第三百九十二話 戦争の後始末を


 アイーアツブスとゲイリー、そしてダルヴァの犯人達を拘束したことにより、ようやく場は落ち着き、兵士達や使用人が片付けに入る。

 俺は魔力回復薬を飲んで怪我人をヒーリングで一気に治すと、その速度はさらに上がった。

 

 だけど――


 「……三百七十人以上が死亡、か……」

 「ラース……」

 「言うな。攻城戦がこの程度で済んだのは運が良かったほうじゃ。アイーアツブスが来る前から戦闘は始まっておったのだからな」


 城の扉はすでに開かれており、運ばれていく遺体を見ながら悔しがる俺に、マキナが肩を支えてくれ、ファスさんが仕方がないことだと首を振る。仕掛けたダルヴァ側の戦死者が多いのはそれとして、やはり人が死ぬのは堪える。


 「前回はもっと犠牲が多かったんだ、ダルヴァの兵は四百程度。それで門をぶち破ったんだから、あいつの頭脳は流石って感じだな。ま、今度はとっ掴まえたからようやく安心できるぜ」

 「ディビットさん」

 

 アイーアツブスの様子を見てくれていたディビットさんもこちらにきて、中途半端なタバコを吸いながら言う。そこへ魔物達が俺の前にずらりと並んだ。


 「わん!」

 「ぐるる」

 「くおーん♪」

 「よしよし、お前達も無事だな。アッシュは馬達を守ろうとしていたんだな? 偉いぞ」

 「くおんくおーん♪」

 「あはは、よせよ」


 アッシュを抱っこしてやると顔を舐めてきたのでくすぐったい。みんなの頭を撫でてやりながら俺は話しを続ける。

 

 「さて、とりあえず片付いたけどこのふたりをどうするかだな。ゲイリーには器用貧乏の人のことで聞きたいことがあるし、『賢者の魂』も気になる。でもアイーアツブスはどうしようか?」

 「まあ、順当にいけば始末するのが一番でしょうね。人間かどうかも怪しいですし」

 「あっさり言わないでください、バスレー先生。でも、野放しにもできないし、牢屋に入れとくとか?」


 マキナがそう言うと、レッツェルが口を開く。

 

 「アイーアツブスは殺して死ぬとは思えませんし、とりあえず放置ですかね。僕も聞きたいことがありますしね」

 「……それはお前にも、だ」

 「ま、それは食事の時にでも。ああ、もちろん毒は入れませんよ?」

 「当然だし、そもそもお前と食事をする気は無いけどな」


 俺が悪態をついて返すとレッツエルは肩を竦め、すぐに思い出したようにポケットから手を出して言う。


 「そういえばアフマンド王達は騒ぎが終わったことを知らないですね。どうやらラース君が連れてきたあの男は、お友達のお父さんだったようですし」

 「友達……?」

 「もしかしてヘレナじゃ!?」

 「ところがどっこい! ボクだよ!」

 「「うわあああ!?」」


 俺とマキナが訝しんでいるところに割って入って来たのは――

 

 「お前リースか!? 何でこんなところにいるんだ!?」

 「そりゃあ愛するラース君を追いかけてきたんじゃないか」

 「なんだ、この小さいのもラースの知り合いか? さっきは助かったぜ、ありがとよ」

 「乗りかかった船だからね……あが!?」

 「にしてもここに居るのはおかしいと思うんだけど……?」

 「あ、マキナ、笑いながらボクの後頭部を掴むのは止めてくれないか? ぐしゃっといってしまいそうだ。まあ、それはともかく、マキナの言う通り、ヘレナがこの城に居るよ」


 ぷらーんとマキナに掴みあげられたリースが冷や汗をかきながら眼鏡を指で上げてそんなことを言う。となると――


 「オルノブさんってヘレナのお父さん!?」

 「ということになるのう。世間は狭いというところか」

 「それでアフマンド様が慌てていたのかしら? 追いかけましょう!」

 「だな。でも、こいつらをこのままにしていくわけには……」


 枝で身動きの取れないアイーアツブスと、手足を鎖で拘束されているゲイリーを見ながら俺が呟くと、リースが言う。

 

 「こいつらはボクとイルミ、それとレッツェルで見ておくから会ってくるといい。ボクはもう会ったしね」

 「……」


 リースはこいつらを知っているのか? そこも引っかかり目を細めて三人を見ていると、バスレー先生が手を上げて口を開いた。


 「ではわたしが残りますよ。ラディナさんやシュナイダーが残っていれば大丈夫でしょう」

 「ワシも残るぞ?」

 「……そうですね、ファスさんも残ってもらえるとありがたいかもしれません。ではラース君、マキナちゃんアフマンド王の方は任せましたよ」

 「分かった」

 「気を付けてくださいね!」


 俺は後ろ髪を引かれる思いで、この場を後にして階段を駆け上がる。オルノブさん、記憶が無いけど大丈夫かな?


 ◆ ◇ ◆


 「行きましたね」

 「じゃな。さて、バスレー、何をするつもりじゃ?」

 「まあ、難しいことじゃありませんよ。この可愛い顔のアイーアツブスに話があるだけですから」


 バスレーは片膝をついてアイーアツブスに目を向ける。いつものようにくりっとした目ではなく、鋭く目を細め、憎悪を込めた目を。


 「……福音の降臨、その幹部クラスってところですかね? ラース君達の手前、言い出せませんでしたがこの場であなたを殺すのはわたしの役目です」

 「くっく……美人の人、あなたにそれが……あがぁ!?」

 

 不敵に笑うアイーアツブスの胸に、無言で金色のハンマーを思い切り叩きつけると、冷ややかな声で胸倉を掴んで口を開く。


 「美人、ですか。あなたも可愛いですが、どうしてわたしが可愛いといっていたか分かっていないようですから教えてあげませんとねえ?」

 「な、なに――ごほっ!?」

 「喋るんじゃありませんよ、まだわたしが喋っている途中でしょう? あなたの仲間に‟アクゼリュス”という男が居ませんか? そいつはまだベリアース……いや、福音の降臨ですかね……?」

 

 バスレーがそう言うと、レッツェルが笑いながらバスレーへと返す。


 「くっく……大臣はなかなかの経歴をお持ちでしたか。旧ベリアース王国の人間とは」

 「……あなたも、福音の降臨なら処罰対象ですがね? ラース君達にしたことも許せませんし」


 そこでアイーアツブスが虚ろな目をバスレーに向けながら口を開く。


 「くく……じゅ、十神者のひとりに……そいつはいる、わ……私が死んだら教主様に伝わる……美人の人に何をやったか知りませんが、彼に仇を取ってもらい……ぶふ!?」

 「……やはり重要なポジションに居ましたね」

 「そやつは何者じゃ?」


 アイーアツブスがにやりと笑ったところで、額にハンマーをぶつけて昏倒させると、ファスが尋ねる。


 「アクゼリュスは……わたしの家族を惨殺した男でしてね。わたしの目の前で、楽しそうに」

 

 同じく、楽しそうにゲイリーを切り刻んでいたレッツェルを睨みつけながらバスレーが言うと、レッツェルは口元を歪めながら呟く。


 「アレが仇とはまた因果なものですねえ。今のあなたちで手に負える相手ではありませんが……すぐに会うことになると思いますよ」

 「……? どういうことです?」

 「それは――」

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