第四百二十三話 懐かしい顔ぶれ
「ふう……」
「あはは! ラースでもおじ様たちにはかなわないわね」
「マキナだって顔を真っ赤にしてたくせに……」
「あ、あはは……」
<仲が良い証拠だ。我は嬉しいぞ>
「アイナちゃんと一緒じゃなくて良かったの?」
アイナはアッシュに夢中で、家の中のためサージュは俺についてきていた。小さい時から一緒だったので、アイナとサージュは種族は違えど兄妹みたいなものなので、これくらいで不貞腐れたりしない。
<アッシュのやつは可愛いから仕方ない……>
……が、寂しそうだった。アッシュは仕方ないよな。
で、兄さんとノーラも来ると言っていたけど、ノーラの父親のことで疲れていたため今日は辞退してもらった。
レッツェルの薬で目は覚めたようだけど、記憶を失くしているらしくノーラのことすら分からなかったらしい。今までのことも覚えておらず、ノーラが娘だと言ったら柔和な笑顔で頭を撫でたのだとか。
「……苦しそうだったわね、ノーラ」
「今までが今までだったからなあ。急に態度が変わったら困惑すると思うよ……」
記憶が無くなっても彼の罪は消えることは無い。
むしろ俺達が覚えていることで、どう扱っていいか分からなくなるためタチが悪いともいえるだろう。ノーラの母親が消えた理由は未だに不明で、昔ノーラにも聞いたことがあるけど小さすぎたので知らないとのこと。
父親があの調子なので母親が逃げたのが自然だけど、自分の娘を連れて行かないものだろうか?
「ま、ノーラが困っていたら助けよう」
「そうね! あ、ギルドが見えてきたわ」
マキナがそう言い、俺達は駆け足でギルドに近づき扉を開ける。王都についてからあまりゆっくりしていないから、何となく安心する。
「こんにちは!」
「誰か居るかな?」
<依頼から戻ってくる者が多い時間だし、誰かいるだろう>
「いらっしゃ……ああ! ラース君にマキナちゃん! 久しぶり、帰って来てたんだ」
サージュが受付に目を向けると、ギブソンさんが俺達に気づいて声をかけてくれたので受付へ向かう。
「久しぶり! リューゼやクーデリカは居ない?」
「もうすぐじゃないかな? リューゼ君はブラックバイパーの討伐に出ているよ。クーデリカちゃんは最近増えてきたハニービーを駆除しに行っているよ。あ、依頼完了? ごめん、ちょっとお仕事をさせてね」
サージュの言う通り、夕方にさしかかる時間なので冒険者達が揃って報告に来たので俺達は一旦適当な席に座り様子を伺う。
「ハニービーか、ハチミツは凄く美味しいけど群れていたら魔法がないと結構面倒なんだよな」
「前はラースが巣ごと燃やして大変なことになったけどね♪」
「言わないでくれ……」
あれは十一歳の時だっけ? そんなことを考えていると、入り口から聞きなれた声が聞こえてきたのでそちらに目を向ける。
「鎧が無い方が動きやすい気がしないか?」
「ダメよ、リューゼの攻撃は強いけど、隙もあるんだから」
肩に大剣を担いだリューゼと、眼鏡を上げながら口を尖らせるナルの姿があった。相変わらず二人かとマキナと苦笑しながら手を振って呼ぶ。
「おーい、リューゼ!」
「仲がいいわね、ふたりとも!」
「え? ……!? ラースにマキナじゃねえか!」
「あら! 帰って来てたの?」
ドタドタと寄ってくるリューゼに笑いかけながら拳を突き出すと、リューゼも二ッと笑って合わせてくる。
「うん。ちょっと里帰りと用事があってね」
「町が福音の降臨のせいで大変だったみたいだな、リューゼ達のおかげで助かったって父さんと兄さんが言ってたよ」
「へへ……照れるぜ、って言いたいところだけど主犯は逃がしちまったからなあ。見てくれよ、鎧にヒビが入ったんだ」
