第三百八十話 敵か味方か


 <サンディオラ城>


 「状況は!」

 「賊は正門で火矢を射かけてきております。数は三百と言ったところでしょうか」

 

 ラース達が町から駆け出したころ、城内は騒然としていた。深夜と言って差し支えない時間の襲撃は混乱を招くに十分な効果があった。

 慌てて起き出したアフマンドはホールに集まっているアボルや兵士達の前に現れ、状況を確認する。


 「僕が攻めた時よりも多い……一体何者だ?」

 「……恐らくは側近であるダルヴァかと思われます。あの時捕えられなかったツケが回ってきたといことでしょうか。しかし、こちらは迎え撃つ側。今からでも態勢を整えるのは難しくありません」

 「そうだな……よし、槍士と剣士は二人一組で動け、組み合わせは任せる。弓兵は?」

 「すでに城門の防衛に回り、庭を狙い打てる位置にもおります。魔法使いはいかがいたしましょうか?」

 「前衛から三メートルの距離を取って展開しろ。城門は破られる前提で動け、いいな」


 アフマンドは冷静に命令を下すと、兵士たちは即座に行動を開始した。あの時、城を落とした者が殆んどなので、今回も勝てるだろうと不安なく。


 「流石ですな、【統率】のスキルはこういう時頼りになります」

 「ふん、こんな時くらいしか役に立たないからな。僕は客人とヘレナ達の所へ話をしに行く。その間に僕の装備の用意を」

 「ハッ!」


 歩きながらアボルに指示を出すと、まずレッツエルの部屋へと向かう。ドアをノックすると、イルミが神妙な顔で出てきた。


 「……騒がしいことの説明と言うことで良いですか?」

 「ああ。すまないが、こちらへ来てくれ」

 「城攻めですか?」

 「含めて話そう」


 次にヘレナとリース達の部屋へ赴き、いびきをかいていたリースと就寝していたヘレナ親子を連れて食堂へと向かった。


 「客人の君たちには大変申し訳ないが、緊急事態が起きた。黙っていても意味が無いと判断し伝えるが、恐らく前王に仕えていた者が、襲撃してきたと思われる。もちろん危害が及ばないように打って出るので安心してくれ」


 アフマンドは全員を適当に座らせると状況をはっきりと伝えた。ヘレナの母親は不安げな顔で声を出す。


 「……大丈夫ですか? 私はどうなっても構いませんが、ヘレナだけはなんとしても逃がしたいです」

 「今外へ出ると捕まってしまうかもしれない。すまないが、今は城の方が安全だと思う。レッツェル殿も来られた早々こんなことになって申し訳ない。終わればなにかお詫びをさせてくれ」

 「ああ、お構いなく、国王様。何なら加勢を……」

 「先生、ダメですよ」


 レッツェルがメスを取り出してからくっくと口の端を歪めて笑うが、イルミに窘められ肩を竦めて黙り込む。そこへリースが足を組みながらヘレナに言う。


 「ふむ、ラースが居ればあっという間に終わるのにな」

 「まあ、昨日の今日で見つかるとは思えないから仕方ないわあ。とりあえず攻めてきたら戦うしかないわねえ」

 「お、業物だねそいつは」

 「ドラゴンの牙で作ったダガーだからねえ。……人を殺したことはないから怖いけど」


 ヘレナがそう言って笑うと、リースもにっと笑う。


 「そういうのはボクの仕事だ。君は母親と自身の身を守ることに集中していい」

 「え?」


 ヘレナが眉を顰めて何かを聞こうとしたが、アフマンドは頷き席を立ちながら口を開いた。


 「問題ない。僕も指揮を取るため前線へ出る、また会おう!」

 「お気をつけて」


 レッツェルの言葉を背に受けながら食堂を出て行くアフマンド。その姿を見送った後、レッツェル達も席を立ち、ヘレナが声をかけた。


 「……? どこへ行くのかしらあ?」

 「一応、ボクたちも旅をしてくるにあたって装備を持っているから、それを取りにね。少し待っていてくれ」

 「うん」


 ヘレナが頷くのを尻目に、リース達が廊下に出るとレッツェルがにやりと笑いながら部屋へと歩き出す。


 「くっく……なかなか面白いことになってきましたね。確かこの国にはアイーアツブスが来ていましたかね? 唆して城攻めをしたというところでしょうか」

 「そうですね。福音の降臨が国を手中にするにはアホな人間の方が楽ですし、恩を売れますからね。でも十神者が居るなら私達がここに居るのは不味くないですか?」

 「まあ、そこは旅行に来たとでも言っておきましょう。ラース君に話をしにきただけなのでね」

 「十神者が関わっているから良くないだろ? とりあえず戦闘には参加しないってことでいいな?」


 リースが呆れたように言うと、レッツェルが返す。


 「もちろんそのつもりだよ。まあ、襲い掛かってきたらその限りではないけど。……リースの友達、ヘレナと言ったかい? どっちかが死んだら良い顔をしてくれそうだ」

 「……それは死守させてもらうぞ。レッツェル、もう一回ラースに殺されたくなかったらちゃんと守ってくれ」

 「そんなに話してないんじゃないの?」

 「ラースが関わっているなら話は別だよ。あとでボクがヘレナ達を守れなかったら印象が悪くなるだろう?」

 「あんた本当にあいつが好きね……なんでなの? 学院に行き始めてからしか会ってないわよね?」

 「運命だからだよ」


 リースのドヤ顔にため息を吐いてイルミはリースの頭をポンポンと撫でながらレッツェルへ顔を向けた。


 「ま、リースのヤバい発言は今に限ったことじゃないですけど、アイーアツブスと出くわしたらどうするんですか?」

 「くく……その時は、影でこっそり始末するのも面白いかもしれませんね?」


 そう言い放つレッツェルに、イルミはもう一度大きなため息を吐いた。


 そんな話題の中心になったアイーアツブスは、ラース達が捕捉していた――

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