第四百二十四話 小さな同窓会
「こんにちは!」
「はい、いらっしゃい……ああ、マキナちゃん! それにラース君も!」
「久しぶり、ルシエール」
ブライオン商会に入ると、すぐにマキナの声に気づき俺達に駆け寄ってくるルシエール。マキナと抱き合っていると、クーデリカとウルカも入って来た。
「来たよ! ノーラちゃんはいいのかな?」
「あいつは家に帰れば会えるからいいんじゃねえか?」
「えー、わたし達もあんまり会えてなくない? パティちゃんも別の国に行っちゃったから寂しいよ」
以前、ヘレナが王都に行った際、入れ替わりで入ったパティは卒業後に家族ぐるみで別の国へ引っ越したのでこの町には居ないのだそうだ。クーデリカとは仲が良かったのでいつか会いに行きたいらしい。
クーデリカがリューゼの言葉に口を尖らせながらマキナの背中に抱き着く。
……この組み合わせは俺にとっては少し苦い思い出だと三人を見ながら思う。見ての通り仲が悪くなったりはしていないけどね。そんな中、俺はウルカに話しかける。
「久しぶりだなウルカ。あの時は助かった」
「全然いいよ、報酬もきちんと貰っているしお仕事だからね」
「まあね。ミルフィとはどうなんだい?」
「あ、ちょっとラース……!?」
俺がミルフィのことを聞くと慌てて口を塞ぎに来るウルカ。そこでリューゼが目を見開いてウルカに言う。
「ミルフィって誰だ!? お前、彼女が……」
「う、うん。王都に行った時にヘレナと一緒に居た子が凄くいい子で」
「本当? ウルカ君おめでとう、お祝いをしましょうか!」
「い、いいよ!?」
ルシエールが手を合わせてほわっと笑い、クーデリカも手を上げて喜ぶ。そこへルシエラが現れて俺達に声をかけた。
「こっちまで聞こえてくるわよ、あんたたち。店番変わって貰って上でお話しましょ。それと、久しぶりね、ラース」
「久しぶり。ルシエラもこの前の騒動で頑張っていたらしいじゃないか」
「ふふん、そうよ! さ、みんなも突っ立ってないで上がって。私がお茶を出すから、ルシエールは部屋に連れて行って」
「うん!」
「お邪魔しまーす!」
マキナが楽しそうにルシエールとクーデリカと一緒に上がり、俺達男性陣もそれに続き、二階にあるルシエールの部屋に招かれた。
程なくしてルシエラがお茶とお菓子を持って入ってくると、話が一気に盛り上がる。
「マキナちゃん雰囲気変わった? 凄く強くなっていそう」
「あ、そうそう! 今、私‟雷撃のファス”っていう人の弟子なの。剣は使わなくなったけど、接近戦と拳の立ち回りはかなり良くなったと思うわ」
「本当? いいなあ、わたしも王都で依頼を受けてみたい。あ、サージュ今度連れて行って」
<許可が出ればいいぞ>
「ウチはバスレー先生と師匠が居るけど、部屋はあるし。ね、ラース」
「ああ。ウルカが来た時は兄さんとノーラ、それとアイナが泊ったけど問題なかったよ」
マキナと俺の言葉に『おー』と歓声があがる。何故だろうと思っていると、ルシエールが微笑みながらその疑問を払拭する。
「ふふ、やっぱりラース君お金があるから大きい家なんだね」
「そういう歓声だったのか……ま、まあ、色々と仕事はしているからね」
「レオールさんとは会うの?」
「最近は全然かなあ、ちょっと前に衣装の件で会ったのが最後だっけ?」
「そうね、グラスコ領に行く前だから結構経ってるわね」
「ふうん……いいなあ」
「ねー。マキナちゃんたまには代わってよー」
「か、代われないわよ!?」
ルシエールとクーデリカに詰め寄られて慌てるマキナ。本気ではないはずだし、そんなに慌てなくてもいいのにと思っていると、横ではリューゼがウルカに顔を近づけて目を血走らせていた。
