第四百五十四話 復讐のバスレー
「ナルちゃんを無事救出し、最初に仕掛けたのは可愛いバスレーちゃん! さあ、どうなるこの戦い!」
「ひゃはは! うるせぇ女だが、見た目は悪くねえ、じっくり切り刻みながら苦しませてやるぜ」
黄金の槌を振りかざして攻め立てるバスレーの攻撃を捌きながら、アクゼリュスがにたりと笑う。
「どうしてバスレー先生がここに!? 作戦の中には入っていなかっただろ!」
「だ、大丈夫なのかな……先生ってあんまり戦いができる印象ないんだけど……」
「バスレー大臣、その男は危険だ! 大臣が手に負える相手ではない!」
リューゼとクーデリカ、そして追って来たホークがそれぞれ突然現れたバスレーに声をかける。教員として大臣としても戦闘向きではないことを知っている各人だが――
「まあ、見ていなさいな!」
「む!?」
バスレーが笑うと黄金の槌を巨大化させて振り回し、アクゼリュスの大剣にぶつけていく。突然巨大化したことに驚愕したアクゼリュスはガード一辺倒にさせられていた。
「くたばれってんですよ!」
「ひゃははは……こいつは素直に驚いた、この攻撃は……きついぜえええ!」
「見えてます!!」
容赦なく首を狙って振り抜いた大剣は黄金の槌で弾き、お互い後方へたたらを踏む。直後、バスレーは左手のローブの裾からダガーを放つ。
「絡めてもやれるのか!? うおっ!」
「はああああああ! ‟デモニックバインド”ぉぉぉぉ!」
バスレーが叫ぶとドラのような轟音が響き渡り、ガードしたアクゼリュスの足が地面に沈む。アクゼリュスは後退して体勢を立て直そうとするが、バスレーはそれを許さず、どうみても体重より重い黄金の槌を棒切れのように振り回していた。
「す、すげぇぞ、アクゼリュスってやつマジで焦ってやがる……」
「馬鹿な……バスレー大臣が……」
「リューゼ君、助けに入らないと! チャンスだよ!」
「お、おう! 行くぜホークさん!」
クーデリカがハッと気づき四方からアクゼリュスへと向かい、攻撃を仕掛けようと武器を構える。だが、その瞬間バスレーがアクゼリュスを吹き飛ばしリューゼ達の前で槌をスタンプし足を止めさせた。
「うわわ!? な、なにするの先生!?」
「……申し訳ありませんがここは手出し無用でお願いします。ホークさん、陛下に言っても構いません」
「何を言う、ここは協力して――」
ホークが拳を握り叫ぶが、バスレーは再び地面を叩いて威嚇する。
「ダメなんです、わたしがやらないと……お父さんとお母さんをわたしの目の前で殺したあの男は、この手で」
「な、なんだと……先生、そりゃどういうことだ? それにその顔……」
リューゼが狼狽えたのも無理はない。バスレーの目の下にはクマのようなものが浮かび上がり、首にも見知らぬ文様が浮かんでいたからだ。
「ふう……大丈夫、すぐ終わらせます。……わたしはエバーライドで生まれた者でしてね、あの戦争に巻き込まれた一人ですよ」
「ひゃはははは! へえ、あの時いたのかよ、まだガキだったんじゃねえか?」
「……そうですねえ、まだ三つか四つくらいだったでしょうか……お父さんはエバーライドの大臣をやっていましてね、お城でお仕事に従事していました」
バスレーは黄金の槌を肩に担ぎ、一歩ずつアクゼリュスへ近づきながら誰にともなく話し始める。
「戦争が始まったあの日、お城は喧噪に包まれ、私はお母さんと一緒に震えていたんです。それでも、エバーライドには精鋭となる十人の騎士や魔法使いの隊長を持つ部隊が居たし、【戦鬼】が居たとしても引き分けには持ち込めるだろうと」
「そういえば陛下に聞いたことがある、エバーライドがベリアースに対抗できる力はあったのに何故負けたのか、と……」
ホークが喉を鳴らすと、バスレーは目線だけ向けて微笑むとさらに一歩進む。
「そう、勝てないまでも『負けることも無い』はずだった戦い……しかし、国境の戦いが始まった瞬間、その十人は反旗を翻し、エバーライドの民を次々と虐殺していったのです」
「ひゃっはっは! そうよ、あれは傑作だったぜえ、仲間だと思っていたやつらに後ろから刺されたんだからなあああ!」
「その後は分かりやすい結末でした。その十人は町を燃やし、城を攻め、国王と王妃を殺し……そしてわたしの両親も殺されました。その時、窓から投げ出されたわたしは落ちる寸前に両親を殺した男の顔を見ました」
「それが、そいつなの……?」
クーデリカが苦し気な顔で呟くと、振り向かずに頷くとアクゼリュスを睨みつける。
「……どうしてわたしの両親を殺したのです?」
「ひゃっはっは、そりゃあ戦争だからな、強い方につくのは当たり前だろうがよ!」
「『あなた』はそんなことをするはずないのに、どうして……」
「あん? なんだ何を言ってやがる?」
「バスレー先生……?」
視線を逸らさずアクゼリュスを睨み、そして、告げる。
「そんなことができるはずが無いんですよ。……何故なら『あなた』はわたしの両親の息子だから」
「なんだって……?」
「……」
そこで、アクゼリュスはニヤついた笑みがピタリと止んだ。
「あなたの名はウェイク。フォリア=ベリファインとルイゼ=ベリファインの息子でわたしのお兄ちゃんのウェイク=ベリファインです。アクゼリュス? 誰ですか『あなた』は……!」
バスレーは激昂しながら高速で踏み込むと、アクゼリュスにデモニックバインドを叩きつける。
アクゼリュスは大剣で受け止めると、口元に笑みを浮かべて口を開いた。
「……なるほど、『俺達』を知る人間の生き残りか! 厄介なヤツを見逃したもんだ……そうとわかりゃあいたぶるのは無しだ、即殺してやる」
「できますかね? アイーアツブス……いえ、ローゼさんと同じく拘束させてもらいますよ! ‟デモニックインパクト”!!」
「うおおおおお!? ‟虚空――”」
さらに巨大化した槌を振り下ろし、アクゼリュスが技を繰り出す前に押しつぶした。
「や、やったか!」
「バスレー先生すごーい!!」
「ふっふっふ……正義は勝つんですよ。っと……力を使い過ぎましたかね……」
不敵に笑うバスレーが黄金の槌を小さくしながらそんなことを口にする。
しかしその瞬間――
「見事だ……む! 危ない!」
「え?」
「ぐはぁ……!?」
「ちぃぃぃぃぃぃぃ余計な真似を!!」
地面に挟まれぐしゃぐしゃになったアクゼリュスの目が見開き、バスレーの首を狙って大剣を突き出してきた。それに気づいたホークがバスレーを突き飛ばし、代わりに右肩から肺近くまで達する傷を負う。
「ホ、ホークさん!? こいつまだ……!」
「ひゃ、ひゃはははは……! し、死ぬかと思ったぜ……! だ、だが、俺のスキル【残虐】は俺自身を傷つけても有効でな? し、死にかけている今は絶頂の最中ってぇわけだ!!」
「ぐぅ……!」
「その【力】お、俺達と同等かそれ以上……り、理由はわからねえが……てめぇは殺して、きょ、教主に差し出して、やるぜええええ!」
アクゼリュスは苦悶の表情を浮かべながらバスレーに攻撃を仕掛けてきた――
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