第四百五十八話 両者ともに


 サージュが空から落下するところなんて見たことが無いので、嫌な予感を覚えつつ町の入り口に向かう。

 そして門の方から怪しげな生き物が入ってくるのと同時に現場へ到着した俺は、眼下の光景に目を疑った。


 「馬鹿な!?」


 眼下には中型のサージュ、ファスさん、そしてイーグルさんが力なく倒れていた。血だらけの様子を見て、近くに立つ男女にやられたのだろう。


 「ラースじゃねえか!」

 「ジャック、それにウルカ! ……その変な生き物はなんだい?」

 「ああ、ちょっとこいつのスキルをコラボして作ったドラゴン猫……ドラ猫だ!」

 「それはどうでもいいから、ラース、ファスさん達が倒れているけど一体何が?」


 ジャックが得意げに言うのをウルカが制止し、話を元に戻す。


 「俺も今来たばかりでまだ分かっていないんだ。けど、あいつらが敵だってことは間違いない! <ファイアーボール>!」

 「あ!」

 「ウルカ、ジャック殿、追うのだあの二人……ただものではない気配がする」


 俺はファスさんの頭を踏みつける男に向かって魔法を放ち、サージュブレイドを抜いて斬りかかる。しかし、銀髪の女が目の前を阻み口を開く。


 『先ほどのやつね【拒絶】するわ』

 「これは……うぐ……!?」

 「にゃーん」


 ファイアーボールは右手で真横に逸らされ、剣先が触れる瞬間、左手で後方に押しやられ俺は派手に吹き飛ばされる。壁に激突するかと思ったがその瞬間、ドラ猫の肉球がクッションになってダメージが吸収され難なく着地できた。


 「大丈夫かラース?」

 「ああ、助かったよジャック。それにしてもあの女【拒絶】を使った?」

 「ラース殿、嫌な気配を感じる。油断めされるな?」

 「みたいだね……ってスケルトンが喋っているし、誰!?」

 「おお、拙者はシンゴ・オオグレと申す者、ウルカと共に居たスケルトンだ。しかし今はお仲間を」

 「武士みたいな喋りをするね?」

 「なんと、武士を知っておいでか!?」

 

 驚愕するスケルトンに俺は余計なことを言ったと思い、二人組に顔を向けて口を開く。


 「……お前達はケムダー、それにシェリダーか? だけど二人は縛られて倒れている。どういうことだ?」

 『皮を脱いだ、それだけのことだ。貴様等を八つ裂きにせねばこの鬱憤を晴らせそうにないからな……!』

 『フフフ、あの小娘はどこかしら? この師匠とやらはこの通り、返り討ちにしてやったわ。出しなさい……この師匠とやらの前でひき潰してミンチにしてやるから……』

 「……」


 ということはまだファスさんは生きているってことだな、サージュも簡単には死なないだろうし、イーグルさんも指は動いている、か。

 だけど、イーグルさんには価値が無いので恐らく殺しにかかるか人質にするだろう。時間の問題だと俺はジャックへ言う。


 「そのドラ猫はなんか攻撃できるか?」

 「いや、多分じゃれつくくらいしかできない」

 「なら――」


 と、ジャック達に小声でお願いをして俺は一歩前へ出て口を開く。


 「ファスさんとイーグルさんを返してもらう」

 『できるかな? 【貪欲】の真の姿を見せて――』

 「<ファイアアロー>!」


 男がスキルを使おうと俺に手を向けたので魔法で牽制し、身を低くして突っ込んでいく。


 『そんなもの吸収してやる! なに!?』

 『うぐ、しまった……!?』


 俺はファイアアローを目くらましに使い、ショート転移で二人の間に現れ男を蹴り飛ばし、女を至近距離のハイドロストリームで遠くへ追いやる。


 「汚い脚をどけろ!!」

 『おのれ……きょ――』

 「にゃーん♪」

 『な……!?』


 ハイドロストリームを拒絶しようとしたところにドラ猫が飛び掛かり、咄嗟に空いた手を向けるが押しつぶされた。


 「チェストォォォ!」

 『チッ、奪うものがないスケルトン風情が……!!』

 

 男はスケルトンに斬りこみ、拾ったランスで防御をする。というかシンゴ、だっけ? マジで侍みたいな動きをしているんだけど!?


 「まあいいや助かるし! <ヒーリング>! ウルカ、ジャックはファスさん達を! サージュ、目を覚ませ!」


 怪我が酷かったのでまず回復し、すぐにサージュへと向かう。白目を剥いたこいつは初めて見るなと、俺は眉間に全力で拳を叩きつける。


 <ぐお……!? む、我は……>

 「目が覚めたか、派手にやられたな」

 <ラースか! 面目ない、それよりあやつらは!>

 「今、交戦中だ。……流石に一筋縄ではいかないか」

 「にゃーん!?」


 サージュが起き上がるのと同時に、ドラ猫が空高く舞い上がるのが見え、女の【拒絶】でシンゴが後退させられる。


 『生意気な』

 『速やかに消しましょう。アクゼリュスと合流してこの町を蹂躙せねば』


 余裕のある笑みを浮かべる男女。アクゼリュスの名を出したということはこいつらはケムダーとシェリダーで間違いないのか。

 だけど、ケムダーの名と背中の羽を見て俺は一つ確信を得ていた。そこでサージュが俺の頭の上で話しかけてくる。


 <気をつけろ、あの男は触れたものの生気を吸う。ファスの攻撃は直接攻撃しかできんからそこを狙われた>

 「魔法も吸収するし、剣でやり合うしかないってことだな……」

 「僕のスケルトンも出そうか、それならあっちの男は倒せるかも」

 「女の方は厄介だな、俺が囮になるか? 転移魔法で後ろからバッサリっていけねえ?」


 ジャックはシェリダーの特性を分かっているようで、提案をしてくるので俺は頷く。だけど、その前にこいつらへ尋ねてみることにする。


 「お前達はケムダーとシェリダーであっているのか?」

 『ん? 今更何を言う? そうか、分かれたから別の存在だと疑っているのか? はははは、私はケムダーだぞ』

 『そうね、シェリダーよ。その女、返してもらおうかしら、小娘も探さないといけないし……死んで?』

 

 言い聞かせるように名乗る二人。

 だけど俺は、心当たりのある名前を、こいつらへと告げる。


 「……本当にそうか? そのクジャクの羽……お前は『アドラメルク』じゃないのか? そして、シェリダー、お前は『ルキフグス』」

 

 『!?』

 『!!』

 

 そう言うと、二人は明らかに目の色が変わり、髪の毛を逆立たせる。驚愕しているようだが、俺に向けられる殺気はさっきまでとは違い、息をするのも苦しいほどに変化した。


 「当たり、のようだな……!!」

 『貴様! 何故のその名を知っている!? 教主様以外に知る者は居ないはず!!』

 『あ、ああああ……ま、マズイ、姿が私の美しい姿がああああ!』


 直後、二人の姿は異形の者へと変化し始めた。そして――


 「!!」

 「セフィロ!?」


 俺の懐からセフィロが飛び出し【ソーラーストライカー】を発動させる――

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