第四百二十七話 わちゃわちゃしすぎで楽しい時間
――少しの浮遊感。
転移をする時に感じるそれは、何とも言えない気分になる。他のみんなはどうか分からないけど、俺が転移魔法を使った時は『頭の中に道が見えている』ような感じだ。
父さんと母さんにひと声かけて、俺達は一路王都へ行くため転移魔法陣を踏んでいた。この感覚があるということはきちんと成功していると思う。
ちなみに、父さん達に話をしている間、ベルナ先生がやって来てティリアちゃんとニーナの息子、トリムも連れて行くことになった。
いつガストの町が戦場になるか分からないからとベルナ先生に預けたけど、ウチの方が安全だろうと連れてきたそうな。
そんなことを考えていると、不意に目の前が明るくなる――
「……ふう、ほとんど魔力を使ったから長距離でもなんとかなったな」
「お、おお……マジで知らない場所だ……」
「間違いなく王都だね。ここは僕も知ってるよ」
「広いねえ、ここだけでガストの町の広場の何倍あるんだろう……」
到着早々、リューゼが目を丸くして驚き、ウルカが久しぶりだと笑う。クーデリカは遠くを見てポカーンと口を開けていた。
俺はというと、流石に馬車で七日の距離の転移魔法陣作成は過酷で、身体には魔力が一割程度しか残っていない。ドラゴニックブレイズどころかファイアーボールを撃ったら息が切れそうなくらいである。
そこで、ルシエールの手からアッシュが飛び出し、俺達の方を向くと、二本足で立ってから両手を広げる。
「くおーん!」
「可愛い! でも、どうしたのかな?」
「いらっしゃいって言ってるのー! アッシュは賢いねー」
「えらいえらい!」
「くおーん♪」
ノーラがアッシュの言いたいことを代弁すると、アイナとルシエールが駆け寄って撫で回す。俺の魔物のはずだけど……まあ、今更だしいいか。
「っと、ディビットさんので移動したことあるけど慣れないわね。あ、ここに作ったんだ?」
「家を作るならここが一番いいと思ったんだ、丁度この土地の中心だと思う」
マキナが俺の隣に立ち、辺りを眺めながら言う。
そう、俺は魔物の園近くにある更地に転移魔法陣を設置した。魔物の園改造計画でだいぶ狭くなったけど、それでも土地はまだまだ空いている。
王都なのに更地が……と思うかもしれないけど、城壁を作った際、結構広めに作ったのだそうだ。
「何にもないわね……と思ったけど、家の骨組みが沢山あるわね」
「ああ、ここにルシエラ達の家が出来る予定なんだ。見張りはつけるけど、ここから向こうへいつでも戻れれば足りないものを取りに帰ることはできるよ」
「あ、そういうことね! なら父さんは毎日往復しそうだわ。ていうかまだラースが帰って来て一日だっけ? 逆にこれだけできているのが凄いわ」
「はは、多分知り合いの大工さんが居るからだと思うよ」
ルシエラも町から出たことは無いので興味津々と言った感じでその辺をウロウロする。とりあえず突っ立ってても仕方ないので俺は魔物の園へ案内することにした。
「ちょっと家に行く前に寄り道して行こうか。ノーラやアイナは久しぶりだし、完成したところは俺もまだ見ていないからちょうどいい」
「ラース兄ちゃん、魔物の園ってなあに?」
「ん? ああ、見たらきっと驚くぞ、トリムは泣いちゃうかもな」
「ぼ、僕泣かないよ!!」
「ふふ、男の子だもんねぇ」
ベルナ先生が俺のズボンの裾を掴んで離さないトリムの頭を撫でながら微笑む。とりあえず移動するかと、ぞろぞろと歩き出し、それほど遠くない場所なのですぐ到着した。
「おお、立派な看板だな!」
「ラースのデザインした看板、ちゃんと再現しているわね」
「前来た時と全然違うんだけど……」
兄さんが苦笑しながら呟くのを尻目に、俺は受付へと入っていく。前のような簡素な受付ではなく、コミカルな魔物の絵を描いたりして特に子供の目を引くオシャレな空間になっていた。
