第四百十話 父親
『グオオオオォ!!』
「デダイト君!」
「大丈夫、ノーラは下がって! <ウォータージェイル>!」
オーガへと変貌したノーラの父、クラウダーへデダイトがウォータージェイルで仕掛ける。両手から出た水の鎖は右腕と左足に絡みつき、前へ出ようとしたクラウダーを止める。
『ガァア!』
しかし、力任せにウォータージェイルを引っ張り、デダイトは空中へ投げ出された。それでも尚、デダイトは冷静に身体を捻り、眼下のクラウダーを睨みつける。
「流石にこれじゃ止まらないか! <ファイアーボール>! それと<ファイアランス>!」
『グルォォォ……!』
「くっ……やるな……」
ファイヤーボールの爆発で目隠しをし、ランスで足を地面に縫い付ける作戦だったが、クラウダーは構わず殴りつけてきた。その攻撃を両腕でガードして地面に着地すると、デダイトの左腕がだらりと下がった。
「力が入らない……!」
『バカメ! コノ攻撃ヲ素手デ受ケルトハナ! トドメダ!』
「止めて! <ファイアアロー>!」
『ム……!』
「この距離ならどうだ……! <ファイヤーボール>!」
咄嗟に放ったノーラのファイアアローが殴り掛かった腕に刺さり、クラウダーの気が逸れた。直後、動く右腕を使い、拳一つ分の距離でファイアーボールを炸裂させた。
『グォア!? 小僧ォ!!』
「当たるもんか!」
「デダイト君こっち!!」
オーガ化したとはいえ、至近距離のファイアーボールは流石にダメージがあったようで、たたらを踏んだ。それでも殴り掛かってくるが、その腕をすり抜けてノーラの下へと向かうデダイト。
「もう回復している……ルシエールちゃんが攫われたときに戦ったっていうオーガと同じか」
「大丈夫……?」
「ああ。とはいえ、意外と素早いのは驚いたけどね」
痺れはあるが、空中の相手を殴るのは技術が必要なので、悪くてヒビが入っているくらいだろうと冷や汗にじませながらデダイトは胸中で呟く。
「せめて剣があれば……!」
『フワッハッハ、サア、ノーラ! オレと一緒ニ福音の降臨ノモトへイクゾ。ベリアースで暮ラセルヨウニシテクレル』
「ノーラは僕の妻だ、そんなことはさせない」
「そうだよー! オラはお父さんとは一緒に行かないよ! ここで暮らすんだー!」
『オマエモアイツトイッショデ、オレヲ捨テルノカ……!! ナラバ、嫌デモ連レテイクマデダ』
激昂しながら、クラウダーはダン! と、足を前に出し一足で飛び掛かってくる。それに合わせて、デダイトも前に飛び出し珍しく怒りを露わにして殴り掛かった!
「そんなにそばに置いておきたかったなら、どうして子供の頃大事にしてやらなかった! ベルナ先生に会わなかったら山で死んでいたかもしれないんだぞ! 叩いて引き離されて……全部あなたの自業自得だろう!!」
『ウルサイ……! コノ町ガ……国ガ……オレヲ排除シタノガ……!!』
「まだいうか!! <ファイアランス>!」
デダイトがクラウダーの拳を避け、腹に魔法を繰り出す。目論見通り腹を貫通するが、その状態のままデダイトの頭を掴んで締め上げる。
『ウグ……!? ドケェェェ!!』
「ぐあああああ!?」
ミシミシと嫌な音が聞こえた瞬間、ノーラはすぐにデダイトの下へ駆け出し、そして――
『ガハァア!?』
――クラウダーの右頬に<ストレングス>で強化された拳が突き刺さり、大きく地面を転がった。そしてノーラは涙を流しながら叫び出す。
「父ちゃんのバカー!!! なんでもかんでも自分のことばっかり! だから母ちゃんに逃げられるんだよー!! オラは女の子! デダイト君の奥さんなんだよー! 父ちゃんは牢屋から出てきた後も迎えに来てくれなかった! オラを捨てたんだ!」
「ノーラ……」
『父ちゃん……? オマエノーラ……? ノーラは産まれてスグ死……イヤ、ノルトが……ア、アアアアアア!?』
「なんだ……?」
「父ちゃん……?」
急に頭を抱えて苦しみだしたクラウダーに、デダイトと、肩を支えるノーラが驚きながら呟く。直後、クラウダーの体が縮みだす。
『か、身体が……イタイ!?』
「も、戻っているのか……? そんな話ラースは……いや、それならそれでチャンスだ! ん? あれは……」
「デダイト君! お義父さんだよー!」
「デダイト、受け取れぇぇぇ!」
「父さん!? ……ありがとう!」
屋敷から騒ぎを聞きつけたローエンが飛び出し、デダイトへ大剣を放り投げた。全力で走り、空中で掴むと、鞘のままクラウダーへ振り下ろす。
「こ、小ゾウ……!』
「デダイトだ、覚えておけ! ……何でそんな風になったか話してもらうよ。だけど今は緊急事態だ、先に捕縛させてもらう」
体が戻り始めたクラウダーが両手を前に出して防ごうとする。しかし、地上に居るノーラが、
「<ウォータージェイル>だよー!」
「な、に……!?」
魔法の鎖で足を引っかけ、クラウダーはバランスを崩し、デダイトの大剣が顔面にヒットした。
「ぐが……!?」
どさりと仰向けに倒れ、手足をピクピクさせながら気絶した。
「ふう……何で戻ったか分からないけど助かったね」
「デダイト君!」
「デダイト、ノーラ、大丈夫か? すまない、気づくのが遅れた」
「ううん。ありがとう父さん。あ、それよりさっき、ティリアちゃんが福音の降臨に攫われたってリューゼ君とアイナが追った。こいつらは仲間みたいだ、僕たちも追うつもり」
デダイトが肩に大剣を担ぎながらそう言うと、ローエンが顎に手を当ててクラウダーや福音の降臨を見て口を開く。
「動き出したか……でもなんでティリアちゃんを? 考えるのは後か。こいつらは俺が何とかする、デダイトはリューゼ君と一緒にティリアちゃんを頼む。ティグレ先生より先に奪還しないと血の雨が降るぞ」
「そ、そうだね。それじゃ、ノーラは父さんと屋敷で待っていて」
「オラも……」
「僕も出たら戦える人が居なくなるからね。大丈夫、みんなもいるし僕は戻ってくる」
デダイトがそう言って笑うと、ノーラは少し俯いてからこくりと頷いた。
「分かった。オラ、待ってる! アイナちゃんとティリアちゃんをよろしくねー!」
「ああ!」
「おっと、母さんの傷薬だ」
「ありがとう!」
デダイトは踵を返し、町中へと走り出す。クラウダーの様子はただ事じゃなかった。もしかすると、操られていたのかもしれないとデダイトは考える。
「……オーガに仕立て上げた犯人もきっといるはずだ。福音の降臨とベリアース王国は陛下に報告の必要があるな……。え、ちょっと待って、あれは――」
そして町中へと出たデダイトが見た光景は――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます