第四百五十六話 スケルトンマスター・ウルカとコラボの達人


 「くっ、いったいどれだけのゴブリンが居るのか……! ラース達は――」


 ウルカは自身を守りながらゴブリンに対抗すべくスケルトンを操るが、エレキムの【絵心】で無尽蔵に増えていくゴブリンに押されていた。

 レビテーションで飛んでいくラース達を見届け、安堵するとウルカは屋敷に続く道にスケルトンを終結させる。


 「福音の降臨さえなんとかなれば、後はライド王子の説得でこの戦いは終わるはずなんだ……おっと!?」

 「グギャァァァ!」

 「ゴブリンは戦ったことが無かったけど、思ったより厄介だね!」


 数で押し切ってくるゴブリンにウルカがショートソードで迎撃に入る。しかしその直後、ひときわ動きのいいスケルトンが間に割って入り、ゴブリン達をなぎ倒した。


 「ありがとうオーグレさん! いつも助けられてばかりだよ」

 「キニ、スルナ……」

 「そう? ……って、今喋った!?」


 カタカタと体を揺らしながら反りのある片刃の剣を振るオーグレが一言呟き、ウルカは飛びあがって驚いた。心の声のような『イメージ』のような言葉は伝わっていたが、ハッキリ声を聞いたのは初めてだったからだ。


