第四百四十八話 【拒絶】をする女


 ケムダーにドラゴニックブレイズを仕掛けたそのころ――


 「決まったわね。あの距離で無事な相手はいないわ」

 「……ケムダーがやられた……!?」

 「ふっふっふ、ワシらを甘く見た報いじゃな。‟雷牙”!!」

 「……その攻撃を【拒絶】する」

 「ちっ、さっきから厄介じゃな」

 「カイザーナックルも当たらなかったですしね……」

 「……この【拒絶】のシェリダーをケムダーと同じと思うな? 貴様等のような小娘に負けはしないわ」


 ――マキナとファスはシェリダーへ幾度か攻撃を仕掛けていたが【拒絶】のスキルで吹き飛ばされ近づくことさえままならない。今ファスが放った雷牙も見えない壁に阻まれ後ろに追いやられていた。


 <これならどうだ!>

 「……同じことよ【拒絶】するわ」

 「その隙、もらった! ‟雷塵拳”!」


 巨大化したサージュが簡単に吹き飛ばせないように上空からボディプレスで広範囲にわたりのしかかろうとし、その横からマキナが雷をまとった拳を叩きつけようと迫っていく。

 しかし、シェリダーが上に手を突き出して叫ぶと、サージュは巻き戻しのように空へ舞い上がる。


 「……無駄!」

 <ぬお!?>

 「決まれ……!」

 「私に向かう攻撃は全て【拒絶】する!! そこの女、残念だったわね」

 「きゃ……!? 雷が散らされた……!」

 

 マキナが拳を弾かれ大きくのけぞり、その後ろから入れ替わるようにファスの攻撃が伸びていたがそれも届かなかった。


 「ふん、なるほどのう。相手を飛ばす、その場で弾くといった芸当ができるスキルか。防御は完璧じゃが、それでは攻撃ができまい?」

 「……フフ、確かに私のスキルは防御に特化している。本来ならケムダーのような戦士を守りながら戦う必要があるわ。だけど――」

 「だけど……?」

 

 マキナが構えたまま聞き返すと、シェリダーは口元を大きくゆがめて手をふたりに向けてから叫ぶ。


 「……私自身も戦闘ができるとしたらどうかしらね!! <ウインドブレス>!」

 「上級魔法!? 【カイザーナックル】!!」

 「ワシは回り込む、マキナ休まずに攻めるぞ!」

 「はい! ……ぐぬぬぬぬ……! だあああ!」

 「……やるわね! <ハイドロストリーム> む……?」

 <我も手伝うぞ>


 カイザーナックルで切り裂く暴風を相殺したマキナはその足でシェリダーへ向かうと、迎撃するためハイドロストリームを放つ。

 しかし激流の水はサージュのオートプロテクションでかき消えていった。


 「はああああああ!」

 「無駄だと言っている。【拒絶】! <ファイヤーボール>!」

 「なんの!」

 「拳で弾いた……!? ええい、離れろ!」

 「くっ……!」

 「師匠! このお!」

 「しつこい……! <ファイアアロー>!」

 「あたれぇぇぇぇ!」


 至近距離のファイアアローにも怯まず、シェリダー目掛けて渾身の一撃を繰り出した。


 「きゃあ!?」

 「え!?」


 シェリダーの顔面を捉えていたが、薄皮一枚のところでやはり透明な壁のようなものに阻まれた。しかしシェリダーはそこまで肉薄するとは思っていなかったのか珍しく悲鳴を上げた。


 「……コホン。無駄よ【拒絶】させてもらう! おまけよ<ファイヤーボール>」

 「ひゃあ!? サージュの火球に比べたら大したことは……!」


 マキナは後ろに下がりながら飛んできたファイヤーボールを正面から殴ってシェリダーに返す。


 「……馬鹿力だな小娘。そんなことでは男にモテないぞ?」


 シェリダーは返されたファイヤーボールを避けながら目を細めて笑うと、マキナは肩を竦めて短く返す。


 「余計なお世話よ。私には彼氏がいるし」

 「ワシも旦那がおるぞ」

 「……な!?」


 マキナに乗じてファスがカミングアウトすると、身体は微動だにせず目を見開く。


 「……ふん、見え透いた嘘を言うわね。なら、妄想彼氏にその死体を晒すといいわ……!」

 「嘘じゃないわ、あなたの頭上に居るのが私の彼氏よ!」

 「なに……? ケムダーと戦っていたやつか!」


 頭上にラースを見つけたシェリダーに、マキナが再び攻めていく。そしてファスは頭上にいるラースに向かって声をかける。


 「ラース! お主はそこで見ておれ! ワシに考えがある! マキナ、それがダメなら一旦下がれ。サージュ、お主も手伝ってもらうぞ」

 

 ラースは急降下を辞めて空中で頷くと、ファスが頷き返してマキナの方へ向く。そこでサージュがマキナ達と同じくらいの大きさになり口を開く。


 <ふむ、我も先ほど気づいたことがあるが、それと同じことか?>

 「さてどうかのう。あの【拒絶】というスキルは絶対防御じゃ。このままやっていても負けはせんが勝てもせん。散った兵を殺させんとなると時間が惜しい」

 

 ファスがそう言った直後、マキナが砂煙を上げて後退してきた。


 「ごめんなさい師匠、あれを抜くのは難しいわ」

 「うむ。恐らく全力の【カイザーナックル】でも破ることはできんはずじゃ。そしてあれほどのスキルを使いながら魔力切れの様子も見せん上に魔法を使う。しかし、ヤツとて無敵ではない――」

 

 マキナとサージュに耳打ちをするファス。その言葉を聞いたマキナは手を打ってにやりと笑う。


 「……確かにそれならラースは居ない方がいいわね。サージュ、頼りにしているわよ」

 <やれやれ。お主達、ラースに似てきたのではないか?>

 「それを言うならサージュもじゃろう。……いくぞ!」


 「……無駄な話し合いは終わったか? <アクアバレット>! 終わらせてもらう」

 「あなたがね! 【カイザーナックル】!」


 マキナはアクアバレットを拳で弾き飛ばしながらシェリダーへ向かい、そして――

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