第四百五十七話 和解と変貌
ウルカと別れた俺とマキナは一直線に屋敷へと向かっていた。ライド王子とライムの二人を広場や町に散った兵士の説得にあたってもらうために。
「ジャックは大丈夫かな?」
「きっと大丈夫よ、戦闘向きじゃないけどサージュとの戦いでも生き残ったんだし」
「はは、懐かしいね……それじゃ降りるよ!」
庭で父さん達が手を振って俺達を迎えてくれる。門は閉じているのでゴブリン達は入ってこれないけど危ないなと苦笑しながら着地する。
「兄さん、ノーラ!」
「おかえりー!! どう、福音の降臨はー?」
「十神者を分散させる作戦はちょっと失敗したけど、なんとか二人倒した」
「流石ラースとマキナちゃんだ。それじゃ王子達を?」
兄さんがライド王子に目を向けると、武装した王子とライムが頷いて一歩前へ。そこで父さんが声をかけてきた。
「くれぐれも無茶はしないようになラース。外はゴブリンが相当いるんだろう?」
「ああ。でも、ウルカのスケルトンが抑えてくれているから兵士達のところまで一気に行ける。いいですね、ライド王子」
「うん。ありがとうラース君! 僕が必ず説得して見せる!」
「行きましょう、ラース達に報いねばなりません」
「気を付けて! 僕は父さん達を守るよ」
ライムが促し、兄さんに見送られて俺達は門を開けて外に出る。すると、周辺が静かなことに気づく。
「ゴブリンが居ない……?」
「ならチャンスよ! 走って! 騎士さん達と兵士の戦いを終わらせないと!」
気になったけどマキナの言う通りだと広場に行くため坂道を駆け下りて行き、程なくして地面に紙が散乱し、ケガを負った兵士達が立ち尽くしている広場に到着した。
「大丈夫か!!」
「ああ、君か……こっちはなんとか……というより、急にゴブリンが消えたから無事だ。怪我人は多いがな」
あの時見届けてくれたおじさん兵士が額から血を流しながら俺に近づいてくる。死者は居ないようなので安堵していると、ライド王子が兵士達の前へ出た。
「ここに集まっている勇敢なエバーライドの兵士達よ、聞いて欲しい!」
「ん……お、おお……あなたは!?」
「すみませんが今はお静かに願います!」
「お前はライムじゃないか……!?」
知っている人は知っている、という感じで兵士達はライド王子とライムへ目を向け、驚く者も居れば興味を持って聞き入っている。
「僕はライド。あなた方の故郷、エバーライド王族の最後の生き残りです」
その直後、兵士達からどよめきが起こる。
「や、やはり……そっくりだ……」
「本当なのか……?」
「お前はあの時まだ小さかったろうしな陛下に似ている、目は王妃様そのものだぞ」
と、おじさん兵士達はライドを王子と認めたようだ。少ししてからライド王子は手を上げて静かにさせる。
「あなた達が福音の降臨に捨て石として連れていかれることに我慢が出来ず、隊に紛れて随行し、途中先行しました。そこでここに居るラース殿に助けてもらい、今回の計画を実行に移したのです。結果、福音の降臨はバラバラになり、兵士達だけになったので説得に来た次第」
「それはさっき聞いた……いえ、聞きました。レフレクシオンに亡命する、ということですか?」
兵士のひとりが口を開き、そんなことを尋ねてきたのでライドは頷き続ける。
「とりあえずはその方向で行くつもりです。ただ、皆が懸念するであろう、エバーライドに残している民については、レフレクシオン王国の国王様と話し合いの結果、この戦いの後、国奪還に手を貸してくれることになっている」
「おお……! な、なら俺は志願します!」
国の奪還と聞いて歓喜の声が上がり、騒然となる。
短い期間とはいえ、いいように使われていたのだろうというのが分かる反応だ。それをライドは手で制し、言う。
「志願はもちろん受け付ける。だけど、その前にここの騒動を片付けないといけないんだ。ラース殿と仲間がすでにふたり、倒していると聞いている。なので、僕たちの安全はほぼ完璧となった今、散った兵士達を止めに行く。全員で行くのは要領が悪い、数人ついてきてくれるかい?」
