第四百五十三話 残酷なスキル
「ぐ……つ、つえぇ……」
「怯むな! 数はこちらが有利だヤツとて疲弊する、休まずに攻め立てるんだ」
「は、はい!」
「ナルちゃんしっかり……!」
「ご、ごめんなさい……私のことはいいからあいつを……」
リューゼの待機していたポイントAは熾烈な戦いが繰り広げられていた。
転移してきたアクゼリュスを見たリューゼが先制を仕掛けたまでは良かったが簡単に返されてしまい、周辺の騎士を次々と切り伏せていった。
ナルは左肩を負傷し、サージュの鎧が無ければ左腕が無くなっていたかもしれない。
「ひゃはははは! どうした、意気込んだ計画をしたようだがその程度の実力じゃ俺を倒すことは――」
「黙れ、お前は俺が倒す!」
「ひゃはっ、いい太刀筋だ! レフレクシオンの騎士でも上のやつだな?」
「ホークだ、別に覚えなくてもいいぞ! リューゼ君、今の内に態勢を立て直せ」
「隊長、我々も……!」
挑発するアクゼリュスに立ち向かうホークに続き、まだ動ける騎士達が続く。
その隙にリューゼは冷や汗をかきながらナルとクーデリカに近づき声をかける。
「ナル大丈夫か? クーデリカは?」
「わたしは大丈夫! でもナルちゃんは怪我が酷いよ……」
「リューゼ、クーデリカ、悔しいけど私はこれ以上無理だわ。傷は薬があるから大丈夫。騎士さん達の救護に回らせてもらうわ」
ナルはスキルで凍らせていた傷口を解除し傷薬を塗りながらそう言うと、リューゼの目を見る。
「ああ、そうしてくれ。まだ間に合う人を助けてくれ。クーデリカも」
「ううん、わたしはあいつと戦う! ラース君も頑張っているし!」
「馬鹿言うな、見ろこの状況を! たったあれだけの攻防で何人死んだと思ってんだ! 元クラスメイトの女子をみすみす死ににいかせるわけにはいかねえ」
二十人いる騎士達のうち、七人が犠牲になった。肩口から心臓に達する傷を受けたり、首が飛ばされた騎士もいる。
リューゼ達が実力を出し切れていないのは、目の前で人が死ぬ様を見たのが初めてで、その壮絶さに竦んでしまったのだ。
目の前で死を見た元Aクラスの人間はラースとマキナ、そして先日の戦いでジャックが見たくらいである。
「それを言ったらリューゼ君もだよ! 大丈夫、わたしには【金剛力】があるから、大剣は防げるよ」
しかしクーデリカは青い顔をしながらも拳を握ってリューゼに言うと、リューゼは舌打ちをしながら大剣を担ぐ。
「くそ、知らねえぞどうなっても……! 後は頼むぞナル」
「うん。……死なないでね二人とも……」
「……おう! うらぁぁ!」
「わ、痛そう……」
ナルの心配そうな眼差しを受け、自分の頬を拳で殴りつけて鼓舞するリューゼに、クーデリカが眉を顰める。
「行くぞ!」
「うん! 【金剛力】!」
「ひゃはは! どうしたどうした! ……あん!?」
騎士達とホークを相手にしながら愉悦の声をあげるアクゼリュスに、足に【金剛力】をかけて一気に飛び掛かるクーデリカ。
「その剣が無かったら戦えないでしょ!」
さらに腕にスキルを使い巨大な斧を振り下ろす。
「うぐお!? お、重い!? 馬鹿力をした嬢ちゃんだな、ええ!」
「こわれ……ない……!? だああああ! リューゼ君!」
「うおおおらぁぁぁぁ!」
「おう!? やるじゃねぇか! びびってんのかと思ったがよ!」
「チッ、その体勢から防ぐか!」
クーデリカが離脱し、入れ替わりにリューゼが左に回り込み背中から斬りこむ。しかしアクゼリュスは大剣を逆手に持ち変え、背中側に回しリューゼの剣を止めた。
「じゃあ次は俺の……なんだと!?」
「弾けろ! 【雷撃剣】!」
「あがっ!?」
止められたら一旦引くはず、そこで迎撃をと思っていたアクゼリュスは魔法剣を食らい悲鳴をあげる。
「ファスさんから学んで作った魔法剣だ、しびれるだろ……! ホークさん!」
「助かる! ‟ハードクロス”!」
「野郎……! ‟命壊惨”」
リューゼが抑えている間にホークが十字軌道の必殺技を放つと、一撃目が胴体にヒットし鎧にヒビを入れる。だが高速で振り下ろされる二撃目の間に、アクゼリュスの鋭い連続突きがホークを吹き飛ばす。
「くっ!? あの刹那の瞬間を狙った!?」
