第四百三十話 なにかに火がつく同級生


 「だぁりゃぁぁぁ!」

 「体幹が乱れ始めてきた、甘いぞ!」

 「ぐあ……!? くそ、あ、当たらない……!」


 ファスさんに戦いを挑んで早二十分。

 リューゼはひらひらと舞うように動くファスさんにダメージを与えることができず、脇腹に何度目かの一撃を入れられ、ついに片膝をついた。縛った髪をかき上げながらリューゼに言う。


 「剣筋はかなり良いし、魔法剣でいかようにも対応できるのは相当な強みじゃな。しかし、相手をよく見て攻めねば今のように軽くあしらわれてしまう。ワシが同じ方向から攻めていることに気づいておれば、素早く動いていても反撃の機会はいくらでもあった」

 「な、なるほど……確かに、俺は左側ばかり大きな攻撃を受けているな……」


 脇腹が特に酷いダメージだが、足や顎にも相当受けている。それでもあれだけダメージを受けて二十分戦い続けていた点は流石リューゼである。

 剣撃は文句なしで速く、模擬戦であまり強くない魔法剣を使っていたけど、かなり切迫した間合いを保っていたので身体能力は相当鍛えている。

 が、ファスさんにはそれを逆手に取られて、徐々に左側へ移動し、無理な体制での攻撃を押し付けられた感じがある。


 「マキナにも教えているが、足さばきをもっと覚えると良いぞ。お主の師匠は真っすぐ攻撃するタイプのようじゃが、初撃でとどめを刺すくらいの実力と気概が必要じゃ。ワシのような格闘家や、魔法も使う剣士なら仲間のフォローを考えるためにも、動きにはもっと注力すべきじゃな」

 「……わかったぜ。ありがとう、ございました!」

 「素直なのはいいことじゃ。精進せいよ? ラースといういい対戦相手もおるしな。ほっほっほ」

 

 ファスさんはそう言うと、リューゼを立たせて丸太の椅子に座らせた。


 「流石に二つ名を持っているだけのことはあるぜ……ティグレ先生クラスの人と戦えたのはいい経験だ。マキナが今どれくらいなのかも試したい……」

 「ちょっとエッチな感じがするから駄目! ファスさん、次はわたしもいいかな?」

 「む、ヘレナ達に会いに行くのではなかったか? クーデリカで良かったかのう」

 「うん! わたしも今後の参考を聞きたいかな、って。お願いします! あ、でも休憩した方がいいかな?」


 クーデリカが木製の斧を取り出しながらファスさんに言うと、ファスさんは笑いながら返す。


 「今のワシは全盛期の姿じゃから問題なしじゃ。いつでも良いぞ」

 「頑張ってクー!」

 「うん!」


 マキナがクーデリカの応援をすると、拳を突き上げて返事をし、俺はふたりの間に割って入り戦闘開始の合図をする。


 「始め!」

 「……!」

 「ほう、お主も中々!」


 ファスさんが感嘆の声を上げるが、俺もクーデリカの姿を見て驚いた。

 冒険者としてやっているとは聞いていたけど、今の強さを知らなかったが、地面を蹴って突っ込んだクーデリカは飛んでもない速さだ。そして、いつも良く喋るイメージのあるクーデリカだが、無言で戦闘を開始したのもびっくりだ。

 そんなクーデリカに対して下がるわけでも待ち構えるわけでもなく、一歩前へ出て応戦するファスさん。これなら斧使いのクーデリカは有利かと思ったが――


 「……っ、見切られているかな!」

 「くく、それが分かっておるなら大したものじゃ! さあどうする?」

 「叩きつける!」


 構えながら挑発するように言うファスさんに、斧の射程に入ったクーデリカは手首のスナップを使って思い切り振り上げる。


 「思い切りがええ、マキナのようじゃな! ふっ!」

 「いたぁ!? この……!」

 「やはりそう来るか、これはこうじゃ」

 「うわわ!? うげ……」


 クーデリカが左手でファスさんへ殴りつけようとするが、ファスさんはその手をサッと掴み、クーデリカを自分に引き寄せ、足を引っかけて転ばせた。


 「うう……ま、まだ……!」

 「おお、凄い力じゃ!? ほれ!」

 「ひゃあ!? ……たああ!」


 転ばせて手を掴んでいたファスさんが勝ちかと思っていたが、クーデリカは無理やり【金剛力】で腕を動かしファスさんを持ち上げて行く。驚いたファスさんは手を離して、空中で身を捻りながら蹴りを繰り出した。

 それを避けたクーデリカはファスさんの着地に合わせて再び両手で斧を振るうと、ファスさんはかがんで避け、足払いで転ばせた。


 「今度こそ終わりじゃ」

 「うう……ま、参りました……」

 

 クーデリカが口を尖らせて負けを認めると、ファスさんが立ち上がらせて笑う。


 「思い切りが良かったのはリューゼと同じで良い。が、狙っている魂胆が見え見えだから注意じゃな。お主、ワシが初撃避けたら左手で掴むつもりじゃったろ? だから片手で斧を振るった」

 「そ、そうです……」

 「気持ちは分かるが、斧は元々重い武器じゃから女の子が片手で持つには正直難しい。それを片手で使うということであれば、力が強いか、何らかのスキルがあると見ていいじゃろうという予測じゃな。もしクーデリカが両手で突っ込んできたらまた結果は変わっていたかもしれんのう」

 「参考になるなあ……」


 俺は思わず口をつく。

 相手の一挙手一投足をしっかり見極めて、こうであろうという予測を立てて動く。剣士でも考えるとは思うけど、超接近戦をしないといけない格闘家はさらにドライに考えるのだろう。場を読むことに長けているのだろう。


 「凄かったわよクー!」

 「へへ、マキナちゃんのお師匠様やっぱり強いや。でも、楽しかった! ティグレ先生とはまた違うから勉強になるね」

 「だな。ラース、次は俺と戦ってくれ!」


 燃えるリューゼは相変わらず腐ることが無いので偉いと思う。プライドはあるけど、きちんと認めるのは昔からだな。


 「ふむ、ティグレ先生とやらは良く話に出てくるが、手合わせしてみたいものじゃのう」

 「あ、ウチの旦那なので今度言っておきますねぇ♪」

 「そうなのか? お主も魔法使いとして強そうじゃし、ティリアちゃんも将来楽しみじゃな」

 「ええ。でも好きなことをして欲しいですけどねぇ」


 そういえばティリアちゃんのスキルってなんだっけ? そう思っていると、マキナが腰に手を当ててから口を開く。


 「それじゃ、ヘレナとミルフィちゃんのところに行きましょうか!」

 「あ、大勢で劇場に行ってもいいかな?」

 「ライブは夜からだし、今は大丈夫だと思うよ。行ってみようか」

 「おー!」


 慌ただしく、今度は劇場へと足を運ぶことになった。……まあ、これがちょっと……本当に些細なことだけど問題になるとは思わなかったよ……

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