第四百五十五話 謎の女、バスレーとリース
「ひゃぁっはぁぁ!!」
「くばりなさい!!」
再度交戦するバスレーとアクゼリュス。お互い攻撃を掠めながら足を止めて撃ち合いに入っていた。
動きが鈍くなってきたバスレーにもかすり傷が見え始め、満身創痍のアクゼリュスは鎧はひしゃげ、顔には痣、口から血を吐きながら笑っている。
そんな中、リューゼが大剣を構えたまま歯噛みをする。
「割り込む隙がねぇ……! くそ、訓練をしていたのにこのざまかよ!」
「あ、あれは無理だよ……そ、それよりホークさんを診ないと! ……って、あれ? ど、どこ行ったんだろ」
いつの間にかバスレーの近くから姿を消したホークをクーデリカが探そうと視線を動かすと、すぐ横で声があがった。
「大丈夫だ、意識はないけどボクの薬で傷は完全に塞いでいる」
そこには白衣のポケットに手を突っ込んで立つリースの姿があった。言う通り、足元のホークの傷は塞がっていて容体は悪くないように見えた。
「リースか!? お、お前、町に戻って来ていたのか?」
「おや、ラースに聞いていないのか? ボクはレッツェルと行動を共にしているんだよ? まあ、ゴタゴタしているから言う暇はなかったかもしれないけどね。ほら、イルミも居るよ」
「あ、あの看護師……!? どいうことだお前!」
リューゼは頬を引きつらせえリースの肩を掴むと、不敵に笑いリューゼに返す。
「どうもこうも、事実を伝えたまでさ。学院時代からレッツェルと一緒に居たし、福音の降臨の拠点、ベリアースにも滞在していたよ? ……ルシエールとルシエラの誘拐事件のことも知っている」
「なんだと……?」
「冒険者がオーガに変異した薬を作ったのはボクだからね。あいつらはなかなかの悪党だったから実験台になってもらったわけだけど、ラースは元より、リューゼ達も倒したよね? 見事だと思ったよ」
「おま……ふざけるな! あの時、あいつらやマキナがどんな目にあったか!」
「そ、そうだよ! ルシエールちゃんたち物凄く怖かったと思うよ!!」
リューゼはその言葉にカッとなり襟首を掴みあげると、軽いリースはあっさり地面から足を離す。
「くっ……くっく、まあ、君たちならそう言うだろうね。だけど、『正攻法だけ』じゃ勝てない相手もいるのさ、アレみたいにね。……よっと」
「あ!?」
「リューゼ、クーデリカ、こいつを使って戦闘準備を」
リースはリューゼの手から逃れるとポケットから二本の瓶を取り出し、それぞれに投げ渡すと、びっくりしながらそれを受け取る。
「オーガの薬か……!? こんなもん飲めるか!」
「近いが、違う。色々試した結果、魔物の能力を抽出し、身体の補助をする薬を作った。副作用はほとんどないから安心しろ」
「そういえば【実験】がスキルだっけ……? で、でも、今飲んでも意味がないよ? 戦う相手も居ないし……」
「いや、バスレー先生は限界が近い、見ろ」
リースが目線をバスレーに向けると、肩で息をしながら黄金の槌を振るう姿が目に入った。
「ああ!? バ、バスレー先生!?」
「そういうことだ。ボクは君たちほど強くない、悪いけど先生を助けるために頼むよ」
「……お前、一体何なんだ?」
「追々、ね?」
リースがリューゼの目を真っすぐ見て言い、リューゼは一瞬考えたがアクゼリュスを止めるにはバスレーが交戦してくれている今がチャンスだと薬を飲む。
「なんかあったらぶっ飛ばすからな!」
「わたしも……!」
「ああ、くれぐれもアクゼリュス殺さないよう頼む。まさか十神者にあんな秘密があったとは思わなかった」
クーデリカも薬を飲み干し武器を握り駆け出す二人、すると――
「こ、殺すな……だと? こ、んな力で手加減しろってのか……!?」
「あうう……あ、身体が熱い……」
直後、リューゼとクーデリカはバスレー達に肉薄する!