「ウルカの彼女……可愛いのか!?」
「ヘレナと一緒でアイドルだから可愛いよねマキナ」
助け舟を出しておくかとマキナに声をかけると、俺の後ろに逃げ込みながら口を開く。
「うん。いい子だし、大人しいウルカにピッタリだと思うわ」
「アイドル!? ラース、今度俺も王都に連れて行ってくれ!」
「いいけど、ナルに殺されるんじゃないか?」
「う……!?」
「ナルちゃんのことはどう思ってるのよ」
俺が返すと言葉を詰まらせるリューゼ。ナルのことは想っているようだが、それはそれと言ってルシエラに殴られた。
「ったく、ナルちゃんいい子なんだからきちんとしなさい」
「はい……チッ、ウルカとラースのせいで酷い目にあったぜ……で、どうしてまたこのタイミングなんだ? ローエンさんから王都に報告が行ったからか?」
自分のせいだろと俺とウルカが笑顔で詰め寄り、リューゼが冷や汗をかく。俺はそんなリューゼに苦笑しながら、帰って来た経緯を話す。
「実は――」
オリオラ領、グラスコ領。そしてサンディオラの出来事、それが福音の降臨の仕業であることを告げると、全員難しい顔をする。
「そもそもの原因、ってことか。レッツェルはそれに加担して親父を……」
「だとしたら間違いなくあいつらは帰ってくるわね。表向きは慈善……でも、私たちにそれが知られたとなると、レフレクシオン王国の福音の降臨は一掃するでしょ?」
「国王様はそのつもりだ。で、ルシエラの予想は当たっていると思うよ」
「な、ならラース君はこの町の防衛に帰って来たの?」
「なら全然余裕だね!」
ルシエールが不安げに言い、クーデリカが不敵に笑う。
「いや、明日みんなには告知するつもりだけど、一度全員王都へ移動してもらう予定なんだ。町は確実に戦場になる。だけど、戦えない町の人を犠牲にするわけにはいかないだろ?」
「はあ!? 待てよ、一体何人いると思ってるんだ? そんなの無理だろ? 今から引っ越しは相当きついぞ」
「まあ、そこは考えているよ<跳躍>」
「あ……!?」
俺が転移魔法を使った瞬間、俺はリューゼの背後に出現し、びっくりしたリューゼが後ずさる。
「そ、それは……」
「古代魔法で転移の魔法さ。これで町の人達を移動させる。転移魔法陣は完璧にマスターしたから安全に運べるよ」
「凄いわねえ……いや、あんたやっぱり嫁が一人は勿体ないわよ? 子供をいっぱい作った方がいいって。ねえ、ルシエール?」
「ええ、私!? ……い、いや、そういうのはラース君とマキナちゃんが考えることだし……」
「わたしはいつでもいいよ!」
「と、とりあえず、意向は分かったよ。僕も向こうに行けるのは嬉しいしね。でも、戦いになったらもちろん参加するよ!」
ウルカが話を変えてくれたのでホッとする。するとリューゼが鼻息を荒くして話し出す。
「なら、俺達も明日の告知は手伝うぜ? 移動したくないやつとかいたら説得しないとな。それと、ラースにマキナ」
「ん?」
「なあに?」
「向こうに着いたら訓練をしてくれないか? あのアクゼリュスとか言うやつはまた必ず来る。ティグレ先生があいつと戦えるって訳じゃねえ、戦力は少しでも多い方がいい」
こいつも結構強いと思うけど、手合わせの結果、実力の差を知ったのだろう。もちろん俺は頷いて握手を交わす。ティグレ先生とベルナ先生、それとファスさんといった手練れも多いので手段を選ばず、とにかく強くなることを念頭に置くと言って解散した。
そして翌日、住民に説明をするため広場へとアーヴィング家が並ぶ――
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