第四百二十九話 遊ぶのも命がけ
「シューかっこいい! 尻尾太い! アッシュのお母さんも大きくて強そう! パパみたいだよ!」
「わ、わふ」
「ぐるぅ」
自己紹介がひと段落した後、トリムが急かすので庭に出たところシュナイダーとラディナを見て興奮状態で庭を走り回っていた。
部屋の中ではバスレー先生とルシエール、それとナルが残って話をし、マキナは俺達と合流して庭に出た。
さてトリムだけど、ニーナとハウゼンさんは子供に危険なことはさせないから、魔物を見ること自体アッシュが初めてのはずなのでこんな状態なのだろう。
アイナとティリアちゃんと剣や魔法の訓練はやっているらしいけど、まだスキルももらっていない四歳と考えれば好奇心の方が強いのは頷ける。
兄さんも五歳までは勉強より俺と一緒に外で遊び回っていたくらいだしね。
「男の子はカッコいいものが好きだから分かるけどねぇ」
「トリム君、大きな熊さんに抱き着いてる、凄い!」
「アイナもやるー!」
「へへー!」
ラディナとシュナイダーは大人しいので、お腹に乗っても尻尾を掴んで引っ張っても怒ったりはしない。けど、魔物は怖いものなのだと言うのを教えてあげるのもテイマーの役目なので俺はトリムとシュナイダーを呼ぶ。
「わおん?」
「どうしたのラースお兄ちゃん? やっぱりパパが言っていた通り兄ちゃんは凄いね! 魔物をいっぱい連れているなんて!」
「ありがとうトリム。だけど、今お前が抱き着いていたラディナはデッドリーベアというハウゼンさんでも手に余る魔物だし、シュナイダーもヴァイキングウルフだから相当強いんだ」
「うん!」
「ここでは俺が居るからいいけど、もし今後外で出会ったら逃げるんだぞ? 本当は怖いんだ」
「えー、でもシューは何もしないよー」
「わふ」
ふむ、これは『小さい犬を飼っていて、大きな犬に噛まれる』パターンになりそうだ。とりあえず荒療治ではあるけど、ちょっと怖いんだということを教えてあげようと思う。アイナとティリアちゃんにもいいだろう。
「シュナイダー、あっちに立ってくれ。で、本気で動けよ」
「……わん!」
「?」
トリムとアイナ、それとティリアちゃんも興味があると言わんばかりに集まり、俺が何をするのか分からず首を傾げる。その直後、俺は魔法を放つ。
「<ファイアアロー>!」
「「「え!?」」」
三人の子供が声を上げ、何やってるのという目で俺を見る。だが、シュナイダーは姿勢を低くしてファイアアローを横に飛んで避けた。それを読んでいた俺は着地にファイヤーボールを重ねていたが、一瞬、視界から消えるほどのスピードでさらに回避した。
「シュー速いよ!?」
「あおおおおおん!」
「わわ、牙……噛みついてこない、よね……? え、くるの!?」
「はっ!」
三人に襲い掛かろうとしたシュナイダーの顎を抑えて寸前で止める。するとアイナ達はへなへなとその場にへたり込んだ。
「分かったか? シュナイダーはここで大人しいだけで本当は怖いんだ。魔物の園にいたのも同じだから、同じような魔物を見てもテイムするか倒すまで必ず迂闊に近づいたらダメなんだ。大人になったら分かると思うけどね」
「トリムくーん、ほら!」
俺が三人の頭を撫でながら話していると、マキナが丸太を抱えて声を上げる。何をするのかと思っていると、それをラディナに放り投げた。
「あ!?」
「ぐおおおおお!」
「うひゃ、こわっ!?」
するとラディナは全力でそれを両手で叩き潰し、丸太が真ん中からひしゃげてゴトリと落ち、ルシエラが飛び上がって驚いていた。
「うわあ……」
「力が強いねぇ……」
「……」
こっちに居る間背中に乗って遊んでいたアイナがポカーンと口を開け、ティリアちゃんがベルナ先生の後ろに隠れる。トリムは言葉も無いのか目を大きく見開いてラディナを見ていた。
「アイナも分かったか?」
「うん。ラディナとシューやアッシュみたいに兄ちゃんが連れていない魔物は襲ってくるんだよね!」
「そうだな。それが分かってたら大丈夫だ。ティリアちゃんは……先生達がいるから大丈夫かな。トリム、どうだ?」
俺が肩に手を乗せると、トリムは両手を拳にして大声を上げた。
「凄い凄い! シューもラディナもカッコいい! ラース兄ちゃんが言ったみたいに怖いけど、やっぱりカッコいい! 多分ラース兄ちゃんがテイムしているからかも? シュー、背中に乗せて!」
「おふ!」
トリムは俺を見上げてそう言った後、シュナイダーに突撃していく。う、うーん……分かっているのか分かっていないのか……? するとベルナ先生が笑いながら近づいて来た。
「ふふ、まだ四歳だし、もうちょっと大きくなってからでもいいかもしれないわねぇ。ラース君も五歳の時、無茶な魔法訓練ばかりしていたしね」
「う……」
「はは、ラースの負けだね。多分、学院に入るくらいのころに気づくと思うよ。ハウゼンさんが魔物討伐に連れて行くだろうし」
「兄さん」
「そうだよー。リューゼ君とお医者さんと戦ったりしてたもんねー」
「お、俺かよ……!?」
ノーラが目を細めて俺とリューゼを見てきたので、俺達は目を逸らす。……まあ、子供は元気が一番か……
「僕、テイマーになりたいなー。シューはどう思う?」
「わんわん」
「いいかなあ?」
トリムはシュナイダーの背中に抱き着くように乗り話しかける。どうやらお気に入りはシュナイダーに決まったようだ。
「ラディナお母さんも優しい、かな?」
「くおーん♪」
「アッシュのお母さんだもんね。わーふかふか」
「ぐるる」
ティリアちゃんは恐る恐る、座り込んだラディナの膝に乗って、アッシュと一緒に背中を預ける。ま、ちょっとでも気を付けてくれれば助かるかな? そんなことを考えているとファスさんが沈黙を破る。
「ま、これを見守るのもワシら大人の仕事じゃからな。危険を伝えるのは大切なことじゃが先生には向かんかもなラースは!」
「そうねぇ。ファスさんの言う通り、ラース君は教えるより自分で何かした方が上手くいきそう。さて、あの子達は疲れるまで遊びそうねぇ」
ベルナ先生が目を細めて様子を見ていると、今度はクーデリカが手を上げて声を上げる。
「はいはーい! わたし、ヘレナに会ってみたいかも! それと――」
「え? なに、クーデリカ?」
「ウルカの彼女に会いたい!」
「えー!? だ、ダメだよ。ミルフィ達は忙しいと思うし……」
「お、いいなそれ! 俺もそれに乗ったぜ。でも、その前に、ファスさん。俺と手合わせをお願いできねえか? マキナは相当強くなっているのが目に見えて分かる。俺がどれくらいやれるか、頼む」
「リューゼと言ったか? 面白いヤツじゃ。よかろう、少し戦ってやろうかのう」
「いいんですか師匠……?」
マキナの言葉にファスさんが頷きにやりと笑う。
リューゼがどれくらい強くなっているのを見るチャンスだ、お手並み拝見と行こうか。
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