第四百二十八話 先のことを見据えて
「うー、もっと遊びたかったよぅ」
「拗ねないの、ティリア。ラース君のおうちにも動物が居るみたいだから、その子達と遊びましょ?」
「はは、魔物だけどね」
「くおーん!」
「アッシュが僕も魔物で強いんだぞって言ってるよー」
「あはは、少し弱虫が治ったもんね」
「くおーん♪」
アイナに抱っこされたアッシュがマキナに撫でられてご満悦の表情で鳴くと、リューゼが顔を覗かせてにやりと笑う。
「本当かあ? こんなにちっこいのに? ……わっ!」
「くおーん!?」
「ぎゃあああああ!?」
「今のはリューゼが悪いわね」
「アッシュのお母さんに怒られるよ?」
茶化したリューゼがアッシュに引っかかれ大きくのけぞると、ナルとウルカにツッコミを入れられていた。帰路も騒々しいなと思いながら、学院に居る時を思い出して頬が緩む。
「でも、僕たちが頑張った甲斐もあったね。ノーラも大はしゃぎだったし」
「みんないい子達だからねー。サージュは居ないのってみんなに聞かれたよー」
「サージュは万が一のために置いて来たから仕方ないよ」
「ノーラちゃんが何言っているか教えてくれるからすごく仲良くなれた気がするね」
兄さんとノーラは魔物の園を作るときに色々と手伝ってくれたから感慨深いようだ。クーデリカも牙炎獅子やキングビートルと言った魔物達を見ては喜んでいたし良かったと思う。
「商店街方面は気になるわね」
「うん。ガストの町に無いものを仕入れられそうだし、あの転移魔法陣残ってると嬉しいかも……」
ルシエールとルシエラは町の様子が気になるようで、終始キョロキョロと建物や人を見ていた。まあ、しばらく暮らすことになりそうだから案内する機会はあるかと家へ急ぎ、間もなく到着。
「着いたよ、ここが俺の家だ。みんなが泊るだけの部屋は無いけどリビングは広いから」
「でかいな……もしかして買ったのか?」
「ああ、どうせここを拠点にして生活するつもりだったから、宿や借家は勿体ないと思ってさ」
「リューゼもこれが買えるくらい稼いでよね」
「馬鹿、どれだけ魔物を狩ればいいんだっての」
リューゼとナルの会話を聞きながら外の柵を開けると、早速庭からシュナイダーが駆け寄って来た。
「わんわん!」
「お、ただいまシュナイダー。大人しくしてたか?」
「わうん!」
「シュー、元気だったー?」
「わふわふ」
「うわあ、カッコいい……!」
柵の向こうに居るシュナイダーを見て、トリムが目を輝かせて拳を握る。四歳ながら、カッコいいものに憧れるのは男の子らしいなと思う。魔物の園でも、テイマーについてタンジさんに色々聞いていたので、将来もしかしたら通うかもしれないなあ。
「シュナイダーとラディナは後にして、まずは中でゆっくりしよう。魔物の園を歩いて疲れたろ、飲み物を出すよ」
「わーい!」
しかし、リビングに入ると驚きの光景が目に入り、俺達は一瞬立ち尽くしてしまう。
何故なら、天井からぶらーんと、ミノムシのようなものが……って、
「「バスレー先生!?」」
「む? おお、帰ったか!」
よく見ればミノムシのような物体は簀巻きにされたバスレー先生だった。その前で腰に手を当てて仁王立ちをしていたファスさんが振り返って笑う。
「ああ、おかえりなさい子供達」
「ただいま、バスレー先生。今度は何をやらかしたのファスさん?」
「聞いてくださいよラース君! ちょっと後ろから二つの乳の感触を味わおうとしただけなのにこの仕打ちですよ?」
「気持ち悪い手つきで来るからじゃろうが!?」
「くくく……持つものには分からないのですよ……そうですよね、わたしと同じく胸が小さいマキナちゃん、ルシエールちゃん、ナルちゃ……ぎゃああああああ!?」
とりあえず無言でサンドバッグになっているバスレー先生は置いといて、ベルナ先生達をソファへ誘導する。
「ラース、紹介をしてくれるか? ウルカとアイナちゃんは知っておるから大丈夫じゃぞ」
