第三百八十一話 アイーアツブス再び


 「暗くて見えにくいけど、あれじゃないかしら!」

 「そのようじゃな。仲間が行動を起こしたのと、闇夜を隠れ蓑にしてクリフォトを操っておるな。ラースよ、行くか?」

 「ああ。悪いけど、みんなは陽動を頼む」

 「任せてよ! セフィロ、今度は倒すわよ」

 「!!」

 「くおーん!」


 マキナの鼓舞にセフィロとアッシュが両手を上げて呼応する。それぞれの頭に手を置いてから俺はレビテーションで浮かび上がる。


 「気を付けてくださいよ、相手は福音の降臨。作戦がバレたらダーシャちゃんの命は危ないですからね」

 「ああ! オルノブさんは無理しないでくれよ!」

 「分かっている!」


 ラディナの背からバスレー先生が声をかけてくれ、一瞬だけ手を上げて応えるとそのままインビジブルも併用して姿を消す。

 さて、策は練って来たけど、勝負は一瞬、一度だけ……目を細めながら走るクリフォトを捉えた。



 ◆ ◇ ◆



 「さて、それじゃ足止めと行きましょうか、師匠」

 「そうじゃな。バスレーよ、馬車を迂回させられるか?」

 「任せてくださいな! ラディナさんはここでパージします。シュナイダーと自由行動で!」

 「おふ!」

 「ぐるう!」

 

 馬達と一緒に荷台を引いていたラディナが放たれ、シュナイダーとさらに速度を上げて馬車と逆側へ回り込むように並走した。


 「わ、速いわね」

 「普通の熊でも人間じゃ逃げきれないほど速いですからねえ。ラディナさんはいい餌を食べて運動もしているからあれくらいは出ますよ」

 「アッシュのお母さんは凄いわね」

 「くおーん♪」


 まだまだ可愛いアッシュは嬉しそうにマキナの足下で鳴くと、馬達も負けじと加速を始め、荒れた地面のせいで荷台がガタガタと激しく揺れる。

 そしてその音で気づいた取り巻きのクリフォトが数体、馬車へ振り向き襲い掛かって来た。


 「む、魔物がこちらに気づいたようですぞ!」

 「グォォォォ!」

 

 オルノブが腰の剣に手を添えていると、ファスがセフィロを肩に乗せて馬の背に飛び乗り拳を突き出した。


 「威勢は良いが中身の無い木なぞ恐れるに足りん。‟雷塵拳”」

 「!」


 前に出てきたクリフォトがベギン! と、鈍い音を立てて曲がり、その直後セフィロの枝が幹を貫くと、クリフォトはその場に崩れ灰になる。


 「やるわねセフィロ! っと、こっちは私が【カイザーナックル】!」

 「グォ!?」


 セフィロの一撃に笑顔で讃えていると、左に回り込んできたクリフォトがマキナの前に現れる。御者台で腰を低くし、左手で荷台を掴んで振り落とされないようにしながらスキルを繰り出すと、クリフォトの体に大穴が空き崩れ去る。

 その後すぐにアイーアツブスを乗せたクリフォトを追い抜き、正面に回り込む!


 「おらおらぁ! バスレー様のお通りですよー!」

 「ぐっ……!? ……後ろが騒がしいと思いましたが、あなた達でしたか!」

 「アオオオオオオン!」


 すれ違いざま、バスレーはここぞとばかりにクリフォトへ金色のハンマーを叩きつけるとクリフォトが大きく揺れアイーアツブスの体がぐらついた。その隙にシュナイダーがクリフォトの枝に載せられたダーシャの奪還をするため突撃するが、


 「ふふん、犬が生意気ですよ【不安定】」

 「わおん!?」


 アイーアツブスがシュッとお札のようなものを投げつけると、飛び掛かろうとしたシュナイダーが派手に地面を転がった。


 「シュナイダー!」

 「わ、わふ……」


 マキナの叫びに、大丈夫だと言わんばかりに片手を上げて反応するシュナイダー。ラディナもお供のクリフォトを怪力でバラバラにして合流する。

 マキナ達はアイアーツブスの進行を妨げ、荷台を降りて指をさす・


 「さて、ダーシャちゃんを返してもらうわよ」

 「死体が欲しいなら上げますけどね? くっく……」

 「殺したの……!?」

 「落ち着けマキナ、ブラフじゃ。死体ならこいつの性格を考えれば手元には置かんじゃろう。もし殺していたら……死んでもらうぞ?」

 

 ぶわっと殺気を膨れ上がらせるファスに、裂けんばかりに口を歪めてアイーアツブスは笑う。


 「あはははは! やれるものならやってみなさい。あいにく城にも用事があるので長居はできません。通してもらいますよ? この可愛い女の子が居る限り、あなた達が手を出すことは出来ないと思いますが?」

 

 そう言ってクリフォトの枝にくるまれていたダーシャを抱え、黒い刃をチラつかせ、話を続ける。


 「私の【不安定】はあらゆるもののバランスを崩すスキルでしてねえ。この右手が近ければ近いほど効果はばつぐんになるんですよ。道具で足元を不安手にさせたりできますが、直接触れることで精神も魔力も、そして命さえも不安定にできますし」

 「なるほど、可愛い顔に似合わずえぐい能力ですねえ。それを受け続けると精神は崩壊し、魔力は枯渇。最後は死、ですか?」

 「ええ。でも加減がなかなか難しいんですよ。そこの犬を転ばせるのはこういうカードでできるんですが、精神や魔力はすぐに消えちゃうんです。人間は脆いですから……ね!」

 「こいつ……!」

 「!」

 

 会話の最中、不意に黒い刃を逆手に持ち、ダーシャに振り下ろすアイーアツブス。マキナとファスもいち早く察知し走る! しかし、アイアーツブスの目はマキナ達ではなく――

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