◆ ◇ ◆
「や、やるじゃねぇか……こ、こいつの妹ってのもハッタリじゃねぇのか……そしてその力……教主様と同じか? 戻れなくなるんじゃあねえか? どうだ、俺達の仲間になるってのは? そしたら兄貴とずっと一緒に居られるぜ」
「さあ、どうでしょうね……それとお断りですよ! 私のお兄ちゃんは死にました。目の前に居るのは両親を殺した悪魔だけです!」
「そういうと思ったぜ! なら、死にやがれ! ひゃは、ひゃははははは!」
「ぐ……思ったより体の負担が厳しい……だけどようやくこいつを殺すチャンス……! もう少しなんですよ!」
「うぐお!? ま、まだそんな力を……! 死ね死ね死ねぇぇぇぇ!!」
最後の力で攻撃のラッシュを仕掛けてきたアクゼリュスに、バスレーが押され始め、反撃を隙を狙っているところで手が滑った。
「しまった……!」
「その首貰ったぜぇぇ! ひゃははははははは!」
「耐えろわたしの体……!」
歯を食いしばるバスレー。
――しかしアクゼリュスの剣が届くことは無く……
「危機一髪ってところだな……! わ、悪いが手加減できねえ、避けろよアクゼリュス!」
大剣を大剣で受け止めたリューゼが唇を震わせながらアクゼリュスへ『避けろ』と言う。
「ああ!? 誰に口を聞いて――」
「おらああああああ!」
「馬鹿な!?」
リューゼが切り上げたその瞬間、ぬいぐるみのように簡単に舞い上がった。抵抗できず空中で体勢を立て直そうとしたところで同じ高さにまで飛んできた人影があった。
「ホントに強化されてるんだ、リースちゃん凄い……それはそうと、あなたは許せない。でもバスレー先生のお兄さんだし、リースちゃんが殺すなっていうから大けがだけにしておくね!」
「何する気だお嬢ちゃんよう! ひゃは――」
アクゼリュスが笑おうとしたが、それは言葉にならなかった。
何故ならクーデリカが斧で胸の鎧を打ったからだ。息がつまり、ひゅーひゅーと音を立てて苦しむアクゼリュスに、クーデリカは彼の右手を掴むと、関節を逆に曲げた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「こっちも!」
さらに左腕。
大剣を取り落とし、だらりとした腕を動かそうとしたが、クーデリカが斧の縁でアクゼリュスを叩き落とす。
「リューゼ君、トドメ!」
「おう! 【フレイムソード】!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ま、まさか俺がこんなやつらに……!? うお――」
落ちてきたアクゼリュスへ、すれ違いざまに魔法剣を振りくと、全身を燃え上がらせながら大きくバウンドし、アクゼリュスは動かなくなった。
「よし、よくやった! アクゼリュスを拘束しろ、すぐに治療する!」
「ち、治療なんて必要ありませんよ! こいつはここで――」
「いわばこいつらも犠牲者だ。何故こうなったかを聞かないといけないだろう? 洗脳されているなら解けばあるいは――」
「はあ……はあ……どっと疲れがでたな……バ、バスレー先生、とりあえずリースに任せてみようぜ……もしグルなら、俺がなんとかする……」
「リューゼ君……わかりました。今はアクゼリュスを倒したことを喜びましょう」
そう言うと、バスレーの顔から文様が消え、ガクリと膝をついた後、前のめりに倒れた。
「ああ、先生!?」
「……大丈夫だ、体力と魔力の消耗が激しいだけだ」
「そ、そう言えばなんでスキルを使わなかったんだろう……【致命傷】ならもうちょっと楽にやれたんじゃねぇか……?」
「……」
「リース、終わったのね?」
そんなリューゼの言葉を無言で聞きながら、リースが治療に当たっていると、イルミが近づき声をかけてきた。
「ああ。そっちは?」
「残念だけど、死者五名、重症者三って感じよ。息があった人は何とかなったけど」
「そうか」
リースが無表情で返すと、リューゼがイルミに尋ねていた。
「……レッツェルは居ないのか?」
「先生は別行動よ。……まさか、あの時のガキンちょたちと一緒に戦うことになるとは思わなかったわ」
「こっちのセリフだよ。ミズキさんが見たら襲ってくるぞ多分」
「ふん、返りうちにしてやるわよ」
リューゼは目を細めながらその場にへたり込み、イルミとリースを交互に見た後、苦い顔で死んだ騎士達に目を向けるのだった。
そして駆けつけたティグレたちと合流を果たす――
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