ファスさんが俺の横に立ち、ソファに座ったみんなを見て言うので、口を開こうとしたところ、ベルナ先生が微笑みながら頭を下げた。
「わたしはベルナと申します。この子はティリアといって、わたしの娘です」
「おお、ラースの魔法を鍛えた師匠か。ワシはファス。昔は雷撃のファスと呼ばれた格闘家じゃ。今はマキナを後継者にするべく日々鍛えておる、よろしくな!」
「よろしくお願いします」
ティリアちゃんが礼儀正しく頭を下げると、ファスさんは頭を撫でて笑う。次に口を開いたのはリューゼ。
「お、俺はリューゼ。魔法剣士のスキルを持っている、ラースの友達だ。てか、ルシエールとクーデリカは諦めたのに、こんな美人と住んでるのかよ!?」
「い、いや、ちょっと待ってリューゼ。えっと、ファスさん、ですか?」
「そうじゃぞウルカ」
「えええー……!? だ、だって、ファスさんってお婆さんだったじゃないですか! なんで若返っているんですか!?」
「おお、そうじゃった……」
「ファスおばあちゃん?」
「うむ。ちょっと若返ったがファス婆じゃぞ!」
「わーい!」
アイナを抱っこして高く掲げてファスさんが歯を見せて笑っていた。子供が欲しいって言ってたから、アイナやティリアちゃん、トリムあたりに囲まれて嬉しいのかもしれない。
「らいげきってなあに?」
「む、男の子か? ワシはこの拳で敵を倒すのじゃ。その時――」
トリムの言葉にファスさんがアイナを下ろしてヒュっと拳を突き出すと、パリパリと雷を伴う。それを見て興奮したトリムとティリアちゃんがファスさんの足元に群がった。
「かっこいいー!! もういっかい、もういっかいやって!」
「わたしも見たいー! ママの魔法ともちょっと違うし!」
「お、おお、ワシ大人気じゃな。はっはっは! とりあえず、みんなと話をしてからお庭へ行こうな」
「「「うん!!」」」
ファスさんが三人を座らせると、クーデリカが挨拶をする。
「わたしはクーデリカって言います! ラース君とマキナちゃんのお友達で、冒険者をやってます! 稽古、つけてもらえたら嬉しいかもです」
「お、ええぞ。マキナと組手をしてもらいたいわい。お主は?」
「私はルシエラよ。冒険者と商家の手伝いをしているわ。あっちの髪が短いのが妹のルシエールよ。てか本当にお婆さんだったの?」
「うむ。手違いで若返ってしまったが、れっきとした婆じゃぞ。もとに戻れる薬とかないか?」
「知らないわよ……でも、いいじゃない。まだ長生き出来て!」
「そうかのう……」
ファスさんが椅子に座ると子供たちが取り囲み、満更でもない様子だ。すると、リューゼがまた俺に話しかけてきた。
「あれが婆さん……? ウルカは知っているんだよな……マジか……めちゃくちゃ美人……」
「お婆さんの姿でもかっこよかったけどね。それより、後七日で何とかなるかな?」
「町の人の数が数だからちょっと厳しいと思う。最悪、城の中や宿、空き家を使うことも検討しているんだ。国王様から許可はもらっているから、近いうちにおふれがでると思う」
俺も椅子を引き寄せて座り、そう返すとベルナ先生が顎に手を当てて呟くように話し出した。
「問題は相手の戦力ねぇ。ティグレが言うにはベリアース王国の戦力は馬鹿にならないんだって。一国を亡ぼしているから、そっちの戦力をも使われたら本当に戦争よ」
「とりあえず俺はアクゼリュスとかいうのを倒さなきゃならねえ。ラース、今度手伝ってくれ」
「ああ。力をつけておくに越したことは無いしな……」
俺はもみくちゃにされているバスレー先生を見て、ため息を吐きながら呟く。……ん? 今、バスレー先生こっちを見てた、か?
一瞬、鋭い視線がリューゼに向いたような気がしたけど、再び三人に担ぎ上げられその後は分からなかった。
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