第四百三十七話 苦戦の末


 「<ファイアーボール>! イーグルさんこっち!」

 「おう! ‟ヘビィスラッシュ”!」

 「はははははは! 軽いな!」

 

 魔力を回復させた俺は、円を動くように動きイーグルさんの援護をしながらケムダーのスキルの秘密を探る。しかし、無尽蔵に強くなっているような気がするヤツを止めるのが精一杯という有様だ。


 「近距離ならどうだ!」


 イーグルさんの攻撃をガードしているケムダーにドラゴンファングで攻撃を仕掛ける。死角から、さらにフェイントならどうだ……!


 「伊達に魔法使いではないようだ、頭は働くようだな? だが!」

 「くっ、これでもダメか! うわ……!?」

 

 なんとケムダーは俺の剣を素手で掴み、力任せに投げ捨ててきた! レビテーションで態勢を立て直していると、視界の端でイーグルさんの大剣がケムダーの脇腹を捉えているのが見えた。


 「くらえ!」

 「くぅ……まだ抵抗するか!」

 「うお!?」


 惜しい……! 根元まで食い込む寸前でケムダーのランスの柄で殴られ、イーグルさんが片膝をつく。しかし、今の一撃で血が流れたのでダメージは通っているようだ。


 「死ね!」

 「俺を忘れてるんじゃないだろうな!」

 「小僧ぉ!!」

 「<ファイアアロー>だ!!」


 何度目かの金属音が響く。

 ストレングスで強化したので、片手でランスを捌きながら左手で魔法を炸裂させる。こいつの弱点はなんだ……!


 「くっ!?」

 「どうした、動きが鈍くなってきたぞ? 次はその心臓を貫いてくれる、そうすれば回復などできんだろう」


 避けたつもりだったが、ランスが頬を掠め、血が噴き出す。


 「まだ、だ!」

 「うぬ……!?」


 しかし俺は引かず、空中からサージュブレイドを振り抜いて左の肩口から胸までを切り裂いた。ケムダーの胸当ては真っ二つに割れ、うっすら胸板に傷をつけることができた。

 返す刀で切り上げようとしたが、その瞬間蹴りを入れられて、俺は後方へ吹き飛ばされる。


 「ふう……まさかここまでやるとは、さすがに驚いた。正直なところ、私一人で蹂躙できると思っていたからな」

 「……こっちはアイーアツブスを倒しているんだ、これくらいはやらせてもらう」


 ランスを振って血を振り払いながらケムダーが左手の親指を舐めながら目を細める。鎧まで破壊されたことが衝撃だったらしい。


 「おしゃべりしている暇はないぞ!」

 「雑魚が何度来ようとも同じだ!」

 「こいつ……まだ力が……!」


 なおもイーグルさんが攻撃を仕掛け、あっさりと受け止められ驚愕する。しかし、素早さを活かしてあらゆる角度から攻撃し、ケムダーも迂闊には手を出せないでいた。俺も援護にと思ったところで違和感に気づく。


 「……ん? さっきあいつの左肩に俺の血が吸い込まれていったよな? 今度は吸収しないのか?」


 血を吸収して強くなっていると思っていたが違うのか……?


 「フフ……フハハハハハ……捕まえたぞ」

 「ぐぬ、離せっ!!」

 「いけない!」


 イーグルさんの首を捉えたケムダーが笑う。俺の位置からでも嫌な音が聞こえ、救出するため駆け出した。


 「止めろ!」

 「くく……首の骨を折ってやる」


 その瞬間、右手に持っていたランスが鈍く光ったのを見逃さなかった。そして俺とイーグルさんがつけた傷から散った血を吸収し始めた。


 「これか……! <ファイアランス>! 【簡易鑑定】」

 「まだこんな魔法を!?」

 

 イーグルさんを掴んだ左手を狙って高速のファイアランスを投げつけると慌ててイーグルさんを投げ捨てて回避した。アイーアツブスのように再生するかと思ったけど、そういうわけではないのだろうか。

 

