第四百五十話 軍団vs軍団


 「……あれがファスさんの本気、か」


 ストップがかかったので上空に待機して見ていたけど、確かにあの中に俺が入っても邪魔になるだけだろう。いつでも飛び出せる準備はしていたけど、ファスさんひとりで倒せたのではとも思う。


 「瞬迅雷撃拳……ストレートからの肘打ち、裏拳の振り下ろしからのショートアッパー。そのすべてに雷をまとわせているので速度から考えるともはやサンダーストームと言ってもいいレベルだな……」


 絶対に本気のファスさんとやり合いたくないなと思いながら俺はマキナ達の下へと降下する。首謀者のふたりは掴まえたし、後はアクゼリュスとかいうやつを抑えればひとまず収束できるはずだ。


 「お疲れ様、ふたりとも。それとサージュも」

 <うむ。なかなか肝が冷えたぞ>

 「ほっほっほ、ドラゴンとも戦ったことがあるぞ? まあ、骨が折れるが全盛期なら倒せるかもしれんな」

 「サージュを倒したらダメですからね、師匠? ひとまず十神者のふたりを倒せたわね。次はどうするの?」


 サージュがファスさんが伸ばした手から離れ、マキナが俺に向かって言う。俺はイーグルさんと、エバーライドの兵士を見て口を開く。


 「ファスさんとイーグルさんはここに残ってケムダーとシェリダーだっけ? こいつの監視を頼むよ。マキナは俺と一緒に屋敷へ向かう。そっちのおじさんも一緒にいいかい?」

 「む……。も、もちろんだ。まさかこうもあっさりとこの二人を倒すとは思わなかった……これならエバーライドを取り返すことができるかもしれんな……」

 「ああ! 王子が居るならなおのことだ、少年、仲間の後を追おう!」

 「うん。説得を頼むよ、今見たことを言えば付いて来てくれると思う」


 俺達は頷き、ファスさん達を置いて屋敷へ向かおうとしたその時、門の方から地響きのような音が聞こええてきた。


 「なんだ!?」

 「あ、あれってゴブリンじゃない!? それも大量よ!」


 マキナの言う通り、外から町の中へゴブリンの群れが入ってくるのが見え、俺達は驚愕する。だけど、前回の戦いでそういうスキルを持っている男が作っていたらしいことは知っていた。


 <かぁ!>

 

 即座にサージュが大きくなり火球は吐き出してゴブリンが燃え尽きた。やはりというか燃えたゴブリンは一枚の紙切れに姿を変える。そこでどこからともなく声が響く。


 「ふははは! 十神者も不甲斐ない、アレを助ければ私は教主様に認められる! 奪い返せゴブリンども! 裏切り者は殺しても構わんからな」


 どこに居るのか分からないが声だけは聞こえてくる。門の外だろうけど、レビテーションで飛ばないと近づけないくらいゴブリン達が突っ込んでくる。


 「狙いはこのふたりか、サージュ背に乗せるのじゃ! この数はいくらワシらでも捌ききれん」

 <任せろ>

 「うおっと……あの時のドラゴンか、久しぶりだな」


 すぐにサージュは手のひらにファスさんとイーグルさん、そして十神者のふたりを連れて空に舞う。


 「師匠!」

 「お前達は行け! 町が蹂躙されるのは悔しいが仕方ない」

 「わかった! 走るよマキナ、おじさん達!」

 「うん!」

 

 上昇しながらイーグルさんが敵を探してくれとサージュに声をかけるのが聞こえてきた。

 あっちは任せて、俺達も走りながら背後から迫ってくるゴブリンに魔法を放って蹴散らすが、本当に数が多い。一体くらいなら大丈夫だろうけど、あの数では追いつかれたら兵士達も無事では済まないだろう。


 「ここは私が――きゃあ!?」

 「残させるわけないだろ? 足を動かすぞマキナ」

 「しかし、逃げきれても結局倒さねばならないのではないか?」


 足はそれほど速くないが、おじさん兵士の言う通り、どこかで反撃に転じなければ囲まれる。広場で迎え撃つかと考えた瞬間、今度は目の前から驚くべきものが向かってくるのが見えた。


 「いやああああああ骨ぇぇぇぇ!?」

 「おっと、これの方が楽だな。というかスケルトンの大群ってことは――」

 「お、おのれ挟み撃ちか……!」


 そう、目の前にはスケルトン軍団が大挙し押し寄せてきていたのだ。マキナが俺に抱き着いてきたので、お姫様抱っこで抱えてレビテーションで飛ぶ。

 おじさん兵士が迎撃しようと剣や槍を構えるが、俺はそれを止める。


 「待ってくれ! このスケルトンは敵じゃない!」

 「ええ!? そんなことが……」

 「間に合った! ラース!」


 そこへ案の定、ウルカが現れた。

 サージュ装備に緑のローブを着て、右手にはショートソード、そして左手には……本?


 「やっぱりウルカか。見ての通りゴブリンの大群だ、いけるか?」

 「もちろんだよ。騎士の人達も居るし、食い止めて見せる」

 「その本は何だい?」

 「え? ああ、これはレッツェルが僕に手渡してくれた本で‟死禁の書”って言うんだ。僕のスキルに合うみたいで、スケルトンの大量召喚ができるようになったよ」


 あいつ、俺の知らないところで何をやってるんだ……? このゴブリン達を予知で見越したってところだろうけど。それでも渡りに船だ、数十人の騎士も居るしここは任せよう。


 「悪いけどここは頼む! 俺はライド王子達を連れてこないといけないんだ」

 「任せてよ! 『死者の道を妨げる者に報復を』!」


 ウルカが笑顔を浮かべて俺に頷き、力強い言葉でこの場を預かると言ってすれ違う。ゴブリン達もあちこちに散り始めたので迎撃は難しくないはずだ。リューゼと並ぶ成長株はやっぱりウルカだなと俺は思う。


 「ウルカには世話になりっぱなしだな」

 「そうね、ミルフィとの結婚式を豪勢にしてあげようかしら?」

 「あ、それいいね。……俺達も考えないとな」

 「う、うん……」

 「少年、広場だ!」

 「あ、ああ!」

 

 顔を赤くした俺達は一旦広場でおじさん兵士達を合流させ、十神者を倒したことを告げると歓喜の声が上がった。


 「し、しかし、我らが戻らなかったら家族が危険ではないか……?」

 「そのあたりはレフレクシオン王国に考えがあるそうです。すみませんが、王子を連れてくるので、もう少しここにいてください」

 「頼む! 他の者たちがやられるまえに見つけねば……」


 そして俺達は屋敷へと戻る。

 そういえばあのベリアース王国の騎士とアクゼリュスはどうなっているだろう……ティグレ先生とリューゼなら大丈夫だとは思うけど。


 しかし、戦場は俺が思っていたよりも複雑になっていた――

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