 「フム、ソノ本ノオカゲノヨウダナ……ア、アー……ああ、よし。初めましてだな、ウルカ」

 「う、うん、そうでもないけど……初めて喋ったよね……」

 「恐らくその『死禁の書』のおかげだろう。君からある一定の範囲に不思議な力を感じるぞ。はあああああ!!」

 「それで僕の周りにいるスケルトンたちは強いんだ。あ、後ろ!」

 「問題ない……!」


 オーグレは逆手に持ち変えた剣を脇の下から突き刺し、ゴブリンの心臓を貫いた。


 「す、すごい……」

 「今までよりも体が軽いな。しかし、この数は面白くないな。もう増やせないものか?」

 「うん。【霊術】も限界まで使っているからこれ以上は難しいね……」

 「むう……ウルカよ、拙者に命を預ける覚悟はあるか?」

 「拙……? え?」

 「すまぬ、ワシのことだ。お主の近くなら真価を発揮できる、だが、そのためには一緒に移動してもらわねばならんのだ」


 その言葉に息を飲むウルカ。戦場のど真ん中に来て欲しいと言われているので当然の反応だ。


 「……うん、わかった。オーグレさんには何度も助けられているし、その腕は信用しているよ」

 「ありがとうウルカ……では!」


 と、剣を腰に当てて構えて突撃の姿勢になる。しかし、その直後に背後からウルカを呼ぶ声が聞こえてきた。


 「はあ……はあ……! 無事か!?」

 「え!? ジャック! ど、どうしてここに?!」

 「お前やリューゼが戦ってるのに、俺だけ黙って居られるか! サージュ装備もあるしな。それに、こういう時こそ俺のスキルが役に立つだろ?」

 「【コラボレーション】をどうするんだい?」

 「後ろから見ていたから俺のやるべきことは分かっているぜ! こうするんだよ」


 ジャックはそう言ってウルカの腕を掴むと【コラボレーション】を発動。次の瞬間、地面からさらにスケルトンが増え、ゴブリン達を押し返す。


 「これでどうだ!」

 「だ、大丈夫!? 結構負担がかかるんじゃないのかい?」

 「気にすんな、それよりこのままゴブリン達の発生源へ向かうぞ。そっちのスケルトンはちょっと違うみたいだしな」

 「ジャック殿か。拙者の真名はシンゴ・オオグレ申す。ジャック殿のことはよく存じておる、今後ともよろしく頼む」

 「拙……? な、何か堅苦しいな? あれだろ? ウルカとずっと一緒にいるスケルトン? ……とりあえず話は聞いていた、ウルカを中心にこのまま押し返すぞ」

 「承知! お二人は拙者の後ろに! ‟万鬼牙切斬”……!」


 スケルトンとは思えない動きで剣を振り抜き、確実にゴブリンの首を落としていく剣技にジャックは打ち漏れたゴブリンを追い返しながら口を開く。


 「な、なんだアレ……ティグレ先生クラスじゃねぇか? ウルカ、知っていたのか?」

 「ううん……オーグレさんは僕が【霊術】を怖がっていた時に現れて、話せないけど怖くないことを必死にアピールしてくれたんだけど、まさかあんなに強いなんて……」

 「それに変な喋り方をするよな? 何者なんだろうな」


 ジャックが目を細めてそう言っている間に、徐々に門へ近づいていく三人とスケルトン軍団。空中に浮かぶサージュをチラリと見たが、そのまま町の外へと出て行く。


 「無茶をするでないぞ!」

 <ゴブリンは門の右から来ている、頼むぞ>


 上空から声をかけてきたのを手を少し振って返すと、ウルカがジャックへ言う。


 「ファスさんとサージュが一緒にいたね。十神者ってやつを捕まえたみたいだ」

 「片方は知らない顔だったけど、女の方はこの前も来ていたやつだな」

 「ここはラースとマキナも居たはずだから、騎士団長さんと倒したんだよ。さ、それじゃこっちも終わらせないとね。スケルトンたちは町に戻ってゴブリンの牽制を頼むよ!」

 「ぬおおおお……!」


 オオグレは二人のために道を開け、突き進むとジャックが声を上げた。


 「あいつだ! 懲りもせずまた来やがって! 今度こそとっ掴まえてやる」

 「なに!? ど、どうしてここが!?」

 「ゴブリンが現れる方向は同じだからな、アホなのかお前?」

 「あ、アホだと!? まあいいでしょう……ゴブリンでは力不足ですかね、ならあのドラゴンを出してあげましょう!」


 紙とペンを握り、サージュを再び出そうと笑いながら筆を走らせる。その時、ジャックがウルカの腕を離し、ダッシュした!


 「ジャック!?」

 「そのスキルはもう見切ってんだよ!」

 「なにを訳の分からんことを……! あ!?」


 武器を持たないエレキムが逃げながら書こうとしたが、ジャックがいち早く腕を掴み、空いた手でエレキムのペンを持つ手を握り筆を走らせた。


 「な、何をする! わ、私の芸術作品を!?」

 「ざまぁみろ……! 出てこい!」


 ジャックが叫ぶと、徐々に【絵心】で描かれた絵が具現化する。


 「ええー……」

 「ほう……これは……」


 ジャックの【コラボレーション】したその姿は、身体はドラゴンで頭と手は猫という異形の化け物だった。


 「くっ……魔力を大幅に消耗してできたのがこんなしょうもない絵だと……! ま、まあいい、私の言うことを聞け! こいつらを倒すのだ!」

 「うるせえ! 寝てろ!」

 「う……!?」


 エレキムが怒鳴り声をあげるが、目の前にいるジャックに殴られて気絶した。


 「ふう……アホで助かったぜ」

 「あ、ゴブリン達が消えていく! これで町は大丈夫だ。みんな、ありがとう!」


 ウルカがそう言うと、スケルトン軍団は姿を消した。が……


 「あ、あれ? この微妙なの消えないんだけど……」

 「……俺のせいか?」

 「にゃーん!」

 「凄く不気味だ……あ、こらじゃれつくな!?」

 「はっはっは! 頼りになりますなあ! 他の場所も気がかりだ、ウルカ、ジャック殿、町へ戻ろう」

 「オッケー、こいつを拘束して……っと。おいぶさ猫お前飛べるのか?」

 「にゃーん♪」


 ジャックの呼びかけに対し嬉しそうに鳴くと、猫ドラゴンは三人を手に町へと戻っていく。

 そしてラース達も最後の仕上げに入っていた――

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