「大剣をこんな精密に!? まずい【フレイムソード】!」
ホークがバランスを崩したところに首を刎ねようと舌を出しながら笑うアクゼリュスに魔法剣で斬りかかる。しかしそれをリューゼの方を見ずにガードし、リューゼが驚愕する。
「なんだと!?」
「ひゃっはあああああ! いいぜ、お前! 最初はびびっていたみたいだが、以前とは動きが違うな。俺を倒すため修行をしてきたってかあ?」
「わたしもいるよ!」
「小娘は初めましてだな! だが、てめぇも中々だ、殺すには惜しいぜぇ! だが、殺す、できるだけいたぶってな、ひゃはは」
「下衆が……!!」
クーデリカの斧、リューゼの剣、そして戻って来たホークの攻撃が飛び交う中、アクゼリュスは涼しい顔で捌く。さらに小刻みにリューゼ達に傷をつけていった。
「こいつ、死角からの攻撃を防御するのか!?」
「でもしっかり反撃してくる!」
「ひゃはは、驚くのはまだ早いぜ! ‟束削り”」
アクゼリュスが姿勢を低くした瞬間、ぬるりと動いて柄、側刀、突きの連続攻撃で三人を攻撃した。
「ぐあ!?」
「くっ!?」
「きゃ……!? な、なんの!!」
「……やるねえ、ひゃはは。今ので一人は仕留めたつもりだったんだが、いい装備をしているなあ」
「サージュの鎧と剣がまた欠けた……!? やっぱり偶然じゃなかったのか……」
リューゼが睨みつけると、アクゼリュスは含み笑いをしながら口を開いた。
「まあな。俺の【残酷】は人を傷つければ傷つけるほど攻撃力が増す。一日経つと効果は切れるがな」
「それで首を刎ねたのか……」
「いんや。あれはやりすぎただけだな、ひゃははは! ……今のお前達のように細かく傷つけていくほうが威力が上がるんだぜ? お前達が少しずつ苦しむたび、俺はどんどん強くなるってことだ!」
「なんてスキルだ……!?」
「最低だよこいつ……」
クーデリカが不快感を示すと、アクゼリュスは目を細めて笑う。
「誉め言葉だぜお嬢ちゃん! さて、他にもこの前居たヤツもいるみたいだしもう少し強くなっておかないといけねえな。もう少し付き合ってもらうか……さて、こうやって話すと迂闊に攻めてこなくなるよなあ?」
「……当たり前だ。それならティグレ先生が来るまで無駄な傷を増やさないようにするだけ。……それと回復したらどうなるんだろうな?」
リューゼが薬で傷を塞ぐと、アクゼリュスは満面の笑みでリューゼに言う。
「ああ、賢いなてめぇ! そう、回復すればその分力は弱まる。だから、自然治癒、傷薬を使われたら俺の力はなかなか上がらねえ。だけど、お前みたいなやつにはこうすれば突っ込んでくる――」
「……!? まずい、ナル!」
意図に気づいたリューゼが駆け出すが、アクゼリュスは迷いなく進む。騎士の治療をしていたナルがリューゼの声に気づいて振り返った瞬間、目の前にアクゼリュスが大剣を振り被っていた。
「きゃあああああ!?」
「見たところてめぇはあの小僧の恋人か? お前みたいなのを殺せば怒り狂って突っ込んできてくれるんだよなああ!」
「やめろてめぇ! ナルになんかあったらぶっ殺すぞ!」
「ひゃははははは、そうしてくれることを願うぜえええ」
「ナルちゃん!!」
不意打ち気味に攻撃されたのでナルは反撃に転じることも回避も出来ない状況だった。やられる、とクーデリカが目を覆った瞬間――
「やっと会えましたねえ、会いたかったですよアクゼリュス……」
「な、んだと……! 俺の名前を知っているだと? てめぇ何者だ……?」
「名乗るのもおこがましいですね。両親とヴェルデの仇、取らせてもらいますよ?」
――ナルとアクゼリュスの間に割ってはいる人物が、いた。金色の金槌で大剣を止めるその人影は……
「バ、バスレー先生……?」
「あ、なんで言っちゃうんですかナルちゃん!? ま、いいでしょう。わたしはバスレー、アクゼリュス、あなたを葬る者です」
「おもしれぇ……その武器……てめえタダ者じゃねえな?」
「はっ!」
アクゼリュスの言葉には答えず、バスレーは攻撃を仕掛けた。
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