第三百九十話 三度目の正直
「よし、そっちは任せたよマキナ、ファスさん、先生」
マキナ達を襲おうとしていたクリフォトをファイアーボールで灰にした後、みんなが城の中へと入っていくのを確認し俺は呟く。
黒いもやに操られた兵を殺すわけにはいかないので爆発の余波で吹き飛ばす程度にとどめている。
「ラース!」
「おっと! ありがとうディビットさん」
「逃げ足は速いですが、そんな調子で私を倒せますかねえ?」
くっくと含み笑いをしながらアイーアツブスが指先をこちらに向け、黒いもやを飛ばしてくる。それを避けながらディビットさんと共に魔法で反撃をするが、
「やっぱ消されるか……!?」
「あはははは! 実力が分かっている相手に対処するのは当然でしょう? そら!」
「そりゃこっちのセリフでもあるんだがな! 〈ファイアアロー〉!」
黒いもやを連発してくるアイーアツブスに、ディビットさんが挑発しながらファイアアローで打ち消していくが、この攻防はずっと続いているため舌打ちしながらタバコの煙を吐く。
すると、アイーアツブスが手を止めて
「私の力の源は人間の『不安定な心』でしてね、眼下に居るあれだけの数の不安定を吸収したので絶好調というやつですね。しかし、このまま膠着状態を続けるのも得策じゃありませんねえ。どうです? このまま私を見逃してはもらえないでしょうか? お互い無駄な浪費をするのは面白くないと思うんですが……ね!」
「当たるものか。そんなことをしたら今度は仲間を連れて帰ってくるだろう? 自分を十神者と名乗ったんだ、最低でも残り九人はいるはず。そしてお前クラスの実力者を一度に相手にするのは面倒だ、だからここで倒す。それにお前から出ていた黒いもや……お前は人間じゃないんじゃないか?」
不意打ちのつもりで放ったであろうもやを回避しながら俺が言うと、アイーアツブスは黙ったまま口元に笑みを浮かべて右手からさらに多くのもやを放出する。
「まだ出せるのか……!?」
「それはそうですよ、こうやってあなた達が私に感じる不安定な気持ちもいただいていますからね?」
「……どういう仕組みなのか気になるところだね」
「!」
剣を抜きながらアイーアツブスに尋ねる。俺の見立てでは見逃せという発言と、不意打ちと口数が多くなってきたので向こうも焦っているはず。
「スキルのおかげですよ。世界に安定したものなどありません。常に不安定……人の心も、今日食料にされるかもしれない動物や魔物、恋人に裏切られつかもしれないという疑念に、明日を生きられるかどうかも分からない人間など様々です。私はそんな存在に救済をしているだけなんですがねえ? 不安を取り除いてあげているんですよ?」
「ふん、大きなお世話ってやつじゃねぇか。その結果が下の兵士みたいに木偶人形みたいになるんじゃねぇのか?」
「それだけじゃない、下手をしたら死ぬみたいなことを言っていたよ」
「あはは! 不安を取り除く究極の一手じゃありませんか!」
「福音の降臨っつったか……迷惑な存在だな! <ハイドロストリーム>!」
高笑いをしながら自身の強さを喋るアイーアツブスに、苛立ったディビットさんが仕掛ける。それを涼しい顔で霧散しようと右手を上げた直後、俺もアイーアツブスに迫りながら魔法を使う!
「お前みたいなやつをのさばらせておくわけにはいかない! <ドラゴニックブレイズ>!」
青白い竜の形をした炎がアイーアツブスに襲い掛かる。ディビットさんの魔法が迫る中に放った同時攻撃ならどうだ?
「そんなものはいくらでも――」
「おっと、動くなよ? <ウォータージェイル>」
「チッ……!?」
ハイドロストリームを吸収し、すぐにドラゴニックブレイズに対応しようとするアイーアツブスに、ディビットさんのウォータージェイルが左手に巻き付き、引っ張り上げる。
その瞬間、バランスを崩した彼女を最高峰の古代魔法が飲み込んだ。
「ああああああ!?」
「やったか!」
ディビットさんが拳を握り、叫ぶ。
だけど、俺は剣を構えて突撃を開始していた。直撃をしたかと思ったが、黒いもやがバリアのように体を包み込むのが見えたからだ。
「ぐ……消しきれませんでしたか! しかし!」
アイーアツブスは左半分を焦がしながら、キッと俺に目を向け睨みつけてくる。恐らく、ドラゴニックブレイズの威力が予想を上回っていたからだろう。
「ダメージが通ったのは僥倖だ! このまま押し切る!」
「舐めるなよ小僧が!」
「援護するぜ、当たるなよラース!」
激昂したアイーアツブスも黒いもやを飛ばしながら俺に向かって突っ込んできた。もやはディビットさんが撃ち落とし、俺は剣で右手を狙う!
「もらった!」
「くくっ! 前回は油断しましたが、二度も切れるとは思わないことですね!」
ガギィ、と、もやをまとった右手がサージュブレイドを受け止めにやりと笑う。
「くっ……なんて力だ……」
「このまま取り込んであげましょう。撤退の予定でしたが、アポス様にいい土産が――」
そう言いかけた時、今度は俺の口角が上がる。
「そうだね、これでお前とは三度目の戦いだ。こっちも無策って訳じゃない! セフィロ!」
「!!」
「トレント!?」
アイーアツブスが目を丸くして驚愕の声を上げる。俺の背中に張り付いていたセフィロがアイーアツブスの頭に乗り移ったからだ。そして――
「うが!? え、枝が増えて!?」
「!!!」
アイーアツブスが剣から手を離してセフィロを掴もうとするが枝がそれを邪魔し、全身を取り込んでいく。もやはセフィロには通用しないのか枝はどんどん伸びていく。
「剣から手を離したな……! 食らえぇぇぇ!」
「ぐああああああああ!?」
俺は右手を刺し貫き、勢いをつけて地面に叩きつけるため急降下を始めた!!
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