第四百十三話 悪あがき
「っしゃぁ!!」
「ぶへあぁぁぁぁぁ!!」
「いったぁ……」
突然視界に現れたティグレに驚いたエレキムが何かを言うよりも早く、顔面を殴られ大きく吹き飛んでいき、ルシエラが片目をつぶって痛そうに呟く。
ティグレはすぐにティリアを抱きかかえて体を揺すりながら声をかけた。
「おい、ティリア大丈夫か!」
「うーん……もう食べられないよう……パパ、足ちゃんと洗ってぇ……むにゃ……」
「ただ寝ているだけみたいだな……良かった……」
少し心が痛かったが愛娘を助け出せたことに安堵していると、リューゼたちが集まってきた。
「ティリアちゃん良かったぁ!」
「流石は先生、あっという間に奪還したな!」
「お前たちが目を引き付けてくれたおかげだよ。さて……福音の降臨だったか。覚悟は出来てるんだろうな?」
「ぐ……くそ……ま、まさか領主の娘を取り違えるとは……この私が……」
<ふん、調査が足りないからだな。自分のやることに間違いはないという驕りがこういう結果を招く。アイナ、覚えておくのだぞ>
「うん! で、このおじさん達は捕まえるんだよね?」
アイナが唇に指を置いてからそう言うと、デダイトが前に出て大剣を構えながら口を開く。隣にはリューゼとジャックも控えていた。
「さっきも言ったけど、降参するなら今のうちだ。ノーラの父親の件もある、もし抵抗するなら腕の一本は覚悟してもらうよ」
「ゴブリンもお前らが操ってんだろ? そっちも何とかしてもらいたいもんだな」
「エ、エレキム様……!」
凄みをきかせている一行を見て、縋るような声でエレキムの名を呼ぶ福音のメンバー。エレキムは立ち上がると、血をぺっと吐いた後、懐から紙とペンを取り出してティグレ達を睨みつける。
「……ゴブリンは消すさ。今からな。計画は失敗したが、まだ終わったわけではないぞ」
「御託を聞いてやる必要もねえな。ルシエール、ティリアを頼む。デダイト、リューゼ、ジャック、一気に捕縛するぞ!」
「「「おお!!」」」
ゴキリと指を鳴らしたティグレが身を低くして飛び出すと、デダイト達が続く。その瞬間、エレキムはにやりと笑い、紙を地面に叩きつけた。
「なんのつもりだ!」
「こういうつもりですよ!」
<な、なに!?>
「嘘でしょ!?」
エレキムが紙を地面に叩きつけた直後に光り輝き、そこから巨大なドラゴンが姿を現した! 驚いたのはサージュ。それもそのはずで、巨大化したサージュそのものだったからだ。
「やれ!」
<グルォォォォ!>
「チッ、どういう仕掛けだ! うらあああ!」
「俺は右から行くぜ!」
「うお……!?」
「くっ……」
エレキムの合図で偽サージュが蹴り上げると大きな風圧が発生し、デダイトとジャックは足を止める。しかし、ティグレリューゼはそれを回避し、左右から攻撃を仕掛けた。
<グオォ!>
「飛んだ!?」
「こいつ……! いったん下がるぞリューゼ」
足を狙って転ばせるつもりだったが、偽物とはいえサージュなので、空を舞って回避し、踏みつぶそうとしてくる。ふたりがデダイト達のところへ戻ると、エレキムが高らかに笑い始めた。
「ふはははは! どうだ、ドラゴンを相手にした気分は! 私のスキル【絵心】は描いた対象を具現化することができるのだ。動物や魔物、植物といったものだけだが同じ能力を持った分身を倒すのは骨が折れるだろう?」
「地面にぶっ倒れてるくせに何偉そうなこと言ってんのよ!」
「うるさいぞ小娘! ゴブリン程度なら大した魔力は消費しないから大量に出せるがドラゴンともなれば消費魔力はけた違いなのだ! さあ、信者たちよ私を運んで逃げなさい」
「は、ははー!!」
信者たちはエレキムを抱えると、偽サージュを盾にして逃走をはかる。
「大量のゴブリンがどこから出てきたのか不思議だったが、そういうことか。サージュ、こいつは任せていいか? あの口ぶりならそんなに長く偽モノは具現化されないだろう」
<当然だ! 我の模倣など断じて許さん。アイナ、しっかり掴まっていろ>
「あい!」
