第四百三十九話 達人vs達人


 「ほう、いい家だな」

 「でしょ? ちょっと丘の上にあった家にも似てると思わない?」

 「はは、あの家欲しがってたもんなお前」

 「ニーナに使ってもらうって決まった時に諦めたけどね」

 「もっと大きい家でもいいんじゃないかい? 友人も多いし、羨ましいよ」


 自宅に到着し、家の前で俺と父さん、それとオルデン王子で談笑し、建物の感想や思い出話をしていた。そこでライド王子とライムが喋っていないことに気づき振り返る。


 「……」

 「……」

 「あれ? どうしたのふたりとも? 行くよ」

 「これを買った? 貴族の息子とはいえ大きい家……」

 「……僕、王子って名乗りたくないなあ。今の家、その庭にある小屋くらいなんだけど……」

 「まあまあ、ラースはちょっと特殊だから仕方ないよ。ほら、王子同士仲良く行こう」

 「あ、うん。ありがとうオルデン王子」

 「お気遣い感謝します」


 なるほど、同じ王子であるライド王子に興味を持ったってところかな? わざわざ来るのは何でだろうと思ってたけどそういうことだろう。まあ護衛を俺にだけ任せているあたり大丈夫かとも思うけど……

 玄関を開けると、リビングで楽しそうな声が響いていた。まだ訓練はしていないのかと思っていると、セフィロとアッシュが出迎えに来てくれた。


 「♪」

 「くおーん♪」

 「お、よく気づいたな」

 「相変わらず賢い熊だなあ。アイナが気に入るわけだ」

 

 父さんが感慨深く顎に手を当ててアッシュの頭を撫でていると、ライド王子とライムが俺と父さんに割って入ってくる。


 「可愛いぃぃ……!!」

 「なにこの生き物! 可愛すぎるんだけど!」

 「くおーん?」

 「??」


 ぺたんと尻もちをついて首を傾げるアッシュにライムはふらりと卒倒しそうになり、ライド王子は目線を合わせて眺めていた。アッシュは知らない人が近くに来てびっくりしたようで、少し匂いを嗅いだ後、俺に抱っこを要求してきた。


 「ははは、この人たちは怖くないよ。セフィロもいいな?」

 「♪」


 ポンと頭に花を咲かせて歓迎の意を表すると、ライムがそっと持ち上げてまじまじと見つめる。


 「これも魔物……ですか? 可愛い……」

 「これはトレントで熊がデッドリーベアの赤ちゃんだっけ? な? ラースは特殊だろ?」

 「うん、凄いね!」

 「俺のこと持ち上げすぎだよオルデン王子」

 「まあまあ。たまには僕にも友達を自慢させてよ。あれ、リューゼも居るのかい? 上がらせてもらうよ」


 奥から聞こえてくる声でオルデン王子が我先にと入り、俺達も苦笑しながら追う。あまり外に出ないって言ってたし楽しそうだ。


 「ただいま」

 「あ! ラース兄ちゃんおかえり! アッシュが飛び出していったからなにかと思った。お父さんもいる!」

 「おう、お父さんが居なくて寂しくないか?」

 「うん! ティリアちゃんとトリム君にアッシュ達がいるから平気だよ!」

 「そ、そうか……」

 

 がっかりしながらアイナを抱っこする父さん。そこでティリアちゃんとトリムも挨拶をしてきた。


 「おかえりなさい」

 「おかえりラース兄ちゃん!」

 「ただいまふたりとも。マキナ達は?」

 「パパとママと一緒に、みんなお庭にいるよ。あれ? 知らない人だ」

 「こんにちは!」

 「小さい子もいるんですね……」


 腰をかがめてティリアちゃんとトリムに挨拶をするライド王子に、目をぱちくりさせているライム。俺は二人に説明をする。 


 「アイナは俺の妹で、この子は元、先生の娘。男の子はウチのメイドだった人の子だよ。向こうは危ないから小さい子は先にこっちに連れて来ている。できれば、町の子も先に連れてきたいけどね」

 「ま、そこは父上と僕たちがうまくやるよ。というわけで庭に行ってみよう!」

 「あ、オルデン王子! アッシュ、背中に回るなって」

 「くおーん♪」

 「!」

 「いいなあ……」


 久しぶりに抱っこしたせいかアッシュがもぞもぞと動き、おんぶ状態になるとご満悦な鳴き声を出すと、ライムがぼそりと呟くのが聞こえた。なんか無理して肩肘を張っている気がするなあ。

 

