第四百四十九話 師弟だからこそ本気で
「だああああ!」
「……無駄だというのがなぜ分からないのかしら……あの彼氏とやらに死体を見せることになりそうね」
「まあ、そう思うのは勝手じゃがな! ‟迅雷”!」
「……無駄だ!」
ファスが弾き飛ばされる中、さらにマキナが畳みかける。
「まだよ!」
「ぐぬ……生意気な……!!」
幾度も【拒絶】を繰り返すが怯みもせず、強力な魔法も撃ちだしているにも関わらず突撃してくることに苛立ちを感じ始めたシェリダー。
「ちょこまかと……<ハイドロストリーム>!」
「ほっほっほ、こっちじゃ」
ファスは笑みを浮かべて魔法を回避し、すぐに攻撃に転じるが【拒絶】により阻まれる。
「……こちらが疲弊するのを待っているのだとしたらそれは意味がないわ。我等十神者の魔力はそう簡単に尽きることはないから」
「そうなのね? だけど安心して、あなたはここで終わるから」
「……小娘が……!」
苛立ちで歯噛みをするシェリダー。
直後、ファスがマキナとサージュに目配せをし、頷いたマキナはファスと共にシェリダーを挟むように立つと、サージュは頭上でホバリングを始めた。
「……なんのつもりか分からないけど、私は両手から同時に魔法を撃てるのよ? <ファイヤーボール>!」
先に仕掛けたのは早くこの場を終わらせたいシェリダーだった。撃ちだした火球は的確にマキナとファスめがけて飛んでいく
「師匠!」
「うむ! 覚悟せいよマキナ!」
「は、はい……!」
「……? どういう意味だ? ファイヤーボールを避けたからと言って私に攻撃は通ら――」
シェリダーが不敵に笑い【拒絶】を張る。先ほどまでと同じくふたりを吹き飛ばし、魔法で追撃しようと思ったその時、シェリダーの全身から冷や汗が噴き出た。
「くぅ……!」
「まだじゃぞマキナ! はああああああ!!」
「……!? な、なんだ!?」
マキナとファスの拳はシェリダーの後頭部と目の前を掠め、ファスの拳がマキナの頬をかすり、傷を作る。シェリダーは慌ててその場を離れようとするも、ファスが体を使って逃がさず、マキナはファスに対抗すべく下から上へ拳を振り上げた。
「とぁあああ!」
「きょ、【拒絶】! ……で、できな……ごふ……!?」
マキナの拳はシェリダーの脇腹にクリーンヒットし、体がくの字に折れ曲がる。そして頭上にはファスの拳が迫っていた。
「【拒絶】……! くっ……」
「ちっ!」
ファスの攻撃が弾かれ、シェリダーは転がるようにその場から離れると、ファスはマキナと衝突し地面に転がる。
せき込みながら立ち上がるシェリダーにサージュの火球が降り注ぐ。
「げほ……こ、こんなもの! 【拒絶】!」
<ふん、我とファスの考えていたことが当たっていたようだな>
「……なんだと? まさか、私のスキルの正体を見極めたというの……!?」
ありえないといった表情で片方の眉を吊り上げて叫ぶ彼女に、ファスがニヤリと笑みを浮かべて話し出す。
「おぬしの【拒絶】は確かに完全なる防御スキル。ワシの技はおろか、マキナのカイザーナックルすらも退けるソレは見事としか言いようがない」
「……」
「しかし、スキルはスキル。完全無欠というわけにはいかないようじゃな。まあ、すべてを拒絶出来るなら一人でも町を占拠できるじゃろうしな」
ファスが得意げに語ると、対照的にシェリダーの顔が険しくなっていく。
「……何が言いたい?」
「ほっほっほ、今のマキナの一撃で確実なものとなった。お主のスキルの正体……『自分に向いた攻撃や悪意を拒絶することができる』のじゃろう? 先ほど仕掛けた攻撃はお主にではなく、ワシはマキナへ」
「私は師匠に攻撃をしたのよ」
マキナは少しずつ距離を詰めながらファスに呼応する。冷や汗をかきながらシェリダーはファスに目を向けて口を開く。
「確かにあなたの言う通りよ……なぜ気づいた? この特性に気づくことはほぼ不可能……なのに、なぜ……!」
「一瞬、ほんの一瞬。お主はマキナが弾いた魔法を避けたな? それで気づいたのじゃ自分に向いていない攻撃は返せないのだと」
ファスが拳を突き出してそう告げると、青い顔をしてシェリダーが叫ぶ。
「あ、あの時!? たった、それだけのことで見破ったというの……!?」
「……ワシら格闘家はその『一瞬』を見極める。近接戦闘において、一瞬というのは時に勝機、時に油断を招く」
「だから――」
マキナとファスは喋りながら地面を蹴る。
「残念じゃが、スキルの性能に驕ったお主の負け。アイーアツブスもそうじゃったが……戦士ではない者が戦場に出てくるのではないわ……!!」
恐らく、ラース達と出会ってから一度も見せたことがない怒りの表情を見せ、‟雷撃”がシェリダーに迫る。マキナも近づき、ふたりは拳を握り、振りかぶった。
「師匠、手加減しませんからね! 【カイザーナックル】!」
「あははははは! 当然! ……避けるのよマキナ! 死んだら私がラースに殺されるからね! 一の奥義‟瞬迅雷撃拳”!」
年相応の口調で心底嬉しいという顔で奥義を放つファス。
「【拒絶】【拒絶】【きょぜ――」
お互いの気迫に飲まれ動けないシェリダーが必至でスキルを使うが、マキナとファスの目にはシェリダーなど入っておらず――
「ぐううう! ……だあ!」
「はは! さすが私が見込んだだけのことはあるね!」
――シェリダーの眼前で技同士が炸裂……する瞬間、サージュが割って入る。
<この力、全て女に飛ばすぞ!>
オートプロテクションで曲げられた雷とカイザーナックルの衝撃がシェリダーを襲った!
「ぎゃああああああああ!? 馬鹿な……!? どうして私が負ける……わた、しは……何もかも【拒絶】でき――」
気絶したシェリダーはローブをズタズタにされ、意識を飛ばし近くの家屋に叩きつけられて地面に横たわった。
「……所詮、人の心の隙を狙うしかできないあんたたちだ。そうやって這いつくばっているのがお似合いだよ」
「私と師匠の拳を侮ったのが敗因よ。もう聞こえていないでしょうけど、ね」
そう言ってマキナとファスは拳を合わせながら笑うのだった。
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