第四百十二話 パズルのピース
「見ろリューゼ、門のところ!」
「あいつ……!! どけ!」
「グギャ!?」
ジャックが指差した先に、福音の降臨のローブを着た人間が多数、町の門に集合していた。その中にティリアが入った麻袋を持ったローブが尊大な態度で立っているのが見えた。
リューゼ達は迫りくるゴブリンと魔物を蹴散らしながら道を開けようとするが、数に押され、中々進むことができていない。
「か、囲まれちゃう……! それにしてもティリアちゃんをどうする気かしら?」
「変な宗教の考えることなんて……いや、ティリアちゃんはベルナ先生に似て可愛いし、まさかなんかよく分からない神の復活のため生贄にするとか! へぶ!?」
「怖いこと言うんじゃないわよ! それにしても減らないわね……!」
ルシエールの言葉にジャックが青い顔をして叫ぶと、焦った顔でルシエラが頭を小突く。
「この! リューゼ、こいつら凍らせる?」
「……そうだな……よし、ジャックがコラボレーションして一気にやれ!」
ナルの提案にリューゼが乗る。ナルとジャックが手を繋ごうとした瞬間、空中から火球が降って来た!
「「「ギャァァァッァ!?」」
二度、三度と火球が降り注ぎ、リューゼ達の近くに居たゴブリンが息絶え、道が開かれていく。ゴブリン達が空を見上げると、そこには――
<無事か! 目に見える輩を倒していたら時間がかかってしまった>
「サージュ、あれ! ティリアちゃん!」
<承知!>
「サージュか! ……ドラゴンを見てびびってんな! 今だ! 【ファイアーソード】」
「リューゼに続くぜ!」
「ええ!」
好機と見たリューゼが魔法剣のスキルで炎の壁を作りゴブリンを阻みながらサージュの作ってくれた道を突き進む。直後、背後からハウゼンの声が聞こえてきた。
「ここが一番魔物が多そうだな、みんな倒すぞ!」
「おお! ミズキさん、いきましょう!」
「まったく、いつもそれだけ威勢がいいなら助かるんだがな。たああああ!」
振り向かず、リューゼ達は後ろから襲われる心配が軽減したと安堵し、何故かゴブリンが群れていない門の入口へと到着する。サージュとアイナもリューゼ達の前に降り立つ。
「……ここまで来れる者が居るとは思いませんでしたよ」
「ざんね――」
「ティリアちゃんを返して!」
リューゼが答えようとした瞬間、アイナが指を突き付けて先に喋り、リューゼは肩を竦めてナルを見る。しかし、エレキムは気にした風もなくアイナに答えた。
「この子のお友達ですか? ドラゴンを連れているとは驚きですが、そうはいきません。この子はこの町を掌握するために必要ですからね。もちろんあなた方をここから逃がすわけにもいきません。王都に知られたら面倒ですしね」
「やっぱりこの町が狙いか……レッツェルと同じってわけだ」
「……ええ、レッツェルの失敗を私が埋め合わせているというわけですよ。そして、我々はそのカギを手に入れた」
「何で――」
「なんでティリアちゃんを攫ったの!」
「おっと、動くとお友達の可愛い顔に傷がつきますよ?」
「うう……」
<アイナ、迂闊に動くな>
ここはアイナに任せようとジャックが苦笑しながらリューゼの肩を叩くと、リューゼは頷きエレキムの言葉を待つ。するとエレキムはとんでもないことを口にする。
「この娘……領主の子の命は惜しいだろう? 領主には我々をこの町に受け入れてもらい、この町を福音の降臨のレフレクシオン支部として活動拠点とさせていただきます」
「な……!?」
「なんですって!?」
「え!?」
リューゼ達が驚愕の表情でエレキムの言葉に驚く。その様子を見たエレキムが満足げに笑っていると、アイナが一歩前に出て激昂する。
「アイナがどうなってもお父さんは悪いことに手を貸したりしないよ!」
「くく……そうかな? レッツェルの時は長男が死にかけた時、財産と領主の座を放棄したと聞いています。長男でそれなら、娘はもっと溺愛しているはず。言うことは聞くでしょう」
「アイナがお父さんに『そういうことしないでって言うもん!」
「はは、お嬢さんのお父さんに言ってもどうしようもありませんよ」
「え、えーっと……」
「あ、そういうことか……」
ルシエールとジャックが困惑した顔で呟くと、代弁するようにサージュが口を開く。
<賊よ、貴様何か勘違いしているな?>
「喋りますか……小さいとはいえさすがはドラゴン。勘違いとは?」
<お前が今手にしている娘は領主の娘ではないぞ>
「くく……そんなことを言って私を惑わせるつもりですか? 私はこの子が領主の家に居て、母親と一緒のところを見ています。この目でね」
自身ありげにエレキムが答え、その場にいた全員は困惑する。一体どういうことなのか、と。そこへ滑り込むようにデダイトが割り込んできた。
「みんな無事かい! ……ティリアちゃんはまだ向こうか……」
「すまねえデダイトさん」
「いや、この大量のゴブリンを見れば救出が難しいのは分かるよ。ギルドの冒険者もあちこちで展開したから多分町は大丈夫。後はこいつらを捕縛するだけだよ」
デダイトは大剣を抜いてアイナの横に立ち、続ける。
「お前は……ノーラの父親を連れに来た男だな? ティリアちゃんを僕の妹だと思っているようだけど、それは違う。ここに居るアイナが僕の妹で、その子は学院の先生の子だよ」
「領主の息子、ですか。オーガはどうしました? 殺しましたかね? 私を騙そうとしても――」
「お前が送った刺客だったのか……ノーラのお父さんは人間に戻ったよ。そしてお前が来た時、確かにアイナは居なかった。その時、確かにティリアちゃんが居たけど、その子は妹じゃない。お前は勘違いをしているんだ。家族ぐるみで付き合いがあるから母さんに懐いているからそう見えてもおかしくはないけどね」
「……!?」
領主の息子であるデダイトにふたつの事実についてはっきりと言われ、動揺を隠せないエレキム。それに対し、ルシエール達は『よく言ってくれた』と胸中で呟き、うんうんと頷いていた。
<と、いうことだ。貴様は最初から間違っていた。ティリアを返せば良し。そうでなければ死を覚悟するんだな>
「おじさん間違えたの? アイナの兄ちゃんはデダイト兄ちゃんが兄ちゃんだよ」
「兄ちゃんが多いよアイナ。さあ、今ティリアちゃんを返してくれれば牢獄生活で済むけど?」
「くっ……」
「え、エレキム様……」
福音の降臨のメンバーが作戦は失敗ではないかと視線を向ける。直後、エレキムはカッと目を開き懐から取り出したダガーをティリアの首筋へ当てる。
「仕方ありません、ここは撤退しましょう。そこを動くなよ? ちょっとでも動けば首筋に深い傷が入ることになるぞ」
「よせ! 今ならまだ間に合う、早くティリアちゃんを返せ!」
「何を世迷言を! 返したら捕縛するつもりでしょう?」
「いや――」
リューゼが声を上げようとした瞬間、門の陰から飛び出してきた人影がエレキムの腕をねじり上げた。
「はあ……はあ……てめぇ、ウチの娘に何の用だ? あれか、幼女趣味ってやつか? ああん?」
「ひ、ひい!?」
腕をねじり上げた人物、それはオヴィリヴィオン学院の熱い教師、ティグレだった。
そして元生徒たちの顔が絶望に染まる『あいつはもうダメだ』と――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます