第四百十四話 互角以上
「……何者だ? てめぇも福音の降臨のメンバーってやつか?」
「ひゃはは! 逆に聞くが、この状況でそれ以外に答えがあるってのか!」
「質問に質問で返すんじゃねぇ!」
ガギン、という鈍い音がした瞬間ティグレとエレキムを助けた男が弾かれ合い、お互い大きく後退する。
追撃はせず、ティグレは目を細めて目の前にいる男を見る。
「先生!」
「すまねえデダイト。少し剣を借りるぞ。……今の一撃を涼しい顔で受け流した、いかれた野郎に見えるがこいつは強い」
「みたいだな……俺と同時に仕掛けたらどうだ?」
リューゼが頬に汗を流しながら言うと、デダイトが頷いて口を開く。
「悪いんだけどジャック君は蹴散らしてきた福音のやつらを拘束しながら町へ戻ってくれるかい。僕とリューゼ君、それと先生であの緑髪の男を追い詰めよう」
「三人でお相手かい? 勝てるかな、この【残酷】のアクゼリュス様に! ひゃは!」
アクゼリュスと名乗った男が剣を向けて笑うと、ジャックが体を震わせて後ずさる。
「あ、ありゃ俺の手には負えねえ……わ、分かったぜ、デダイトさん!」
「はは、逃げても後で追いかけて殺してやるから安心――」
「と見せかけての【コラボレーション】からの【ウインドストリーム】!」
「んあ!?」
ジャックが逃げると見せかけてリューゼの手首を掴むと、持っていたショートソードからコラボレーションしたリューゼの魔法剣をアクゼリュスへと放つ。その瞬間、左右にティグレとリューゼが分かれ、デダイトが正面から追撃で魔法を撃つ。
「俺にはこれくらいしかできねえ、任せたぜ!」
「十分だよ! <ハイドロストリーム>!」
渦巻く水流がウインドストリームに巻き込まれたアクゼリュスを襲う。剣でガードするが、着ていたローブはズタズタになり、頬や腕には切り傷が無数にでき、血を滲ませる。
「いってぇ……!? やりやがったな! む!」
「おおおおお!」
「食らいやがれ!!」
「ひゃは! こいつら……!!」
アクゼリュスは愉悦の笑みを浮かべながらティグレへと顔を向ける。先ほど手合わせをしたからか、もしくは本能的にティグレの方が危険だと悟ったのか? 振り下ろされる大剣を受け――
「甘ぇ!」
「おおっ!? ちぃ、やるねえ、ならこっちだ!」
「はっ!!」
フェイントで腹を薙ぐつもりだったティグレだったが、皮一枚で避けられ歯噛みをした。すぐにアクゼリュスは標的を背中から斬りかかっていたリューゼに変え、剣をぶつけると力任せに押し切ろうとする。
「うおおおおお! こいつ、この細腕ですげぇ力だ!?」
「耐えるだと!? こいつも危険、か! ひゃはは!」
「喋る暇があるかよ! リューゼ、抑えてろ!」
「ああ!」
「二人がかりとは汚えぞ!」
「僕もいるよ!」
「素手だと!? ぐお!?」
リューゼから逃れようと身をよじったところに、身をかがめて近づいていたデダイトが渾身の力で脇腹に拳を叩き込む。苦悶の表情を浮かべたアクゼリュスに、ティグレが背後から袈裟懸けに切り伏せる!
