第四百六話 アーヴィング家
「それじゃあ、あの変なローブの人達が敵、なんですねえ……」
「みたいよ。今は悪さしている感じじゃないけどラースが言うには他の領地で暗躍していたのがあいつらの仲間だったらしいわ」
「うーん、早くなんとかしないといけませんねえ。ティグレがハウゼンさんのところへ行くって言ってたけど。でも何もしていない相手を捕まえるわけにはいきませんし、何か策があるのかしらぁ」
「ローエンは監視強化に努めるようにって言ってたみたいだけどね。ウチにノーラのお父さんが来た時、連れて行ったのはローブの男だった……多分、福音の降臨よ」
アーヴィング家の庭でお茶をしながらマリアンヌとベルナがそんな話をしていた。お茶に口をつけて一口飲んだ後、ベルナがマリアンヌへ言う。
「ルツィアールにも連絡をしておいた方がいいかもしれませんねぇ。福音の降臨という組織は知っていましたけど、まさかそんな暗躍をしているとは思いませんでしたし」
「ああ、そうね。でも、他の国だとそういう話を聞かないのにどうしてレフレクシオン王国の領地ばかり狙われているのかしらね」
「そればかりは聞いてみないことには、ですねぇ」
ふたりが渋い顔をし、庭で遊んでいたアイナとティリア、そしてニーナの息子トリムへ目を向ける。子供達に何かあったら、という思いとは裏腹に、庭の花を使って髪飾りを作っているアイナがトリムへ言う。
「トリム君、それだとニーナおばちゃんの頭を抜けちゃうよ?」
「う、うるさいなあ! これは首飾りだからいいもん! 僕、こういうのよりアイナちゃんが言ってたラース兄ちゃんの魔物と遊びたいよー」
<我がいるではないか>
「サージュはもう慣れちゃったからなあ。かっこいいけどね」
<ふむ>
ひとつ年下のせいか、お姉さんぶるアイナに片手を上げて口を尖らせるトリム。
トリムはかっこいいドラゴンのサージュに凄く懐いているが、やはり子供なので新しい話を聞けば羨ましいと思うものかとサージュは短く納得する。するとその横で花飾りを完成させたティリアがトリムに援護を投げかけた。
「わたしできた! でも、トリム君の言う通り、アイナちゃんひとりで王都に行くなんてずるい! ラースお兄ちゃんに会いたかった!」
「うーん、夜中だったし、すぐに行かないとダメだったから教えられなかったの。ごめんね……」
「次は僕も行くから! 魔物がいっぱいいるおうちを作ってるんだよね?」
「うん! たぶん、この前みたいに依頼で急いでないと思うし、アイナ頼んでみるね! あー、アッシュに会いたいなあ。サージュに連れて行ってもらう?」
<飛んでもいいが、母君が許さんだろう>
「この前言っていたクマちゃん? いいなあー。あ、ママ、これどうぞ!」
ベルナの下へ歩きながら返事をしていたティリアが母親に花の髪飾りを渡す。
「ありがとう、ティリアちゃん♪ それじゃ、遅くなってきたしそろそろ帰りましょうか。トリム君もねぇ」
「えー、もう? ベルナおばちゃんもう少しだけ」
アイナをチラリと見ながらトリムが言うと、ベルナは椅子から立ち上がりトリムの頭を撫でながら微笑み、トリムへ言う。
「うーん、そろそろニーナもお仕事が終わるし暗くなると怖い人が出るかもしれないからねぇ。お母さんを迎えに行って帰ろう?」
「う……うん……」
「怖い人は怖いもんね」
「こ、怖くなんかないよ!」
アイナが当たり前のことを口にしながらトリムを立ち上がらせると、しぶしぶといった感じでベルナに連れられてアーヴィング家を後にした。
最後まで『ベルナ先生は強いからもうちょっと遊んでも大丈夫』と言っていたが、ティリアに『また泊まりにこようよ』と窘められ、手を繋いで帰っていく。
姿が見えなくなった後、アイナとサージュを連れて屋敷に入ろうとしたマリアンヌが、ふと抱っこしたアイナに尋ねる。
「アイナ、トリム君のことどう思う? 好き?」
「え? どうって? 好きだよ! ティリアちゃんも!」
「そっかあ」
五歳なのでそういう感情は難しいかと思いつつ、ラースそっくりだと苦笑する。そんな中、その原因となったノーラが玄関に現れた。
「あ、お義母さんー。ベルナ先生帰ったのー?」
「ええ。ごめんね、ずっと話してて、ご飯の用意をしてくれてたんでしょ?」
「うんー! ベルナ先生はまた話せるしいいよー。サージュ、おいでー」
<すまんな。アイナではないが、王都は楽しかった。また行きたいものだ>
「あんまり心配させないでよー」
ノーラと共にリビングへ向かいながら話をしていると、丁度その時、階段からローエンとデダイトが降りてくる。
「あ、母さん。ベルナ先生達は?」
「帰ったわよ。一応、福音の降臨についてはラースのいっていたことを一通り話しておいたわ」
「助かるよマリア。ハウゼンには依頼をかけているし、ティグレ先生にも伝えてもらうよう言ってある。冒険者たちに負担がかかるのは心が痛むが、町人全員に報せてあいつらが強行手段に出ないとも限らないしな」
「とりあえず僕のクラスメイト達には協力してもらうつもりだよ。それとなく監視と、アジトを見つけてもらう予定さ」
デダイトがソファに腰かけながらそう言うと、ローエンが目を丸くして口を開く。
「お前……いつの間にそんなことを? まあ大丈夫だと思うが、ラースの話からすると危険はかなり高い。気をつけろよ?」
「分かっている。でも僕としては福音の降臨よりもノーラのお父さんの方が気になるんだよね、家に来たことがあった時、様子がおかしかったって言ってたよね? で、ローブの男に連れられて去った」
「そうね、あの時はちょっとゾッとしたわ」
マリアンヌがアイナの髪を撫でながらそう言うと、デダイトは続ける。
「でも、この町に居るはずなのにその後は目撃者がいないんだ。もしノーラの父親と、この領地を狙う福音の降臨が協力関係なら町のことを知られている可能性があると思う。だから、彼も見つけないといけない」
「……おかしな人間を連れて行ったというだけにも見えるが、確かに福音の降臨が出てくるのは不自然か? その後行方が分からないのも、な」
「うん。だから、僕はそっち方面も当たってみるよ。ノーラは僕の奥さんだ、守らないといけないからね。父さんは福音の降臨に注力してもらえると」
「お、おう、分かった」
「デダイト兄ちゃん、ノーラちゃんのことになると怖いよね」
緊張が走るリビングに、テーブルのおやつに手を伸ばしながらアイナが言う。一瞬、静かになるが、それにサージュが賛同する。
<はっはっは、確かにそうだな! 我と戦った時、ラースと共にティグレの槍を体を張って止めたからな。ノーラが悲しまないように、と>
「む、昔の話じゃないか、恥ずかしい」
「そうなんだ! デダイト兄ちゃんも戦ったりするんだ?」
「やめてくれアイナ……」
ラースと違い、大人しいデダイトの話を聞いてアイナは目を輝かせてデダイトに話しかける。
「ま、まあ、その話は後でね? 明日から調査に入るから、ノーラは家からでちゃダメだよ」
「うん、もうオラお父さんに会いたくないし、わかったよー!」
「ま、俺とマリアが居るからな。それじゃそろそろ夕食にしないか? 俺、もうお腹空いたよ」
ローエンが頭を掻きながらそう言うと、リビングに笑いがおこりそれぞれ食堂へ向かう。
そして――
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