第四百三十八話 難しい問題


 「おお、これはローエン殿! 久しぶりだな! それに親子で登城とは珍しいな」

 「お久しぶりですフリューゲル様。お話したいことがありまして、陛下に謁見を申し出に来ました」


 俺と父さんは城の受付で謁見の申請をしてエントランスを歩いていると、フリューゲルさんとばったり出会い挨拶を交わす。父さんが謁見を申し出たことを聞いたフリューゲルさんは俺の後ろにいるふたりを見て小さく頷く。


 「なるほど、そのふたりに何かあるという訳だな? またラース君の案件か、大変だなローエン殿も」

 「え、ちょっとフリューゲルさん?」

 「はっはっは、みなまでいうな。どうせまた困っている人を助けているのだろう? では陛下を呼んでこよう」

 「……」


 俺は微妙に納得がいかない顔でフリューゲルさんを見送ると、ライムが話しかけてくる。


 「いつも?」

 「あ、ああ、不可抗力なんだけど、結構巻き込まれることが多いんだよね。それを言っているんだと思う」

 「まあ、身分も分からない僕たちを回収して町に連れて行ってくれたし、ラース君ってそんな感じするよ」

 「……そういうことを言うなら送り返すけど?」

 「あ、あ、ごめんなさい!」


 ライド王子が慌てて俺の腕をとって揺すってくるのをスルーしながら謁見の間へ向かうとすぐに通され、国王様が口を開いた。

 

 「久しいなローエン。ラースと共にやってくるとは何ごとかあったのか? といっても恐らくはそこの見慣れぬふたりのことだとは思うが。またラースか?」

 「もうそれでいいです……」

 「ふっふ、すまんすまん、冗談だ。で、そのふたりは?」

 「それが――」


 父さんからことの経緯を話してもらう。

 始めはベリアース王国と福音の降臨が攻めてきているという確信話に戦力規模。そしておおよその到着するであろう日数を。しかし、ライド王子達の素性を話した瞬間、玉座から立ち上がり戦慄する。


 「お、おお……まさかゴドウィンの子が生きていたとは……! 確かに王妃の面影がある……」

 「父上はご存じなんですか?」

 「当たり前だ、国同士の催しに呼ばれることもあるからな。本当なら子が産まれた時にパーティがある予定だったのだが……」

 「その前に戦争が始まったのですね」

 「うむ。あれから十五年以上も経つ。当時出兵する間もなくあっという間に占領されていたからな……報告を受けた時には遅かった……」


 国王様が当時のことを思い出し目を伏せた。疲弊したところを追撃すれば、とも思うが、たった数日で落とされてしまったため、救援という話も無く、国王様はあまりにも早すぎる占拠に戦力差が相当あるのでは警戒し、結局静観を決めたのだそうだ。


 「父上らしくないね、すぐに飛んでいきそうなのに」

 「エバーライドはベリアース王国よりも向こうにある。下手をすると挟み撃ちだ、国のため出兵は諦めた。すまなかったな」

 「いえ、国のことを考えると仕方がないと思います。それに僕も赤ん坊だったので王子の自覚は無いですから」


 普通の子供と同じ感覚で過ごしてきましたからと笑うライド王子が後ろ頭を掻く。ひと段落したと思った俺が続けて口を開くことにする。


 「よろしいでしょうか国王様」

 「む? なんだラース? 話して良いぞ」

 「ありがとうございます。こちらに向かっている兵はどうやらほぼエバーライドの人間らしいです。おふたりは危機を知らせにきてくれたのですが、それとは別に兵を殺さず捕えて欲しいという願いがあり、ガストの町までやってきたようなのです」

 「むう……」


 俺の言葉を聞いて国王様が渋い顔をして上手く用に肘をついた。それも致し方なく、人を殺したくない俺でも戦争という場で命がかかっていたらそれを守るのも難しいと思うのだ。

 それはふたりにも分かっているため俯き場が静かになると、オルデン王子がポンと手を打って俺に言う。


 「うーん、どう考えても難しいと思うんだよね。まだ時間はあるし、みんなで考えていけばいいんじゃない? ラースなら何とかしそうだし」

 「オルデン王子、俺をなんだと思ってるんだ……」

 「ははは、転移魔法みたいな古代魔法を使えて色々なことを思い浮かぶじゃないか。今回も期待している……というよりやりようはあると思うんだ」

 