「お任せください!!」
そう言ってライド王子が歩き出すと、おじさん兵士と数人がそれに倣い追いかけていく。残りは武器を地面に置き、待機してくれるらしい。
「ふう、なんとかすぐに信じて貰えてよかったわね……」
「年配の人がエバーライドの国王様を知っている人が居たのは良かったな。まあ、町のみんなはこの一日の為に王都に行ってもらったから気の毒だったかな」
「王都も家がいっぱい建っちゃったしね」
マキナが肩を竦めて言うが、その通りだと思う。だけど、それが無ければあのゴブリン達にやられていたかもしれないので良かったと思う。
そして、騎士達と戦っていた兵士達をライド王子とライムが説得に奔走し、さらにそこから騎士と兵士が散っていき収束をさせていく。
「……よし、戦闘行為がだいぶ収まったし、俺はティグレ先生とリューゼにとこへ行ってくるよ。多分大丈夫だと思うけど」
「うん、ライド王子は私が守るから大丈夫――」
と、マキナが言い終わる前に、俺達は信じられない光景を、見た。
「サ、サージュが落ちた……!?」
「……!? 嫌な予感がする! マキナはここを動かないで!」
「わ、分かったわ!」
サージュが黒い炎に包まれ落ちた、ということはファスさんとイーグルさんも一緒に落ちたということ。一体あれはなんだ……!
◆ ◇ ◆
「く……サージュ、無事か!?」
<う、むう……なんとか……今のは……>
前進から煙を出しつつサージュは片膝をついて立ち上がり、ファスに返事をする。手の上で戦況を見ていたはずだったが、いきなりの攻撃にやられたというわけだ。
「十神者は!」
「そこに倒れておる……が、どうやらまだ戦う気があるようじゃな?」
ファスがそう言うと、シェリダーとケムダーの体がビクンと動き、そのすぐあとに口から黒い靄を吐き出した。
『フフフ、油断したところを後ろからやろうと思ったのに残念ね……』
『貴様等は調子に乗りすぎた、ここで殺してやる覚悟しろ!』
「どうやら倒れている人間はこやつらに憑りつかれていたようじゃな、何者か知らんが返り討ちに――」
<ファス!?>
ファスが口を開くと、その瞬間壁に叩きつけられ、家屋に穴が空く。
そして徐々に黒い靄は人型を成していき、ケムダーの靄はクジャクの羽を持つ男に姿を変え、シェリダーは銀髪の、蝙蝠のような羽を持つ女へと変わる。
「チッ、わしが見えんとはやるのう」
『私の【拒絶】を受けて体がバラバラにならなかったのは流石だと褒めておきましょう。では、本格的に死んでもらうわ』
「得体が知れない、か。わしも全力を出さねばなるまい!!」
シェリダーに踏み込むファスの隣ではサージュとイーグルがケムダーに攻撃を仕掛けていた。
<このサイズでは不利か……!>
「私に任せろ! これが貴様等の真の姿か!」
『そうだ、まさかこんな世界で晒すことになるとは思わなかったが! 故に殺す!』
◆ ◇ ◆
『ひゃっはっは……! さっきまでの威勢はどうしたぁぁ!』
「つ、強い……強すぎるレベルだぜこいつは……クーデリカ、リューゼ達を連れて逃げろ! こいつはやべえ」
「十神者……まさか化け物だったとはな、これは福音の降臨の正体を陛下に進言するチャンスだ」
『馬鹿が! この姿になった俺に勝てると思うなよ? ベリアースの国王に伝えるのは裏切者が居たってことだけだなあ!』
「せ、先生、死なないでね!」
「大丈夫だ、私たちに任せなさい」
リューゼ達と合流したティグレはアクゼリュスを捕えていることに安堵していたが、すぐに黒い靄を吐き出して目の前に居る、赤黒い肌をしたオーガのような姿になった。
立ち向かったリューゼを一撃で意識を絶ち、騎士達や教員を衝撃波で吹き飛ばして蹂躙する。
残ったティグレ、ヒッツライト、リブレ、そして――
「……第三試合ってところですかね……そう、それが正体。ようやく引きずり出すことができましたよ』
血の混じった唾を吐く、バスレー達が変貌したアクゼリュスを取り囲んだ。
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