ティグレたちがエレキムを追うため駆け出すと、怒りを露わにしたサージュが巨大化し、偽サージュに殴りかかる。すると偽物はその拳を掴んで力比べの状態になり、能力は互角なため拮抗する。
「サージュ頑張れー! <ファイヤーボール>!」
<グォォォ!?>
サージュの角を掴んで立っていたアイナが、応援と同時に偽サージュの顔をめがけて魔法を放つと、ちょうど眉間のあたりに着弾し爆発する。その一瞬の隙を逃さず、サージュは首を掴んで地面に転ばせようと力を込めた。
<助かるぞアイナ!>
<カァァァァ!>
「口から火を出すつもりだよ!」
<チッ、アイナに当たる……!! おおおおお!>
<ゴガァァァァァ!!>
顔面を殴り火球を逸らせると、今度は偽サージュがサージュの首を掴んで締め上げてくる。
「す、すごい戦いだよ……!」
「ルシエール、福音は先生たちに任せて避難するわよ! ゴブリンはまだ消えてないし」
「う、うん!」
ルシエラとルシエールは巨大なドラゴン同士の戦いから避けるため、通りを戻っていく。戦っている場所からリューゼたちが居なくなったことを確認したサージュは起き上がろうとする偽物を殴りつけた。
両方とも立っていれば力は互角。だが、今は上に乗っているサージュの方が有利。さらにアイナが頭の上で叫んだ。
「サージュもう一回撃つよ! <ファイヤーボール>!」
<ギュギャァァ!?>
<とどめだ……!!>
その光景を目線だけで見ながら遠くなっていくエレキムが笑いながら言う。
「くくく……これなら逃げることができそうですね。しかし、ドラゴンの模写は思った以上に消費が激しかったですねえ……あれを大量投入するのは現実的ではありませんか」
しかし、人を抱えて早く走れるはずもなく、ティグレが追いつき冷静に声を上げる。
「二度目はねえ、ここでお前らは終わりだ」
「補助魔法を使っているのに追いつかれるとは……!? 足止めをしなさい! 捕まっても必ず助けに来ます!」
「あ、あああああああ!」
「チッ、邪魔すんな!? 利用されているだけだぞ!」
「先生! うわ!? 魔法使いもいるのか!」
「わたしがやるわ! 【氷結】」
ナルがダガーを地面に突き刺してスキルを使うと、足元から氷の筋が伸びていき、行く手を阻む信者たちを転ばせ、足を凍り付かせる。
「悪いけど寝ててもらうよ」
「おらよ!」
「ぐは……!?」
数十人は居た信者たちをなぎ倒し、残るはエレキムとそれを運ぶ四人の信者のみとなる。
「くっ、まだか……? 森だ、森へ逃げるのです!」
「は、はい!」
森の中へ逃げるよう指示したエレキム。しかしその瞬間、エレキム達は強烈な力で街道に引き戻された。
「ぐへ!? な、何事ですか!?」
「みんなが追っていたからあなたは悪い人なんでしょう! 観念して!」
「お、おお! でかしたクーデリカ!」
頬を膨らませて森の中から出てきたのは、かつてのクラスメイトであるクーデリカだった。腰に手を当てて逃げられないよう挟むようにリューゼやジャック達に話しかける。
「ってことでいいんだよね?」
「その通りだ。こいつらで最後なんだ、補助魔法だか知らねえがずいぶん手こずらせてくれたぜ」
「いいタイミングだったな、助かったぜ」
ジャックが鼻の下を指でこすりながらそう言うと、クーデリカは微笑みながら頷いた。
「何か騒がしかったから街道に目を向けてみたの。そしたらみんながこいつらを追いかけていたからどこかで挟み撃ちにしようと思って追いかけてたんだよね♪」
「ま、なんにせよお手柄だ。ついでに運ぶのも手伝ってくれよ」
「いいよ!」
と、クーデリカがエレキム達に近づこうとしたその時、ティグレが額にぶわっと汗を滲ませてからデダイトの大剣を奪い、クーデリカに迫った。
「先生!?」
「伏せろクーデリカ!」
「ふえ!?」
ティグレが大剣を横なぎに振ると、クーデリカがしゃがんだ。剣は空振りするかと思われたが――
「ひゃは! やるな、もうちょっとで心臓をグサッといけたのに!」
――幅の広い剣でティグレの攻撃を受け止める男が、いつの間にかそこに、居た。
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