第四百六十一話 二つに一つ
――ガストの町から撤退した俺達は疲れた体を引きずって城へと向かう。兵士の数、十神者との戦闘規模の割には損害は少ない。だけど、犠牲になった人も居る……
「う、うう……あんたぁ……」
「息子が……!? そ、そんな……」
「……」
移送中、俺達を出迎えてくれた人たちの中に亡くなった騎士の家族が居て泣き崩れる様子が目に入った。
「ラース、落ち着いて。あなたのせいじゃないんだから」
「……ああ。ごめんマキナ……」
「お兄ちゃん、ボクももう少し頑張れば良かったね……」
「セフィロもそんなこと言わないの。私だって戦場にはいなかったんだから」
よほど怖い顔をしていたらしく、マキナが困った顔で俺の背中をさすってくれた。気落ちしたセフィロを撫でてやっていると、少し前を歩いていたクーデリカにも声をかけられた。
「ラース君、ゆっくり行こう? ……わたし達頑張ったけどダメだったね……」
「仕方ねえよ。あいつらはどう考えても常軌を逸脱していたからな。クソが……」
クーデリカが半泣きで俺の袖を掴み、ティグレ先生が怖い顔でボロボロになった武器を引きずっていた。
幸いといえば、ライド王子を含むエバーライドの兵士は生き残っていて、町で兵士達と戦っていた騎士達も軽傷で済んだことだろう。それ故に亡くなった人が気の毒ではある。
「夜、お城に来てください。このウルカ君が最後に会わせてくれるそうです」
「バスレー大臣……うう……」
「すまない、俺達の力が足りんばかりに身代わりに……」
「ホーク様もボロボロになっておる、騎士団長を守ったあやつは立派だったと思おう……」
そんな話を聞きながら、総勢五千人近く居るエバーライドの兵士達と共に城へと入っていくと、フリューゲルさんから声をかけられた。
「おお、ホークにイーグル! 戻ったか! ……ふむ、どうやらあまり良い状況ではないようだな?」
「ですね。エバーライドの兵士達は城の庭へ集まってもらいたいのですがよろしいでしょうか?」
「ああ、すぐにでも手配する。陛下に報告は謁見の間で良いか?」
「いえ、会議室で。正直、信じられんことばかりですが……」
ホークさんが俺達、いや俺とセフィロを見てそう口にした後、会議室へと足を運ぶ。
メンバーはあの時十神者と戦っていた主力に、アーヴィング家が会議室へ招かれた。すぐに国王様が現れると、状況の説明を求められる。
「ここに全員が居るということは、ガストの町が占拠されたと見て良いか?」
「……はい。私は直接戦っておりませんが、怪しい黒い靄が町を包みこんでいました。彼らが福音の降臨のメンバーなのですが、どうやら何者かに憑りつかれていたと息子から聞いています」
「そうなのかラース?」
「憑りつくって……幽霊みたいなものかい?」
父さんの言葉に国王様とオルデン王子が俺に尋ねてきたので俺は頷き、話を続ける。
「はい。俺とファスさん、ドラゴンのサージュ。それとティグレ先生にリブレ学院長、リューゼと言ったポイントに配置していた者がそれを見ています」
「陛下、あれはこの世のものとは思えない者でした。私が見た者は頭が三つありましたし――」
「ぼ、僕とジャック、ラースが見たのは頭が馬の人間でした」
学院長とウルカの言葉にざわつく会議室。国王様は難しい顔で頬杖をつき、しばらく沈黙を保っていたが、やがて口を開く。
「……リブレにティグレ、騎士団長二人にラースといった精鋭がいて尚、負けたのか……信じられん」
「ええ。実際には倒せているのですが、得体のしれない黒い靄に変化したので撤退したというところですがね」
「うむ。概ね状況は把握した。福音の降臨の十神者は異形の者、そしてそやつらにガストの町は占拠されたと。しかし、奪われたことについては嘆いても仕方ない、人は帰って来た。ならば次は今後のことを考えねばならん」
国王様は目を細めて俺達を見ながらそう口にする。町ひとつ奪われても生き残ったことが重要だと暗に言う。そこでリブレ学院長が手を上げて発言をする。
「おっしゃるとおりです。町は奪われましたが敵は討ちました。復活するようなことをほのめかしていましたが、現状は問題ないと考えます。十神者とエバーライドの兵士が戻って来ないと気づけば福音の降臨が動くでしょう。ベリアースがどれほど彼らを買っているか分かりませんが、兵を出す可能性はあります」
「あの男ならガストの町を起点にしてレフレクシオンに来ることはあるな……どうする?」
「……難しいところですが、ひとつはこちらから攻め入り、エバーライドを奪還後にベリアースを含む福音の降臨を討伐。もしくは差し出すように交渉。もう一つは向こうが攻めてくるのを待つ、ですね」
学院長は苦い顔で一つ目の案を口にする。エバーライドはレフレクシオン寄りだからここを取っておけばベリアースに攻めるのは難しくない。できれば福音の降臨の教主含む全員をベリアース王国が追い出してくれるのがいいけど、なんとなく洗脳をされているような気がする。
「……どちらをとっても十神者と戦うことになるでしょう。四人はこちらの手の内。ですがまだあれが六人いることを考えると、一斉に襲われたらルツィアール国と共闘しても厳しいと思います。待ちに徹してガストの町で靄と化した三人が復活すれば猶のこと勝ち目は低くなります」
「ふむ……即時攻めても六人を相手にする戦力は無い、か。待って各人の訓練をしても――」
「攻めてくる方が早いってことか。これはまいったね父上」
オルデン王子が肩を竦めて話を締めると、会議室に沈黙が訪れると、ティグレ先生と一緒に居た騎士が口を開く。
「よろしいでしょうか? 私はベリアース王国の騎士団長、ヒッツライト。ティグレの幼馴染です」
「なんと……! 敵国の男が何故? とは言わん。ティグレと共に居るということは、ベリアースを良く思っていない者ということか」
「ええ、しかし先の戦争を仕掛ける切っ掛けはやはり福音の降臨にあるようです。彼らを排除すればあるいは、と考えています。あの国については私の記憶などが使えると思いますので、助力は惜しみません」
すると国王様は椅子から立ち上がると、俺達に微笑みながら言う。
「うむ、ではお前の処遇はティグレに任せよう。協力、感謝する。……とりあえず今日はお前達も疲れたろう? 今日明日でやつらも動くことはあるまい。ガストの町周辺に兵を向かわせ様子を見る部隊を編成し、今後については明日から考える。エバーライドの兵士達も多いようだからそちらもなんとかせねばならん。それでいいな?」
「はっ……!」
「ローエン達もご苦労だった。町を取られたのは悔しいだろうが、今は休め。城の一室を用意するぞ?」
「あ、国王様。父さん達は私の家に来てもらうつもりなので大丈夫です」
「む、そうか? 良かろう、なにかあればフリューゲルに伝えてくれ」
「ありがとうございます」
会議はそれで一旦お開きになり、俺達は会議室を後にすると、外へ向かうため歩き出す。
「とんでもないことになってきたわね……私達の故郷が……」
「ああ。でも必ず奪還する」
くたびれた体を引きずり、俺達は一度自宅へ行くことにした――
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