第四百九話 広がる戦火


 「ナル、足を狙ってくれ。バランスは俺が崩す」

 「いつもと同じってことね、了解したわ」

 「くく……少しの足止めをするだけで我等の勝ち……遊ばせてもらうぞ! <ファイヤーボール>!」


 先制攻撃は福音の降臨。

 放たれたファイヤーボールはリューゼとナルへ飛んで行き、当たる直前、ふたりは左右に分かれて回避する。目標を失ったファイヤーボールは地面で炸裂した。


 「町中で魔法を使うんじゃねえ! そらぁ!」

 「ぐぬ……なんという剣圧!? 一斉に撃つぞ! <ファイア――>」

 「残念だけど、それは叶わないわね! 【氷結】」

 

 先頭に立つローブの男がファイアアローを放とうとするが、ナルはダガーを振りながらスキルを仕掛ける。するとあっという間に地面と足が凍り付き男はバランスを崩す。


 「こ、凍るだと!? ……ぐあ!?」

 「まずはひとり!」


 ナルが凍り付かせた男をリューゼが大剣の柄で顎を撃ち抜いて気絶させると、そのまま後ろに控えていたふたりへ一気に迫る。しかし、福音の降臨も引かず、両手をリューゼに向けて魔法を繰り出してきた。


 「やるな……! これならどうだ<ハイドロストリーム>!」

 「<アースブレイド>!」

 「発動までが遅いぜ、ラースなら唱えた瞬間飛んでくる! 【魔法剣・ウィンディ】!」


 姿勢を低くして大剣を地面に叩きつけるように縦に振ると、発動間際のアースブレイドが粉々になった。続いて魔法剣を発動させて横に振ると風が吹き荒れ、ハイドロストリームを軽々と押し返す。


 「馬鹿な!?」

 「おっと、こうも簡単に返せるとはな。ラースはやっぱおかしいな! おらぁぁぁ!」

 「ぶべ!?」

 「げぼぉ!?」


 福音の降臨が驚愕した瞬間、リューゼは大剣の腹でふたりの顔面を叩きつけ、力の限り振り抜いた。すると男達は宙を舞い、鈍い音を立てて地面に落ちた。


 「よし!」

 「相変わらず馬鹿力ね。あっちのやつはロープで捕縛しておいたわ」

 「おかげで魔物退治は楽できるからいいだろ?」

 「きゃあ!? ちょ、ちょっと降ろしなさいよ……」

 

 リューゼは笑いながら片腕で抱き上げたナルを降ろすと、気絶したふたりも捕縛し、後を追おうと前を見る。そこで、ふたりに声がかかった。


 「あ、リューゼだ!」

 <今の音はお前達か?>

 「ナルちゃんも居るよー」

 「リューゼ君、こいつらはまさか……」 

 

 声の主はアーヴィング家の面々だった。デダイトが険しい顔でリューゼに尋ねると、サージュに乗ったアイナを見ながらリューゼが答える。


 「『リューゼ兄ちゃん』だろ? ったく、ラースの真似ばっかりするんだから……ああ、いや、デダイトさん大変なんだ! 今、目の前でこいつらの仲間にティリアちゃんがさらわれた!」

 「ええ!? ティリアちゃんがー!? な、なんでー?」

 「何故かはわからないわ。こいつらを吐かせたらとは思うけど、追って取り返した方が早いわ」


 慌てるノーラにナルが冷静に答えると、デダイトが頷き口を開く。


 「それじゃ、僕とリューゼ君が行こうか。ノーラとナルちゃんはアイナを連れて捕縛したこいつらを父さんのところへ――」

 「いけー、サージュ! ティリアちゃんを助けないと!!」

 <うむ! デダイト、すまぬが我等は先に行くぞ!>

 「あ!? ま、待ってサージュ!」


 言うが早いか、サージュはアイナを乗せたまま飛び去って行く。直後、リューゼとナルはアイナを追って駆けだした。


 「デダイトさんはそいつらを頼みます! 領地が狙いならデダイトさんやノーラも危ないし、屋敷に居た方がいいかも! アイナちゃんは俺達が連れて帰ります!」

 「すまない!」


 ◆ ◇ ◆


 デダイトが声を上げると、微笑みながら親指を立ててさらに加速するリューゼ。残されたデダイトとノーラが捕縛した三人を引っ張りながら屋敷へと戻る。


 「福音の降臨が動いたんだな……父さんとギルドへ行かないと」

 「そうだねー! オラも何かしたいけど……」

 「ノーラは家で母さんと待っていてよ。何かあったら、僕は嫌だし」

 「うーん、オラだけ待つのは嫌だなー」


 ずるずると男達を引きながら口を尖らせるノーラに、デダイトは苦笑しながら言う。


 「僕の妻なんだから、あまり無茶はしないでほしいよ。ラース達みたいに冒険したいって気持ちはわかるけどね」

 「うんー! でも、魔物の園ができたらアッシュ君達とまた会えるし、我慢するよー」

 「だね。……ん? あれは――」


 屋敷に近づいてきたところで、入り口に誰かが立っているのをデダイトが発見する。見覚えがある顔だと、ノーラを庇うように立ち、デダイトは目を細めて口を開く。


 「あなたは……ノーラのお父さん……また来たのか」

 「な、なんで来るのー! お母さんから逃げられてもまともにならなかったし、もうお父さんでもなんでもないよ!」

 「く、くく……ノルト……ノーラ……生意気を言う……こっち、来い……ひ、ひひひひ……! ヒァハハハハハ!!」


 来るか、とデダイトはウォータージェイルで迎撃するため手を前に出す。しかし、目の前の光景にデダイトとノーラは大きく目を見開いた。


 『ノーラはオレノムスメだ! 返せぇぇぇぇ!』

 「これは……ラース達が昔言っていたオーガ化!? うわ!?」

 「デダイト君!?」

 『ノーラノルトノーラノルトォォォ……』

 「ノーラに近づくな……!!」


 殴られて口から血を流しながら、デダイトはオーガとなった父親に飛び掛かった!

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