 オルデン王子は珍しく饒舌にいい案を思いついたとばかりに喋り始める。


 「それは……?」

 「ラースは万能に立ち回れるからラースを主軸に奇襲をかける。最初に言っておくとこの作戦はラースが危険に晒されるから、本当に提案だけどね」

 「オルデン王子がそういうのも珍しいから聞かせて欲しい」


 よほどのことがないと発言しないオルデン王子なので貴重な場面でもある。俺が尋ねるとオルデン王子は真剣な顔になって言う。


 「誰も居なくなったガストの町におびき寄せるのは変わらない。だけどそのままなら戦闘だ。じゃあ兵士と戦わない選択を考えた場合、兵が全員エバーライドの人間なら敵の大将、すなわち福音の降臨のメンバーを倒すか引き離す必要があるよね?」

 「ええ」


 と、返したがオルデン王子が俺にさせたいことが少し読めた。そのまま黙って聞いていると――


 「だからラースの転移魔法で該当人物を別の場所に転移させるか一緒に飛んでもらう。転移魔法陣が作れるからどういった形で、というのはラースに任せるけどやるなら各個撃破しかないんじゃないかな?」

 「なるほど……ではレフレクシオンの騎士達はどうする?」

 「ん-、最初数人を見せておいておびき寄せた後、背後の門を閉じた後ラースが首謀者を消す。その後、完全に包囲してライド王子に戦いの放棄をしてもらうのがいいと思うけどどうだろう?」

 「悪くない案だと思います。どうせ福音の降臨の連中は後方にいるだろうからサージュに乗って、高高度から奇襲すれば転移させることは可能でしょう。問題は相手に何人いるのか、ですね。魔力の消耗が激しいのでその後戦いに参加しても役に立てるかがわからない」

 「それは騎士達に任せてもいいと思うよ。ラースだけに戦わせるなんてことは考えてないし、ティグレ先生だっけ? あの人も強いでしょ」


 ……確かに。今まで俺が収拾していたことが多いから勘違いしていたけど、今回は協力者も多い。リューゼ達も戦ってくれるし、孤立させれば各個撃破もできる、か。

 問題は人数。俺の魔力で持つかどうか……せめてディビットさんが居ればと思うが、サージュを使って呼びに行くか? 俺がそう思った時だった。


 「いい作戦ですね。十神者相手なら最低一人はラース君に相手をして欲しいので彼らの転移については僕が引き受けましょう」

 「勝手に入るんじゃないですよ! いやあ陛下申し訳ありません、へへ……」

 「レッツェル!? それにバスレー先生!」


 謁見の間に入って来たのはレッツェルとそれを追って来たバスレー先生だった。


 「ふむ、転移魔法を使ったのに僕を捉えることができるとは……」

 「おいレッツェル、それを信用できると思うか? 俺達が不利になることを企んでいるんじゃないだろうな」

 「まあ、そう思われても仕方ありませんね。あのディビットという人も呼びましょうか? 彼ならふたりで行動しても何とかなるでしょう」

 「むう……」


 今度の戦いは規模がでかいので国王様は信用のできないレッツェルを作戦に組み込むことに難色を示す。もちろん俺も同じ意見。そこで父さんがレッツェルに言う。


 「……ふむ、ならレッツェル、君が福音の降臨と戦ってくれたまえ。ラースは転移魔法を使い、戦闘は君だ。それなら迂闊なことはできないだろう」

 「くく、まあ僕はどちらでもいいですがね?」

 「調子に乗るんじゃありませんよ!! ほら、戻りますよ! すみませんねえお話し中に」


 バスレー先生は襟首を掴みレッツェルを引いて謁見の間を出て行く。何だったんだと思いつつ、指針は決まった。

 

 「ラース君、大丈夫かい……?」

 「やってみるしかないかな。大丈夫、みんなもいるし。そういや、家はどうなってるかな?」


 その後、ライド王子とライムは城へ残る……はずだったが、ウチに来たいといい、さらにオルデン王子も来ると言い出した。父さんも一度ウチに来たいということで大所帯になった。


 う、うーん……匿ってもらえばいいのにと思いながら俺達は城を後にするのだった。

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