 それはともかく簡易鑑定をした結果だけど、残念ながらアクセスができなかった。

 俺の能力が低いこともあるが、道具に対してできないということは初めてだ。恐らく、こいつのスキルは――


 「【貪欲】で力を吸収しているのは傷口の血じゃなく、そのランスで周囲の人間や動物、空気中の魔力を取り込んで自身の強化をしているな? アイーアツブスと同じようなものだと睨んでいたけど、まさか血の吸収がフェイクだとはね」

 「……気づいたか。本当に頭は回るようだな? アイーアツブスを倒したというのは嘘ではないらしい。しかし、貴様の予測とは少し、違う。私は右手で掴んだものから魔力を吸収することができるのだよ。ただの棒切れでもできるぞ?」

 

 なるほど、そういうスキルか。しかし腕を使うという点においてはアイーアツブスと同じだ。

 さて、そうなるともう一つ気になることがあるけど、正体が分かったのなら一気にケリをつけるべきだと俺はイーグルさんに声をかける。


 「イーグルさん、狙いはランスただひとつだ! 一点狙いでいくよ」

 「承知。余力を残したかったが、そうもいっていられないようだ」


 唾を吐きながら大剣を肩に担ぎ、前傾姿勢の構えを取った。俺はサージュブレイドを半身で構えた後、即駆け出した!


 「はあああああ!」

 「おおおおおお!」

 「最後は突っ込んでくるだけか? 強化された私に勝てると思うなよ!」

 

 もちろんそれで終わる俺達ではない。


 「<ドラゴニック――>」

 「なに……! こんな至近距離で放てば貴様らも無事ではすまんぞ! 穿孔槍牙!」

 「ヘビィスラッシャー!」

 「チッ、騎士が……! 貴様、死ぬ気か?」

 「そんなつもりはない……! これでどうだ!」

 「足を……!? まずい、小僧を止めねば――」


 イーグルさんがケムダーの技を弾いた瞬間、大剣でケムダーの足を刺し貫き動きを封じる。迫る俺に槍を突き出すが、その直後、俺は転移魔法で姿を消した。


 「な!?」

 「<――ブレイズ>!」

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 頭上に出た俺は、右半身に向かってドラゴニックブレイズを放った。竜の顎が噛みつくように右腕を飲み込んだ。


 「うぐああああ……」


 たまらずランスを取り落とし、膝をつくケムダー。トドメを決めるため着地をすると、膝をついた状態から血走った眼で俺に肉薄してきた!


 「小僧がぁぁぁぁぁ! 素手でも貴様から【貪欲】で魔力を吸えるのだぞ! 干からびろ……!」

 「まだ動けるのか、アイーアツブスと同じでしぶといな! セフィロ!」

 「!!」

 「な、んだ……と!?」


 伸びたケムダーの手。

 それが拳一つ分で届くというところで、俺の懐から出てきたセフィロが止める。


 「こいつはまさかトレント……? しかしこんな苗木のような個体では――」

 「!」


 標的をセフィロに変えて握りつぶそうとするケムダー。しかし、その時セフィロの体が輝き枝が光り輝く刃になる。


 「馬鹿な……俺の右腕が……」

 

 セフィロが刃を振り下ろすと、右腕は肩まで真っ二つになり、魚の開きみたいになった。そして、セフィロはケムダーの左胸を貫く。


 「貴様……まさか、セフィロトの――」


 そう呟いた後、ケムダーは動かなくなった。じわりと地面に広がる血が、終わりを告げた。


 「ふう……セフィロのことまでは読めなかったようだな」

 「♪」

 「倒したか。厳しい訓練をしてきたが、強敵だった。俺もまだまだということか」

 「こいつらはちょっと特殊だからなんとも。多分まだ死んでいないから、イーグルさんはこいつの拘束と監視をお願いしていいかな」

 「ラース君は?」

 「それはもちろん――」


 俺は離れた場所で戦っているマキナとファスさんに目を向ける。

 

 「次はあいつだ」

 「気をつけろよ」


 俺はイーグルさんの言葉に頷き、レビテーションで飛びながら魔力回復薬を飲む。


 まずは一人。


 俺の予想が正しければ、十神者はまだ謎があるはず……そう思いながらセフィロを懐に入れ、上空からの奇襲を仕掛けた。

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