「ふわあ、これアッシュだ!」
「こっちはセフィロちゃんかなあ?」
「ねえねえ、この犬は居るの?」
「シューはラース兄ちゃんの家にいるよ!」
「ええー! 兄ちゃんの家に行きたい!」
と、目論見通り子供達が興奮気味にぺたぺたと受付に描かれている魔物を指さしてわいわいと騒ぎ始めると、聞きつけたタンジさんが奥から出てきた。
「何か急に騒がしくなったと思ったらラースじゃねえか!! お前、帰ったならこっち来いよ。完成したんだぜ?」
「はは、ごめんタンジさん。少し面倒なことが起きてさ」
「またか? で、そいつらは? 見た顔も居るけど、ほとんど知らない顔だな」
「みんな故郷のクラスメイトと、こっちは兄さんの同級生なんだ」
「よろしくね、おじさん!」
「お、おじ……!?」
タンジさんが目を細めてリューゼやルシエールを見ると、みんなそれぞれ頭を下げるなどして挨拶すると、肩を竦めて笑う。
「なるほどな、お前の友達って感じがするな。おお、アイナちゃん久しぶりだな!」
「おじちゃんこんにちは! お友達のティリアちゃんとトリム君を連れてきたよー!」
「おお、そうか! 元気そうで何よりだ。……それと、こっちの美人さんは? 今夜食事にでも……」
「うふふ、ティリアの母でベルナです! 夫が怒るから止めておきますねぇ」
「母!? こんなに若いのに……!? がっくし……」
「おじちゃん行こう!」
「おう……こっちだ……」
ベルナ先生は美人だから声をかけたくなるのは分かるけど、こればかりは仕方ない。ティグレ先生は怖いしね。項垂れるタンジさんを容赦なく引っ張るアイナに引きずられ、広場へ行くと、そこは前と違い網の目のようにあちこちに柵が出来ていた。もちろんイメージは動物園で設計したので、魔物達も外に出られるようになっている。
「うおお……! あっちの猿でけえ!?」
「え、こんな魔物が居るの……?」
「燃えている獅子もカッコいいわね!! え、何、こんなに魔物の種類を揃えているの!?」
「王都ならではって感じだよね。他の国や町にもいくつかあるらしいけど、ここまで魔物が多いのは王都だけらしいし」
「久しぶりだねーみんな」
バタバタと柵に駆け寄り色めき立つリューゼとルシエラ。リューゼについていったナルがアイアンコングを見て冷や汗をかいていた。ここの魔物達はガストの町周辺とは比べ物にならないレベルの魔物が多数いる。
そんな魔物にノーラが声をかけると、近くにいた魔物達はそれぞれ歓迎するかのように鳴いた。
「だ、大人気だねノーラちゃん……」
「うんー! 雪虎の親子は居ないのかなー?」
「おう、ちょっと待ってろ」
そう言ってタンジさんが奥へ走り出す。いつの間にかみんな近場をウロウロし始め、俺とマキナは顔を見合わせて笑う。
「楽しそうで良かったわね!」
「だな。この後は恐らくきつい戦いになるし、今くらいは楽しんでもらいたいよ」
アイナやティリアちゃん、トリムがアッシュとセフィロと一緒に魔物に一喜一憂するのを見てそう思うのだった。
魔物の園は思った通りに完成しており、開園はいつにするかといった話をタンジさんと交わし、先行で全部回ってみた。
「にゃーん♪」
「にゃーん……可愛いよう……」
「ルシエールがだらしない顔に……恐るべし子ネコ……」
「虎だけどね」
「でもめちゃくちゃ可愛いよね! ロックタートルと戦いたいなあ【金剛力】で甲羅が割れるかな?」
「ご、ごる……」
「やめたげて!?」
主にルシエールとクーデリカがはしゃいでいるのが微笑ましかった。
程なくしてさらに移動し、自宅へと招いたのだが――
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