「まあ、あれは仕方ないわよ。ティグレ先生と同じくらいでしょ?」
<そうだな、あやつらは別格だ。絵を使う者より数段上だからな>
サージュの鎧にヒビを入れているのかと俺は顔には出さないが驚く。アクゼリュスとかいうやつはやばいとかレッツェルとか言っていたような気がするけどそこまでか……
「ま、俺のことはいい。サージュの鎧は今度修理に行く予定だしな! それより、なんだよ用事って?」
「ああ、みんなと会ってから話そうかな? とりあえず報酬を受け取ってきなよ」
「そうだな! へへ、楽しみだな。もっともヨグスは居ないんだけどな」
ヨグスはルツィアール国の遺跡に出張っているのだそうだ。次に帰ってくるのはいつになるか分からないとのことなので残念だ。
「そろそろクーデリカも帰ってくると思うけど……あ、ほら!」
「あ! クー!」
「ふえ? ……あ、あああああああ!? ラース君にマキナちゃん!!」
クーデリカが満面の笑みと涙を流しながら、俺とマキナに抱き着いて来たので、俺はどぎまぎしてしまう。なんでかは想像にお任せするけど……まだ成長しているのか……? 俺達がクーデリカの背中を撫でていると、クーデリカと一緒だったふたりが声を上げる。
「わ、久しぶりじゃない?」
「そうだね、俺達は卒業してからあまり顔を合わせてないからなあ」
「アンネにベルクライス! クーデリカと組んでいるんだ?」
「今日はね。この子、誰かと固定で組んでいるわけじゃないから、ルシエラさんとかとも一緒に行くわよ」
獲物を持ったベルクライスとアンネはCクラスだった同級生である。ふたりも成長し、ベルクライスは全身鎧に身を包み、アンネは魔法使いになったようだ。
「アンネちゃんにはお世話になってるよー! わたしはやっぱり力任せだから、援護があると心強いの。あ、サージュ!」
<うむ、元気そうだな。この前は助かったぞ>
「あ、そうそう、あんた達は知らないかもしれないけど、ゴブリンが大量に表れてパニックになったわよ」
「あれはびっくりしたね。俺達は住宅街で戦っていたけど、ドラゴンが門のところで戦うのが見えたよ」
ベルクライスは頭を掻きながら笑うが、アンネは本当に疲れたって顔でため息を吐く。
「明日、父さんからそのことで話があると思うから悪いけどよろしく頼むよ」
「領主様が?」
アンネが俺に片目を細めて尋ねてくるが、クーデリカは興奮状態で俺とマキナの手を取ってぶんぶん振りながら声をあげる。
「ね、ね、お話ししよう! 王都の話とか聞きたい!」
「ちょうどAクラスのみんなと会おうかって話になってたんだ。クーデリカも報酬を受け取ったら一緒にルシエールの家に行こう」
「うん!」
「オッケー、ならあたしとベルクライスはここでお別れね。ラース君、マキナさんまたね」
「ええ。多分すぐ会うことになると思うけどね」
「? それじゃ」
クーデリカもリューゼ達の後に受付を済ませて報酬を振りながらにこっと笑ってこちらへ来る。ナルもAクラスで集まるならってことで先に家に帰宅。クーデリカもウルカを呼んでくると一旦家へと戻った。
「さて、ウルカは居るかもな? この前の戦いの時、あいつがいたら楽だったのに……」
「スケルトン?」
「そうそう、あいつお前に呼ばれて王都に行ったんだってな? それからすげえ張り切ってるんだ。てか、俺にも言えよ!」
「はは、そうするよ。あの時は急いでいたからな。……でも、今度は絶対にお前達の力が必要になると思う」
「あん? 何があるんだ?」
リューゼの問いは一旦保留し、俺達はルシエールの家で集まることになる。
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