 揃って庭に出て小屋の裏側に行くと――


 「うわ!? ティグレ先生とファスさん!?」

 「お、早かったなラース! ……って、オルデン王子!?」

 「久しぶりだねリューゼ。たまには遊びに来て欲しいんだけどね?」

 「い、いや、流石に王都までは無理だって……でもお久しぶりです」


 リューゼが立ち上がって頭を下げると、オルデン王子は笑いながらリューゼの肩に手を置いて再会を喜んでいた。


 「おかえりラース」

 「ただいま、マキナ。どういう状況?」

 「あ、えっとね……まあ見ての通りよ、ティグレ先生と師匠の模擬戦を始めちゃったの」

 「ティグレ先生は戦いたいみたいなことを言ってたけど早いよ……」

 「達人とは全力を出せるから、みたいよぅ? あ、ローエンさんもいらしたんですねぇ」

 

 ベルナ先生がぺこりとお辞儀をすると、父さんは片手を上げながら返す。


 「ちょっと陛下にご挨拶をしないといけなかったのでね。さて、まだ戦いは始まっていないのかな?」

 「いや……あ、動くぞ!」


 リューゼが叫んだ瞬間、ファスさんが仕掛けた!

 ティグレ先生の武器はいつもの大剣ではなく、俺が使うような剣。もちろん木で出来ている木剣だけど、先生のスキルは武器の種別は関係ないので十分だろう。

 しかし、俺は次の瞬間度肝を抜かれることになる。


 「フッ! シュッ! ハァァァ!」

 「ハッ! らあ! チッ、的確に死角をついて来やがる……! 武器を持った相手の御し方がうめぇ!」

 「拳はリーチが短い分小回りが利く。懐に入られた時点でワシが有利!」

 「ははは! 流石だぜ! そうこなくっちゃなあ!」


 ファスさんの動きは正直目で追うのが精いっぱいでお婆さんの姿の時とは比べ物にならない……!? 若返った後もマキナと訓練をしているのを何度か見たけど、やっぱりまだ手加減していたのか……

 ティグレ先生も歓喜の声を上げて剣を振るい、あのスピードの中でも致命打は剣の柄や腹でしっかり防いでいた。ううむ、久々に勉強になる戦い……!


 「師匠、そこ、右が開いて……ああ、防ぐのアレ!?」

 「ティグレ先生、足下はどうだ!? うお、蹴りもあんのかよ!?」

 「師匠に死角はないわよ!」


 マキナとリューゼも白熱し、声援が飛ぶ。それぞれの師匠なのでそれも無理もないだろう。決定打はどちらが先か? 

 しばらく激しい攻防があった後、ファスさんの拳とティグレ先生の剣が交錯しお互いの頬を掠めた。


 「フッ」

 「へっ……」

 「お……?」


 その瞬間、肩で息をしながら拳と剣を引っ込め、ふたりは頭を下げる。どうやら戦いは引き分けで終わったようだ。


 「いやあ、やべぇなあんた!」

 「何を言うか。若返ってなければ間違いなくワシの負けじゃったわ。久しぶりに爺さん以外で肝が冷える場じゃったわ」

 「へへ、まだ頑張れそうだな俺も! っとよく見りゃラースとローエンさん、帰って来てたのか! ……そのふたりもこっちに来たのか? オルデン王子もいるし……」

 「ま、まあ、色々あってね。凄かったよ、俺もまだまだだな」

 「いやあ、マキナはいい師匠に会ったと思うぜ! 次、俺とやるかラース?」


 ティグレ先生が歯を見せて言うと、俺が返事をする前にリューゼとマキナが前に出た。


 「次は俺とマキナだな。師匠には負けてられねえよ」

 「そうね! 訓練の成果、見せてあげるわ!」

 「はは、マキナの戦いっぷりは久しぶりだな。騎士を目指してたのに剣を捨てて拳になるとは人生わかんねえなあ」


 ティグレ先生がベルナ先生の隣に座りながら笑うと、その瞬間スッとマキナの前に出てくる人影があった。


 「マキナさん、私と戦ってもらえませんか?」

 「ふえ? ど、どうしてですか!?」

 「いえ、女騎士を目指していたということですし、私は女性同士で戦ったこともありません。是非お手合わせを……!」

 「ラ、ライム、やめといた方がいいよ!」

 「王子、やらねばならないこともあるのですよ……いかがでしょう!」


 くわっと目を見開いてマキナに戦いを挑むライムに、困惑しながらマキナはリューゼを見る。すると肩をすくめてリューゼが下がり、マキナとライムが対峙することになった――

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