第四百三十五話 説得と臨機応変


 女性には女性をぶつけるという意図はなかったけど、マキナとファスさんが女を相手にするので図らずも男女分かれての戦いになった。

 

 「ふん、私相手にたったふたりか? 舐められたものだ」

 「こっちにも事情があるんでね。それより、お前は十神者だな? 飛ばした大剣使い、それと向こうにいる女。この三人が、だ」

 

 俺は剣を半身で構えて馬上の男に質問を投げかける。すると、男は片方の眉を上げながら口を開く。


 「……ほう、我々を知っているのか? 存在自体、シークレットなのだがな」

 「お前たちの仲間、アイーアツブスを捕まえているか、と言ったら?」

 「なんだと……?」


 今度は目を細めて俺を見てくる。その目を見据えたまま、言葉を返す。


 「【不安定】とかいうスキルで苦労したよ。サンディオラを手に入れようとしたみたいだけど、阻止させてもらったよ。向こうの女は【拒絶】というスキルらしいけど、お前はなんのスキルを持っているんだ?」

 「なるほど、ハッタリではなさそうだ! いいだろう、我が名はケムダー……【貪欲】のケムダーだ! この私に倒されることを光栄に思って……死ね! お前たちは一番と五番までここに残り、他は町に散れ。敵の数は少ないので一気にかかれば押しつぶせる。あの小娘たちは捕えたら好きにしてよいぞ? かかれ!」


 ケムダー……そして貪欲。

 これは偶然か? 前の世界と同じ名称で邪悪の樹の名を冠する。アイーアツブスもそうだし、向こうの女は恐らくシェリダーだろう。

 そんなことを考えているとケムダーの号令で兵士たちが町へ向かい、俺達を数十人が囲んでくる。武器を構えて今にも飛び掛かってきそうな彼らに告げる。


 「待ってくれ! あなた達はベリアースではなく、エバーライド王国の人間と聞いている! 今、この町にエバーライド王国の王子と側近が救援のため滞在しているんだ。王子があなた達兵士を殺さないようにと懇願してきたので、できれば戦いたくない! 引いてくれ!」

 「ラース君の言う通りだ! 私はレフレクシオン王国の騎士団長でイーグルという! こちらにはあなたがたを受け入れる準備がある。引いてくれ」


 イーグルさんも声をかけてくれ、兵士たちの動きが止まりどよめきが起こる。まあ、いきなりそんなことを言われても難しいのは承知の上。


 「世迷言をぬかすな! 貴様等、我等の言うことを聞かんのであればどうなるか分かっているんだろうな? 自らはおろか、家族も処刑の対象になるのだ――むお!?」

 「大丈夫だ、俺達が必ずこいつらを倒す! そのまま動かないでくれ!」


 俺はケムダーの語りを止めるべく切りかかった。馬上なので、レビテーションを使って切り結んでいると、先頭に立つ兵士が呻くように声を出す。


 「う、むう……し、しかし、倒せねば家族は……」


 流石に家族を人質に取られていたらそう簡単に頷いてはくれないか。ならばと俺はケムダーを力任せに弾き飛ばす。


 「くっ……!? 魔法使いのくせになんて力だ……」

 「こっちだ!」

 「騎士ごときが生意気を言う!」


 俺に突きかかってこようとしたケムダーを、背後からイーグルさんが仕掛けてくれ意識がそっちに向く。その隙に、俺は兵士たちに向かって叫ぶ。


 「<ドラゴニックブレイズ>!」

 「……!!?」


 凄まじい轟音が集まっている兵士の少し手前で爆発し、地面がえぐり取られ大きな穴が開いた。


 「脅かしてすまない。けど、攻撃をされたら俺達も戦わざるを得ないんだ。ライド王子に免じてここは大人しくしてくれないか?」

 「むう……」


 渋い顔をする兵士の男が少し唸った後、振り返って号令を出した。


 「……一番から五番の兵士は町へ散ってほかの部隊の援護へまわれ。リーダーはここに残る。以上だ!」

 「そ、そんなことをして……」

 「勝手なことを言うな! 貴様らは我々に従っていれば……しつこいぞ騎士!」

 「ケムダー様、戦闘が始まれば各隊のリーダーが権限を持って号令をするようおっしゃっていたはず。なので、ここはリーダーであるこの私が責任をもって残るということで……」

 

 小声で『逃げろ』と他の兵士に言っていた。俺たちが負けた場合、何とかして国へ逃げるつもりなのかもしれない。だが、どのみちここで反逆した時点で俺達がこいつらに勝つ以外の道は彼らにない。


 「……ありがとう! ライド王子はそのうちどこかに現れるから、固まっていてくれ。できればすでに散った兵士たちにも告げて!」

 「わ、わかった……! くそ、なにがなんだかわからねえが、こいつらを倒してくれるってんなら賭ける価値はあるか……それにしても王子……生きていたのか?」


 そしてこの場に残ったのは俺とイーグルさん、そして――


 <我はどうする? この男を捻りつぶすか?>


 ――サージュが残っていた。


 「サージュは小さくなってマキナの援護を。こいつは俺とイーグルさんで大丈夫だろ」

 <フッ、承知した。油断するなよ?>


 そういってサージュは小さくなり、素早い動きで回り込むファスさんとマキナの方へ向かって飛んでいく。そこで俺達の言葉を聞いていたケムダーがイーグルさんの盾に槍を叩きつけた後、距離を取るため馬を走らせた。


 「私が二人で大丈夫、だと? ……クソガキが、ふざけたことをぬかすんじゃないぞ!! 貴様らを引き裂いてレフレクシオンへの宣戦布告にしてやろう……女子供は信者と子を産む道具として活用させてもらうがな」

 「できるといいな?」

 「なに? ……む!」


 直後、俺はファイアアローを放ち、距離を詰める。この町には今住人がいないけど、それを教えてやる必要はない。ファイアアローを嫌がり、馬での移動をするが俺は進路方向に回り込みサージュブレイドを振るう。


 「ふん! 甘い!」

 「速いな……! イーグルさん!」

 「おうよ! 生きてたら俺が飼ってやるからな……!」


 ケムダーが俺からの攻撃を馬で側面に回り込みながら槍を連続で突き出してくる。その鋭さに驚くが、オートプロテクションを破るような一撃なのでこれを受けるわけにはいかない。

 ならばどうするか? まずは機動力を削ぐ必要があるので、騎馬から引きずり下ろすことを優先する。

 俺の放ったファイアアローを避けた先にはイーグルさんが立っており、馬が進路を変えた瞬間、渾身の力で盾を馬の頭にぶつけた。


 「ぶひひーん!?」

 「こ、こら、暴れるな! くそ……」


 馬はその場に崩れ落ちて昏倒。

 ケムダーは大きく落馬したが、うまく着地して槍と盾を構え、俺達を睨みつけてくる。


 「馬が無かろうが問題はない。いくら策を講じようが死ぬのは貴様等だと知れ……!」

 「もう一度言うぞ? そうだといいな! <ハイドストリーム>!」


 さて、こいつのスキルはどういったものかわからないけど第二ラウンドといこうか!!

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