第四百四十二話 迎え撃つ者たち
ガストの住人を王都へ匿う計画は最終段階を迎え、決戦まであと一息というところになった。サージュと一緒に偵察をした限り、恐らくガストの町へ到着するのは明後日かその次の日だろう。
どうしてか? 長い行軍をしてきた彼らがそのまま戦いに入っても疲れて本領が発揮できない。なので、最低一晩、長くて二日は休みを取るのではないかと考えたからだ。
そして今は、レフレクシオン城の会議室で最終の打ち合わせをしている。
「ふむ……野営に強襲してはどうだ?」
「それだとエバーライドの人達に被害が出ます。やはり最初に町へ誘い込む形がいいでしょう。学院のグラウンドや広場には罠も仕掛けていますので、捕縛は難しくないかと」
オヴィリヴィオン学院の学院長リブレがライド王子に気を遣い、町の中で殺傷無く捕縛するための罠を色々仕掛けていた。
「分かった。しかしこちらの損害は避けたい。戦闘が避けられぬ場合はその限りではない。ライド王子、良いですな?」
「……はい。僕も説得にあたりますから、どうかよろしくお願いします」
フレデリックさんが確認のためライド王子に目を向けると、決意の目をして頷く。騎士達との訓練もあり、出会った数日前に比べると顔つきが引き締まった気がする。そこで、あまり変わっていないオルデン王子が後ろ頭に手を組んで口を開く。
「僕はお留守番だってさ、結構頑張ったのにね?」
「フフ、前線で戦わせるわけないじゃないですか。でも、ありがとうございます。オルデン王子のおかげで僕もそれなりに戦えるようになりました」
「……ちゃんと戻ってきてよ? じゃないと面白くないよ」
「はい……」
王子同士仲良くしているのはいいことだなと思いつつ、俺達はさらに打ち合わせを続ける。この場には戦闘に参加する俺達と、騎士達の各隊リーダーが集まっていた。
向こうで過ごしている騎士はリーダー達が打ち合わせ内容を伝える予定になっている。齟齬はそれほど発生しないはずだが、同じ数で迎え撃つとなると人数もとんでもない上、隊も多いので、念入りに打ち合わせをする。
……俺の手が上手く行けば兵士は何とでもなる。説得はライド王子とライムで、町ではライムの顔は割と知られているそうなので成功確率は高いと思われる。
「ホークさんはリューゼとナルにクーデリカ。それと騎士数人でポイントAで待機。ポイントBは騎士と俺と学院長と教員数名、それと城の魔法部隊が待ち構える。そしてポイントCはイーグルさんとラース、マキナにファスさんだな。ラース、大丈夫か?」
「大丈夫。魔力の計算はできているから、戦闘に支障はない。レッツェル達は入れないんだ?」
「あいつらは何をしでかすか分からないから、よほど苦しい戦いにならない限り手は借りない方向で決まった」
ティグレ先生が腕組みをして口をへの字にしてため息を吐く。まあ、それはそれで問題ないだろう。
とりあえずポイントが三つなのは、上からよく確認してリューゼとティグレ先生に確認してもらい、二人は前回の襲撃者だったことが判明。
そしてもう一人、槍を持った男がおり、先の二人と同じく髪が緑だったので十神者だろうと予測を立てたからだ。
ちなみにティグレ先生が音頭をとっているのは、戦場がガストの町ということもあり、土地勘のある俺達の方が作戦を立てるのに向いているという国王様の言葉を受けてのこと。実際戦争を経験しているティグレ先生は頼もしかったよ……なにが、とは聞かないで欲しい。
「では、皆健闘を祈る。できれば死ぬことなく戻ってきて欲しい」
「はっ!」
長い会議が終わり、激励を受けた俺達は席を立ち会議室を後にする。ライド王子とライムは父さん達と過ごすため、このまま俺の家へ寄った後待機しているマキナ達とガストの町へ行く手はずになっている。
「ライムはどれくらい強くなったんだろう?」
「ふふ、びっくりすると思いますよ王子。この私の剣捌き、お見せしたいところです」
「調子に乗るなよライム? まだまだラースやリューゼの足元にも及ばないんだからな」
「うう……」
「ははは、でも期待しているよ」
ティグレ先生にぴしゃりと言われて肩を落とすライムだが、少しマキナとの模擬戦を見た感じだと相手をよく見て捌けるようになってきたと思う。
