を話す。
「――という訳で、ガストの町に帰ることが出来なくなった。俺達の力不足で……」
「ううん、ティグレやラース君達にサージュがいてもその結果なら、恐らく世界の誰にも止められなかったと思うわ。自分を責めちゃダメよぅ?」
「うん。ありがとうベルナ先生」
そこでリューゼとクーデリカが口を開く。
「正直、ファスさんと訓練をしてアクゼリュスに勝つつもりだったけど変身する前からすでに勝てる相手じゃなかった。それがまだ六人もいる」
「うん。わたしも冒険者として魔物を倒してきたけど、あれはちょっと違う感じだったよ。スキルだけに頼った戦い方じゃダメみたい。それと、人間じゃないけど魔物とも違うアレは怖かった」
「人間じゃない?」
ルシエールが疑問を呟くと、リューゼが返す。
「……ああ。頭が三つある人間なんていねえだろ……」
「き、気持ち悪いねー……」
「私も見たけど、二度と見たくないわね」
ノーラとナルがリューゼの話を聞いて顔を顰めると、リューゼはアイナとティリアちゃんに囲まれているセフィロを見ながら俺に言う。
「今後のことは国の問題も関わって来たからそれに追従すりゃいい。ガストの町を取り戻すならもちろん参加する。で、今後あいつらとの戦いの肝になる……あのセフィロってのはなんだ? トレントって聞いていたが人間になった。お前は何か知っているのか?」
「……」
「ラース……」
無言でリューゼに視線を返していると、お茶を持ってきたマキナが心配そうな声を出す。するとセフィロが俺達の中心に立ち、全員を見渡してから喋り出す。
「リューゼさん、ラース兄ちゃんは『知っている』けど『知らないん』だ。だけど、ボクはラース兄ちゃんのおかげで思い出すことができた」
「セフィロ?」
「ん。ボクはトレントじゃない。ラース兄ちゃんと十神者が言った通り、ボクの本当の名前はセフィロトの樹。あいつら十神者……悪魔達と対である存在……そして神の下から落ちてきた者なんだ」
セフィロはそう言って真剣な表情になり、俺は背中に汗をかく。神の下から落ちてきただって? 転生者なのか……? それと俺が『知っている』けど『知らない』ってどういうことだ?
「か、神様……? いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないか? 確かに俺達にスキルを与えてくれるのは神様からの贈り物だとされているけど……」
「そのスキルを与えてくれる神様と一緒に居たのかい?」
口の中がカラカラになり言葉を発するタイミングを外したところで父さんと兄さんがそれぞれ質問を投げかける。
すると――
「ここから先はわたしも混ぜて貰いましょうかね」
「僕も興味深い話を聞かせてもらいたいところですね?」
「バ、バスレー先生!? ……どうして涙目なんだ……?」
「ああ、聞いてくださいよ! 黙って出撃して死にかけちゃった、てへって言ったらヒンメル兄ちゃんと両親に拳骨をもらったんです! わたし頑張ったのにこの仕打ちっ!!」
「はは……」
「いつもどおり、だな……」
俺達はさっきまでの緊張がどこへやらといった感じで呆れ笑いをするしかなかった。だけどすぐ真顔になり、
「……さて、どこから話すべきでしょうか? セフィロトが覚醒し、福音の降臨とことを構えるようになった今、あなたが隠れる理由は無くなったと思いますがどうですか……レガーロさん?」
「……!?」
――バスレー先生が口にしたその名前は……紛れもなく俺をこの世界に送り込んだ、悪魔の名前だった。
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