第四百二十一話 入り乱れて
速い!?
俺とマキナしか居ないからか、サージュのスピードは今までとは比べ物にならないくらい速かった。オートプロテクションで風圧を避けているから問題はないけど、これは凄まじい。
なのでマキナが驚いた顔でサージュへ尋ねた。
「ちょ、ちょっと速すぎない!?」
<すまんな、お前達二人なら少し本気を出してもいいかと思ったからだ>
「何かあったのかい?」
俺が聞くとサージュは頷き、ガストの町が襲われた際に自分を模した敵が現れたのだそう。それをすぐに処理できなかったことが悔しいらしい。
<今の生活は楽しいが、いざというとき皆を守れねば意味が無い。力を出し惜しみせず、我も修行とやらをする必要がありそうだ>
「ティリアちゃんがすぐに助け出されて良かったわね。サージュには人質が有効だもん」
「うん。こいつ、強面なのに優しいからな」
<……うるさいぞ二人とも。速度を上げるか>
「うわ! 待ってよサージュ」
そんなやりとりをしながら笑うマキナの傍で、俺は夢の中で切り落とされたサージュの頭を思い出す。もしかしたらあっちが本当だったかもしれない……レッツェルの予知は話半分で聞いておき、出来るだけ早く対処するのが肝要だなと思う。
「ラース、着いたわよ! ラース?」
「ん、ああ、ごめん考え事をしていた」
「くおーん!」
「!」
「わ、止めろって」
実はアッシュとセフィロは小さいので連れてきていたりする。アイナはアッシュが大好きなので、久しぶりに会わせてあげようとマキナが提案してくれた。セフィロは……どこかで夢を見て話ができればと思い、いつも連れて歩くようにしているためだ。
「さて、と……父さんと兄さんに話をしないとな」
「うん。絶対みんなを守らないとね!」
――程なくして庭に降り立つと、そこにはすでに一家勢ぞろいで待ち構えていた。もちろん、一番最初に駆けてきたのはアイナだった。
「ラースにいちゃーん! サージュ!!」
「おおう……強烈な一撃だな……元気そうだな、アイナ」
「うん! 急にサージュの姿が見えなくなったから探してたら空に居るってノーラちゃんが! そしたら兄ちゃんが降りてきてアイナびっくりした!」
どうやらサージュが召喚されるのをノーラが見ていたらしく、俺に小さく手を振っていた。だからみんな集まっていたのかと納得する。
「ほら、連れてきたぞ」
「ああー! アッシュだ! それとセフィロちゃんも!」
「くおーん♪」
「♪」
アッシュは小さい尻尾をぴこぴこさせ、セフィロは頭に花を咲かせてアイナに飛びついていた。
「お父さん、お母さん! ティリアちゃんのところへ行っていい? アッシュを紹介するの!」
「うーん、この前のこともあるしなあ……」
「だめー?」
「そうねえ」
アイナがアッシュを抱えて父さん達にお願いするが、誘拐されかかったティリアちゃんのことがあるので子供だけで出歩くのは止めているようだ。なので、俺がアイナの頭を撫でながら言う。
「アイナ、町に魔物を連れて歩くには俺が居ないとダメなんだ」
「えー! アッシュ怖くないよ、こんなに可愛いのに!」
「それでもだよ。母さんとティリアちゃんを家に呼べばいいんじゃないか? ベルナ先生かティグレ先生と一緒にさ」
「うーん」
アイナは少し口を尖らせるが、すぐにアッシュを俺に預けて母さんの手を取った。
「お母さん行こう、ティリアちゃんのところ!」
「はいはい、ウチの子達は元気ねえ。デダイトもあの時オーガと戦ったりして、やっぱり男の子なのよね」
「兄さんも戦ったんだ」
「うんー! かっこよかったよ! でも、それがオラの父ちゃんで……」
「……?」
「さあさ、庭で話していても仕方ないわ。私はアイナとベルナのところへ行くから、後で教えてね」
ノーラの様子がおかしいが、母さんがアイナを抱っこしてウインクしてきたので俺達は母さんと玄関で別れ屋敷へと入っていく。リビングにいくと、兄さんが口を開いた。
「屋敷の前でノーラのお父さんが待ち伏せをしていてね。僕がノーラを庇うと、その瞬間オーガに変化したんだ。あれは昔ルシエラとルシエールちゃんを攫った冒険者と同じだろうね」
「……ってことは、あの時も福音の降臨が……」
「ええ、そうですね。あれは僕の仕業でしたし」
「ぶっ!?」
俺が顎に手を当てて呟くと、俺の隣でレッツェルが頷き、マキナが噴いた。
「お前なんで!?」
「僕は転移魔法が使えると言ったはずですが? 伊達に長く生きていませんからね。この距離を縮めるくらいの魔力はあります。あの大臣は今頃僕を模したゴーレムに騙されていることでしょう。イルミとリースも居ますしね」
「いけしゃあしゃあと……! ルシエールを攫わせたのはお前だったのか!」
「もちろん。ラース君の力を目覚めさせるためにね? まあ、あの子達はいいところで助けるつもりでしたが」
「やかましい!」
くそ……こいつの仕業だったとは……今すぐ死んで欲しいが、とりあえず殴っておく。しかしこいつは死にたいらしいからそれはご褒美にしかならないのがさらに腹立たしい……
「お、お前は!?」
「ああ、そういえばお父上はお久しぶりですね。僕はブラオを唆してそこのお兄さんを殺しかけた主犯です――」
「あ!」
「あの時は世話になったな……!」
マキナが口を抑えた瞬間、レッツェルは父さんの拳を真正面から受けて吹っ飛んでいった。こいつ、意外と頭が悪いのだろうかと呆れていると、兄さんが俺に言う。
「どうして彼と一緒なんだい?」
「ちょっとサンディオラの国で……話が逸れた、ごめんノーラ」
「ううん……いいけど、眼鏡の人、大丈夫ー?」
見れば珍しく父さんが激昂し、胸倉を締め上げてがくがくと揺らしていた。
「金はいい、だが息子を殺そうとしたことは許せん!」
「ああ、もう! 余計なやつだよホント! 父さんストップ!」
とりあえず父さんを宥め、レッツェルから引きはがす。無抵抗で殴られていたせいか眼鏡は割れ鼻血を出すレッツェル。
「お怒りはごもっとも。それにしてもいい顔で殴りかかってきましたねえ」
「こいつ……!」
「レッツェルいい加減にしろ。何しに来たんだよ」
「いえ、そちらのお嬢さんの父親がオーガになるのは予知で分かっていましたから、解毒を持って来ました」
「え!?」
ガタっと立ち上がったのはノーラ。
なんでもオーガ化は解けたがまだ目を覚まさないらしい。色々複雑な思いがあるみたいだが、やはり父親は父親なのだろう。
「これを飲ませれば毒素が抜けます。改良したオーガ薬なので、命に別状はないでしょう。精神も犯されてはいないはずですよ」
「……! あ、ありがとうー! デダイト君!」
「うん。僕も行くよ、ラース」
俺は無言で頷き、慌てて出て行くノーラを追う兄さん。結局、父さんと俺、マキナにレッツェルという謎の組み合わせになり、話を続ける。
「と、とりあえず俺はガストの町で起こったことを国王様から聞いている。で、父さんに話があって帰って来たんだ」
「はい。おじさまの力が必要になります」
「マキナちゃんまで……一体なんだろう?」
父さんは真剣な顔のマキナを見て、再び俺に目を向ける。そして提案を口にする――
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