「倒れろや!」
「ぐああああああ!? ……とか言ってみたりしてな!」
「なに!? がはっ!?」
「デダイトさん! こいつ、斬られたのにまだ……うお!?」
「リューゼ! チッ、手加減無しのこれでどうだ、断空!」
「!?」
膝をつくデダイトと、押し切られたリューゼを見てケリをつけるべく大技を放つティグレ。それを剣で受けると、木に叩きつけられずるりと座り込む。
「げほっげほ……いや、いい威力だな……骨の何本かはイカれたな! ひゃははは!」
「もう動けんだろ、大人しくついて来てもらうぞ」
「ひゃ! もうちょっと楽しみたいところだが、あんまり時間が無くってな! ばっ!」
「なんだ!」
アクゼリュスは口から吐いた血を指につけると、急にそれを空に向かってまき散らす。すると、その血はパキパキと空中で槍と化し、町の方へと飛んで行った。
「何を!?」
「ああ、口封じってやつだ。まあ、お前らは俺達のことを知っているようだから意味は無さそうだが、念のためな? エレキムはアホだがスキルは役に立つ。こいつは回収させてもらうぜ! ひゃは、ひゃははははは!!」
焦るティグレにアクゼリュスは高笑いをしながら立ち上がると、エレキムに向かって駆け出す。直感で動いたリューゼが足止めのため前に出た。
「ダメージを負っているくせに何言ってやがる!」
「坊主はもうちょっと強くならねえと俺は倒せねえぜ? あっちの目つきの悪い男くらいは必要だ。ちょっとだけ本気を見せてやろう……」
「……!?」
スゥっと目を細めたアクゼリュスが、驚くほど低い姿勢でリューゼに向きを変える。大剣を振り下ろすがそれよりもはやく、懐に飛び込まれた。
「獲物がでかいのは結構だが、この高さの相手を狙うのは難しいだろう? そしてできた隙に……」
「まさか……!?」
アクゼリュスが振った剣がリューゼのプレートメイルを傷つけると、ヒビが入った。かなりの強度を誇るサージュの鎧がと驚いていると、さらに追撃をかけてきた。
「殺すには惜しいから重症で勘弁してやる【残酷】のスキルでな」
「まずい……よけきれない……!」
「リューゼ君!」
身をよじるがこのままでは良くて脇腹を切り裂かれると脂汗を噴き出すリューゼにティグレが救援へ向かう。間に合わない、誰もがそう思った瞬間――
「アイナキーック!」
「なんだと!? チッ!」
空からアイナが降って、いや、正確にはサージュと共に上空から強襲してきた! アクゼリュスは攻撃を中断し、エレキムの下へ飛びのくと、再び緊張感のない笑いを浮かべて頭を掻く。
「ひゃは! 威勢のいいお嬢ちゃんだねえ! それにドラゴンか……この町、思った以上に面白いようだ。教主様にいい土産話ができた!」
<我が来て逃げられると思うのか?>
「それが逃げられるんだよなあ」
エレキムを担ぎ、にやりと口を歪めた瞬間、アクゼリュスが宙に浮く。
「……」
「よう、助かったぜ。と、いう訳だ。悪いがこのまま撤退させてもらうぜ、ひゃはははは! だが、この町はいずれ俺達の手で蹂躙してやる。そう遠くない内にな――」
<逃がすわけにはいかんな!>
「アイナもやるよ!」
「……」
サージュが巨大化して新たに表れたローブの人影とアクゼリュスへ迫り爪を振り下ろす。しかし、その爪は届かず、気づけば遠く離れていた。
<いつの間に……これならどうだ!>
「<ファイヤーボール>!」
再度攻撃を仕掛けるサージュとアイナの二人。だが、やはり気づくと距離が離れていた。
<こやつ一体……幻術か魔法か?>
「一気に遠くなっちゃった!?」
「ひゃは! まあ、いずれわかるってことだ! じゃあな、目つきの悪い男、今度は全力で殺し合おうぜ!!」
「待て!」
<くそ……!>
ティグレの叫びも虚しく、サージュが迫れば迫るほどアクゼリュス達は遠ざかっていき、やがて見えなくなった。
<訳がわからん! なんなのだ!>
「サージュ怒ったらダメだよ。また来るって言ってたし次倒そう!」
「はあ……仕方ないね。アイナの言う通りかもしれない。それにしてもすごいスピードで離れて行ったな……」
「それにアクゼリュスだっけか? あいつもまだ本気じゃねえ……」
「口惜しいが……町も気になる。サージュ、頼めるか」
<承知した>
アイナが拳を握って熱弁を振るうと、サージュは渋々頷き地上へ降り、デダイトやティグレたちを回収して町へと帰る。
途中、ジャックを見つけたが――
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