第四百十八話 情報交換


 程なくしてイルミネートの町へ到着した俺達はその足で城へと向かう。

 一度家に帰りたいけど全員揃っている今がいいだろうと言うことで報告を先にすることに決めた。

 

 「お、帰って来たのか。いい話があるぜ」

 「ただいまニビルさん! ごめん、ちょっとその話は後でいいかな。国王様に報告があるから、こいつらを預かって欲しいんだ」

 「慌ただしいな? もちろんいいぜ、急ぎだろ? 馬車ごと預かるから早く行きな」

 「ありがとうございます! それじゃ大人しくしているのよ?」

 「くおーん」

 「わん!」

 「ぐるる……」


 ニビルさんに連れていかれるアッシュ達を見送ると、俺達は城内へと入っていく。そこでバスレー先生がイルミとリースを伴い前へ出る。


 「わたしはこの二人を監視できる者を探してきます。ラース君達は先に謁見の間へ行っててください」

 「分かった。レッツェルはこのままでいいのか?」

 「さっき外の受付で人を呼んでいるので……ああ、来ました来ました」

 「やあ、ラース君達にバスレーちゃんおかえり! ……彼は僕も監視しておくからこのまま謁見の間へ行こう」


 やって来たのはヒンメルさんで、いつもの笑顔で出迎えてくれるとレッツェルの後ろに付いて移動を促してくる。


 「では後ほど。兄ちゃん、頼みましたよ」

 「任されたよ。向こうにはホークさん達も居るから問題ない」


 エントランスでバスレー先生を見送り、俺達はさらに奥へ進んで謁見の間へ。そこでファスさんが口を開く。


 「しかし、マキナを後継者にするだけのつもりじゃったが、大変なことになってきたのう」

 「ごめんファスさん。これから大きい戦いになるかもしれないから山に戻ってもいいけど」

 「何を言うか。これでマキナが死んだりしたら寝覚めが悪いわい。不可抗力とはいえ若返って力はある。全力でフォローするぞ?」

 「そうですね、そちらのお嬢さんをもっと鍛えてあげてください。あなたの後継者足りえると思いますよ」

 「それもお主の予知、か?」

 「さて、ね。どちらにせよ、あなたの力も必ず必要になります」

 「ふん……」

 「ま、まあまあ師匠、可愛くなったからいいじゃないですか」

 「お主はもちょっと緊張感を持て」


 マキナがファスさんに耳を引っ張られて涙目になっていると、謁見の間に到着。宰相のフレデリックさんが難しい顔をして扉の前に立っていた。


 「来たか、ラース=アーヴィング。それと懐かしい顔……噂があったとはいえ、生きていたことが驚きだな。こちらの準備は万端だ、入ってくれ」

 「はい。申し訳ありません、フレデリックさん」

 「気にするな。また美味い料理でも作ってくれればな」


 そう言って謁見の間の扉を開けると、国王様とオルデン王子が椅子に座っているのが見え、両脇には騎士達がずらりと並んでいた。レッツェル対策なのだろうと思っていると、国王様が口を開く。


 「サンディオラへ行っていたと聞いている。相変わらず面倒ごとに巻き込まれてようだな」

 「は、はい……」

 「ははは、すまんすまん。アフマンド王からお礼状をもらっているから事情は把握している。我が国の領地だけではなく他国をも救うとは見事だ」

 「私の力だけではありません。仲間が居たからこそです」

 「うむ、謙虚だな、お主は。さて、お前達の話もいい話では無さそうだが、こちらもあまりいい話ができそうにない」


 国王様は渋い顔をして俺にそう言うと、オルデン王子が口を開いた。その目はレッツェルに向けられている。


 「ま、とりあえずラースの話を聞こうよ父上。六年前に僕の命を狙った男を連れている理由を聞かないといけないしね?」

 「もちろんそれはお話します――」


 サンディオラでの戦い、福音の降臨には十神者と呼ばれる幹部がいること。そしてその一人を捕縛しているとファスさんが抱えてきたアイーアツブスを床に転がす。

 そしてレッツェルが不老不死の存在であることを話し、区切りをつけた。もちろん謁見の間にはどよめきが起こり、国王様とオルデン王子も冷や汗をかく。


 「不老不死……そんなことが……」

 「それにそっちは福音の降臨幹部……」

 「信じられないのも無理はありませんがね。では証拠を……」

 「レッツェル何を――」

 「きゃあああ!?」


 レッツェルが白衣の下に隠していたダガーを取り出すと、何の躊躇もなく自分の胸に突き刺し、胸と口から血が滲みでる。ダガーを引き抜くと、白衣で拭い鞘に納め、そのまま話を続ける。


 「ふう、痛みはあるのであまりやりたくないのですが。これで信じていただけるでしょうか? その節は失礼しました、アルバート王」

 「相変わらず気味の悪い男だ。どうして福音の降臨を裏切った?」

 「まあ、色々ありますが僕が思うほど彼は優秀では無かった、ということですかね。賢者の魂を駆使しても僕を殺すことはできないでしょう」

 「ではラースが貴様を殺せなければ裏切ることもあるということか」


 ……流石は国王様。それは俺も思っていて警戒していたことだ。簡単に裏切れるということは、俺達も裏切られる可能性があるということ。【超器用貧乏】が有用だと思っている内はいいだろうけど、そうじゃないと気づいたときどうするかが分からない。


 「あり得ると思っていただいて結構です。僕は僕の為に生きていますからね、アポスの計画に乗ったは彼の能力が僕の役に立つと思ったからですしね? 教祖として各地に信者をまけば、情報が手に入るなら利用しようとね」

 「なるほど。貴様がそういうくらいだ、相当の能力がありそうだな。話せるのか?」

 「ええ、いくらでも。でもその前にそちらの持っている情報をお聞かせ願えますかね」

 「おい、レッツェル、失礼だぞ」

 「良いラース。福音の降臨関連だから話しておこう」


 国王様が咳ばらいをした後、神妙な顔で俺達……というか俺とマキナの顔を見た後話し出した。


 「今から二週間前、ガストの町が福音の降臨の信者から襲撃を受けた」

 「!」

 「そ、それってレッツェルさんの言っていた!?」

 「……」


 襲撃の話はレッツェルが予知夢ではないと思いたいと言っていたけど本当にあったようだ。あの時点ではもう過去だったのか? 時期的には未来……? ややこしいが国王様の話は続く。


 「しかし町の冒険者やオヴィリヴィオン学院の教員のおかげで犠牲はゼロで事態は収束した」

 「良かった……」

 「しかし、事件の首謀者、それとそいつを助けにきた福音の降臨のメンバーは逃がしてしまったらしい。一人は剣士、もう一人はローブを目深に被っていて顔は確認できなかったが、ティグレという教員から逃れ、ドラゴンとローエンの娘が追撃したところ、奇妙な魔法か何かで近づけなかったらしい」

 「ア、アイナ……何やってるんだ……サージュも……」


 まさかの登場人物に頭を抱える。しかしティグレ先生が倒せなかった相手とは、と思っていると、レッツェルが笑いを止めて呟く。


 「【拒絶】のシェリダーですか……アレが再びガストの町に来るなら手を打たないといけませんね」

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