マキナやリューゼだと相性が悪いけど、クーデリカとはいい勝負をしていたかな? ようやく信用してくれたのか、スキルを教えてくれた。
彼女のスキルは【貫通】といって一点に集中した攻撃はかなりの威力になり、ティグレ先生が剣に振り回されているという点を踏まえて、リューゼの鎧を修理するためアルジャンさんのところへ赴いた際にレイピアのような刺突剣を作って貰い、しっくりくるものが出来上がった。
「あーあ、僕も戦いってやつを見てみたかったよ」
「オルデン王子、わざわざ危険なところへ行く必要はないと思うよ? ライド王子は使命があるからさ」
「頼むよラース? ライドを守ってやってくれ」
「ん? ああ、もちろんだよ」
何故かオルデン王子が城の入り口まで見送ってくれ、不満げな顔のまま手を振って別れると、一路我が家へ向かう。
「おかえりー!」
「くおーん!」
「♪」
「ただいま、アイナ」
帰った早々アイナとアッシュ、それとセフィロに出迎えられ、ライムはサッとアッシュを抱っこし頬ずりをする。
「ああ……可愛い……」
「くおーん♪」
「とりあえず連れてていいから、リビングへ行こう。ティグレ先生、みんなに説明をお願いできる?」
「ああ、いいぜ」
リビングではマキナやルシエール、リューゼと言ったAクラスの面々も集まっていた。それとミルフィにヘレナの姿も見える。
「あれ? どうしたのさ」
「あ、おかえりラース! 明日から向こうへ行くからヘレナとミルフィちゃんが労いに来てくれたのよ」
「やっほー♪ アタシも何かできたらいいんだけど、こればっかりはねえ」
「ヘレナは劇場の寮で世話になっているから頭が上がらないよ。ウルカも無事に連れて帰るから、ミルフィも安心してくれ」
「は、はい! ウルカさんとも約束しましたから……」
と、顔を赤くしてウルカの方を見たミルフィ。
ウルカも顔を赤くして頬をかいていた。ウルカは別に役割があり、他の騎士達に守ってもらう形だけど、サージュをお供につけるから心配はないだろう。
「さて、ラース達が帰って来たということは、いよいよ向こうか」
「ああ。リューゼやクーデリカ達はスタンバイしているから、ここにいるメンバーが最後だ。ティグレ先生お願い」
概要を説明し、マキナとファスさん、ウルカは納得する。しかし、意外なところから抗議の声が上がる。
「くおーん!!」
「アッシュが連れて行けって言ってるよー」
珍しく可愛い雄たけびをあげたアッシュの代弁をノーラがしてくれ、俺は鼻を擦り付けてくるアッシュを抱き上げて告げる。
「お前は連れて行かないよアッシュ。ラディナ達とお留守番だ」
「くおん、くおーん!」
「!」
しかし、セフィロを掴み俺の前へ連れてくる。セフィロはアイーアツブスが出したクリフォトの件があるので連れていくことが決まっており、それを不満だと言っているらしい。
「はあ……お前はまだ小さいし、ラディナ達も魔物だから意思疎通が難しい。いざという時助けてやれないからここでアイナ達を守ってくれ。シュナイダー、よろしく頼むぞ」
「わふ」
「くおーん……」
大人なシュナイダーが了承しては我儘は言えないと悟ったのか、アッシュはちょこんとお尻から床に座り、短く鳴いた。
「帰ってきたら美味しいものでも作ってやるから待ってろ。それじゃ、行こうか」
「気を付けてねラース君……マキナちゃんも」
「まあ、あんた達のことだから死ぬことはないと思ってるけどね? でも、油断するんじゃないわよ」
戦闘能力が低いルシエールと、冒険者登録はしているが、俺達ほど強くなっていないルシエラの留守番姉妹も出がけに労ってくれ、俺達は家を後にする。
「そういえばジャックは?」
「ああ、家に居たんだけど、ウルカと話していたと思ったら家に帰ったわよ」
「そっか、挨拶しておきたかったんだけどなあ」
「はっ、帰ってからでもいいだろうが! 負けるつもりはねえしな」
ティグレ先生が俺の頭に手を置き笑う。
そして戦いは、良くも悪くも予定通りに――
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