第三百八十四話 補給と言う名の無差別な破壊


 「うおおおお!」

 「だぁりゃぁ!」


 城門が破られ、接近戦が始まると怒声と金属音が場を支配する。もちろん有利なのはアフマンド陣営だが、敵兵には前回いなかった魔法使いの存在が戦いを均衡へと導いていく。

 


 「<ファイアアロー>!」

 「ぎゃあああ!?」

 「く、くそ、遠い……弓兵!」

 「任せろ……!」

 「ぐっ……」


 どちらも数を少しずつ減らしていく様子を横目に、ディビットは目の前の男にロッドを向けて魔法を放つ。


 「<ファイアアロー>! 名声目当てか、人を踏み台にしないと上がれないようなヤツはこの先何をやっても駄目だぜ!」

 「なんとでも言うがいい。ディビットを倒した、という実績があればそれだけで十分。このリカムが首をもらいうけるぞ! <ウインドストーム>」

 「うおお……!」


 ディビットの放ったファイアアローを吹き飛ばしながら、リカムのウインドストームがディビットを襲う。ディビットは両腕をクロスしてガードするも、荒れ狂う風に飲み込まれて地面を転がっていく。


 「はははは! 奮迅などという大層な二つ名が泣くぞ? お前は別で足止めをされていると聞いたときはつまらない仕事だと思っていたが、運は私にあるようだな」


 ゆっくりと近づきながら話してくるリカムを視界に捉えながら、ディビットは血を吐きながら呻くように呟く。


 「ぐ、は……!? さ、流石にこれ以上は無理か……今の魔力じゃあいつを退けるのは不可能だ。上級魔法に対抗する魔力がない……せめて誰かひとりこっちに連れてきていれば……!」

 

 近づいてくるリカムに、渾身の力でロッドを振る。しかし、足元がおぼつかない体の状態なのであっさりと避けられ腹を蹴りあげられた。


 「ぐっ……!?」

 「そんなものが当たるとでも思っているのか? 本当に魔力が無いようだな……とどめを刺して仕事を終わらせてもらう」

 「ふん……ここまで、か……まあいい、俺の魔法知識は全部ラースに教えたしな……思い残すことはねえ。さ、最後にタバコを吸わせてくれよ」

 「……まあ、いいだろう」

 

 警戒しながらそういうと、笑いながらタバコに火をつける。


 「ふう……こいつがねえとあの世で口が寂しいだろうから……な! <ファイヤーボール>!」


 そして不意に、タバコを投げつけて口を開くと、タバコがリカムの眼前で爆発した!


 「ぐあああああ!?」

 「こういう使い方もできるんだぜ、べ、勉強になった……ぐあ!?」

 「おのれ……!? 今首を刎ねてやる……!」


 顔にやけどを負ったリカムが怒りの形相でディビットの腹に剣を突き刺し激昂する。

 

 一方、別の場所に居たアフマンドがその様子を見て声を荒げていた。  


 「城には行かせるなよ! 囲むように動くのだ! む!」

 「アフマンド様、敵も存外やります。あなたは城へ後退すべきかと!」

 「馬鹿を言え、ディビット殿が危ないのだ、助けにゆくぞ!」

 「あなたは王です、もしやられてしまえば士気に関わります。ダルヴァのように後方より援護を!」


 飛んでくる矢を盾で受けながらアフマンドへ進言する。元々戦うよりは知恵を回すタイプなので、ここに居させるよりはとアボルは考えていた。


 「……ぐぬ……し、しかしこのままでは――」


 アフマンドが歯噛みをしていると、月の明かりがスッと消えた――


 ◆ ◇ ◆


 「……いけませんね」

 「どうしました、先生? 旗色が悪い感じですか?」


 窓の外に目を向けたレッツェルが低く呟き、イルミがダガーを磨きながら尋ねると、レッツェルが椅子から立ち上がり出口へと向かいながら振り向かずに言う。


 「旗色どころか、ここにいる全員、敵味方ひっくるめて全滅になるかもしれませんねえ。ここでアフマンド王に死なれても困りますし、ヘレナという子に何かあったらラース君にまた恨まれるじゃないですか? 少し加勢をしようと思います」

 「オッケーだ。ボクも行っていいのかい?」

 「リースは医療援護を頼みますよ、イルミは僕と一緒に行動を頼みます」

 「がってん! って、何をするんです?」

 「行けば分かりますよ。くれぐれも身バレしないように、ね?」


 レッツェルがにやりと笑い、三人は部屋を出ると、廊下をウロウロしていたヘレナを見つけ、リースが声をかける。


 「おや、どうしたんだいヘレナ?」

 「外が騒がしいから不安なのよう……大丈夫だと思うけど……」

 「まあ何が起こるか分からないから、部屋に居るといいよ」

 「リースはどこへ行くのかしらあ?」

 「ちょっと散歩に、ね? それじゃ、また後で」

 「……」


 不安気なヘレナにニッと笑って、リースは白衣に手を突っ込んで踵を返す。レッツェル達も不敵に笑いながら城の外へと向かう。

 外に出て、柱の陰に隠れて周囲の様子をうかがう。そこで三人は、外が異様に暗いことに気づき空を見上げると、イルミが眉を潜めて口を開いた。


 「あれは……アイーアツブスですか……!?」

 「そうみたいですね」

 「な、なんだ……あの黒いもやは?」


 リースの背筋が冷え、ごくりと息を飲む。レッツェルはそんなリースの背中を叩いて指をさす。


 「リースはあっちをよろしく頼みますよ」

 「あ、ああ……」


 奇しくも瀕死のディビットを指しており、リースは駆け出し、レッツェルが笑顔をぴたりと止めて真顔になり空を見上げる。


 すると直後、上空に居たアイーアツブスの声がこの場にいる全員の頭に響き渡り、その場にいた全員が動きをアイーアツブスに目を向けた。


 「くっくっく……いち、にい、さん……これだけ居ればこの傷も癒えるでしょう! 【不安定】をあなたたちに――」

 「な、なんだ……!?」

 「あ、ぎゃぁぁぁぁ!?」


 傷口から吐き出されていた黒いもやが、まるで意思を持つかのように戦っている両陣営に襲い掛かる! まとわり『憑』かれた兵士は苦悶の表情と悲鳴を上げ、その場に倒れる。


 「先生!」

 「問題ありません。気をしっかり持っていれば……」


 レッツェルは自分に向かってきたもやをメスで切り裂き、霧散させ、リースに迫っていたもやもメスを投げて散らせた。


 「ん? 今ノイズが……? まあいいでしょう。さて、いただきます……【キス・キル・リラ】」


 アイーアツブスが文言を呟いた瞬間、黒いもやに取り込まれた兵士たちがむくりと起き上がり、攻撃を開始する、


 「お、おい、どうしたんだ……? ぎゃっ!?」

 「……」

 「や、やめろ!? 俺は味方……ぐあああああ!?」

 

 それも無差別に。

 敵も味方も無く、もやに憑かれた兵士は皆、もやに取り込まれなかった者達を蹂躙しはじめた――

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