第三百八十三話 奮迅のディビット


 ラース達がアイーアツブスと遭遇したころ、ディビットも転移を完了させて城の中庭に姿を現していた。 戦闘の真っただ中に出る愚策はせず、タバコに火を付けながら騒ぎの大きい城門へと向かうと、火矢が庭を燃やし、煙を出していた。城壁から弓兵が矢を射かけているが、敵も引かず、城門へくい打ちと魔法を撃ち込んでいた。


 「アフマンド!」

 「な!? デ、ディビット殿!? どうしてここへ!」

 「相手はダルヴァか?」

 「まだ確認はできておりませんが、恐らくは」


 槍を持って武装したアボルがディビットへ告げると、伝令が走ってきてアフマンドの前に膝をつく。


 「ほ、報告します! 敵後方400の位置にダルヴァらしき男が居ると弓兵から通達がありました! 闇夜なので確かとは言えませんが、目は確かな者からなので間違いないかと」

 「……だそうだよ」

 「まあ、美味い汁を吸ってた連中が簡単に諦めるってことはねぇか。俺をつけ狙っていたくらいだしな」

 「加勢していただけますか?」

 「ふん、とっとと奴隷解放をしてくれるならな」

 「……ちょっと秘宝が見つからなくてね」


 アフマンドが苦い顔で笑うと、ディビットは肩をすくめて空中へ飛び上がる。


 「まあ、いい。どちらにしても前王一派が政権を握ったら繰り返しだ。ここで完膚なきまでに叩き潰すぞ」

 

 ディビットがそういうと、アフマンドは頷いてから兵士たちへ鼓舞をかける。


 「大魔法使いのディビット殿が合流してくれた! 我らに負けの二文字は無い!」

 「「「「おおおおおおお!」」」


 前の戦いでディビットの力を知っている兵士たちは鬨の声を上げ、城が震える。ディビットは眼下のそれを見て眉を潜めながら口を開く。


 「へっ、こんなおいぼれでも士気を上げるに役に立ちゃ御の字だな。……さて、大規模転移とここまでの転移で魔力はあまり多くねえ。一気にダルヴァを倒すべきだが――」


 ディビットは城門の上に立つと、魔力を集中する。無理をしているせいか、額に汗を滲ませながら手を前に突き出して魔法を放った!


 「<タイダルウェイブ>!」


 「う、うわ!?」

 「退避ぃぃぃ!」


 城門を攻めていた敵兵が大量の水に押し流され散り散りになり、ディビットはタバコを捨てながら得意気に言う。


 「ドラゴニックブレイズほどじゃねえが十分だろ」

 「さ、流石は奮迅のディビット殿……」

 「おら、弓兵はさっさと無力化しろよ! ……さて、様子見してくれりゃ回復できるんだが」


 魔力回復薬を口に含みながら注意深く様子を伺っていると、数人の兵士が悲鳴を上げて倒れ、敵集団から声が上がる。


 「手を休めるな! 城門はあと少しで開く! 魔法使いは一旦城門の攻撃を停止。弓兵とディビットを狙え!」

 「ふん、ダルヴァ、そんなに前に出てきて大丈夫かあ?」

 「まさか貴様がここに居るとはな……! アイーアツブスはどうした?」


 鎧兜に身を包み、馬に乗ったダルヴァがディビットへ苛立たしげな声を上げていた。その言葉に肩をすくめながら冗談じみた口調で返す。


 「今頃どこかでウチの弟子と遊んでるんじゃねぇか? 顔は可愛かったが俺好みじゃねぇ」

 「何を……!」

 「確かに俺一人じゃ手に余る相手だったが残念だったな。こっちも強力な助っ人がいたんだよ……! <ファイヤーボール>!」

 「ひっ!?」


 しゃべりながら人の頭ほどの大きさをしたファイヤーボールを投げつけるディビット。飛んでくる矢を燃やし尽くしながら飛んでいき、このままこいつを倒せればと考えていたが――


 「<ファイヤーボール>!」

 「お、おお……助かったぞ!」

 「お下がりください、ダルヴァ様。ここは私がお相手をしましょう」

 「ま、任せる!」

 「待ちやがれ! ……うおっと」


 レビテーションで追いかけようとしたが、ダルヴァを庇うようにして出てきた目の細い男から飛んでくる魔法に阻まれ後退する。壁に隠れてタバコに火をつけながら呟く。


 「……あいつは前の戦いには居なかったな。魔法使いみたいだが、城門を吹き飛ばさないし、飛んでこないところを見ると古代魔法までは使えない、か。……まあ、ラースみたいなやつが何人も居てたまるかって話だな!」

 「出てきたぞ! 放てぇぇぇ!」

 「落とせよ<ファイアアロー>! んで<エクスプロージョン>!」

 「ぐああああああ!?」


 矢と魔法をファイアアローで撃ち落としながら地面に向かって爆発の魔法を炸裂させ、敵兵が吹き飛んでいく。


 「はあ……よし、これで……ぐっ!?」

 「まだだ! 怯むなよ、ゲイリー王を救い出すまで戦えええ!」

 「くそ……なり振り構わず、犠牲は問わずってか……」

 「ディビット殿!」

 「悪い、傷薬だけ頼む。毒矢じゃねぇのが幸いだ……!」


 左肩に刺さった矢を抜いて傷薬で治療をし、一息吐く。ここまで大技を放って戦意を喪失しないのは敵とはいえやるなと考える。


 「前の戦いでも犠牲は多かったんだ……それを無駄にするわけにゃいかねえ」

 

 ディビットは城壁を降りると、アフマンドの下へ戻る。


 「向こうはどうだ?」

 「いくらかふっとばしたがまだアリの群れみたいにうじゃうじゃいる。城門は持たんか?」

 「見ての通りだ。あの時と全く逆とは皮肉なものだ」


 アフマンドが冷や汗をかきながら笑うと、ディビッドはタバコを指に挟んでから口を開く。


 「こっち側は負けられねえからびびるなよ? で、俺はそろそろ魔力がやばい。大技はあと一回撃てるかどうかだな。どう使う?」

 「……城門が破られたら一度、頼む。そこからは我らが迎え撃つ!」

 「オッケーだ!」


 そこから数分後、轟音と共についに城門が破られた! ディビットはすぐに構え、魔法を放つ!


 「<タイダルウェイブ>!」

 「わああああああ!?」

 「ぐはぁ!?」


 躍り出た敵兵を飲み込み、一直線に大津波が流れていく。


 「やった……!」

 「いや、油断するな……!」


 しかし、流れていった敵の数が少ないと瞬時に判断し、アフマンドへ号令を頼む。すると、直後に細い目の魔法使いが城門から入ってきた。


 「先ほどの攻防でそんな気はしたが、どうやら魔力が尽きかけているようだな? 警戒していて良かったよ。この国の政権などに興味は無かったが、僥倖だ。奮迅のディビット、お前を倒して名を上げさせてもらう」

 「誰だか知らんが、高くつくぞ?」


 タバコを捨てながら、そう言い、防衛線の二幕目が上がろうとしていた。

 

 そして、サンディオラ城の上空には――

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