第三百七十八話 セフィロの決意


 「ん? ……ここは……」

 

 ハッと目を覚ますと、俺はマキナと一緒に寝ていたはずなのに普段着のまま立っていた。しかしこのまどろんだような景色には見覚えがある。


 「お兄ちゃん♪」

 「やっぱりセフィロか、久しぶりだな」

 

 やはり前にセフィロと話したことがある空間だった。ぴょんと俺の前に飛んできて微笑むセフィロの頭を撫でてやると、くすぐったそうにしながら


 「うん! えへへ、お兄ちゃんとお話するの久しぶり♪ でも、ボクがこうやって話せるところに出たのはやっぱりあいつのせいかなあ?」

 「アイーアツブスか?」

 

 俺が尋ねると、セフィロは神妙な顔でこくりと頷いたあと話を続ける。


 「うん……あいつ、前に戦った福音の降臨の人達より、なんて言うか対峙した時に寒気がしたよ……」

 「寒気? でもお前、勇敢に戦っていたじゃないか」

 「えへへー。何かアイーアツブスを見た瞬間、身体から力が湧いてきて前は歯が立たなかったクリフォトを倒せるようになったんだよ! 【ソーラーストライカー】って頭に浮かんできて、枝から剣を出せたりするようになったの」

 

 【ソーラーストライカー】……俺が簡易鑑定をした時に見えたセフィロのスキルだ。それがついに発動しったってことになる。


 「マキナお姉ちゃんが危ないと思ってアイーアツブスを攻撃したけど、ボク、体の震えが止まらなかったんだ……あいつは存在してはいけないモノだって、本能っていうのかな? それが反応していたんだー」

 「そっか、頑張ってくれたんだな。ありがとうセフィロ」

 「わわ!? えへー、だってマキナお姉ちゃんもボク大好きだもん!」


 俺が抱っこしてやると、満面の笑みで笑うセフィロ。実際、背後からの一撃がアイーアツブスの撤退を決めたので、セフィロの功績はかなり大きい。するとそこへ――


 「な、なに、ここ……? あ、ラース!」

 「あ、マキナ!? どうしてここに」

 「ここを知っているの? それにその抱っこしている子は誰?」

 

 俺が言葉を発する前に、セフィロは俺の腕から飛び降り、一気にマキナの下へ走り抱き着いた。


 「マキナお姉ちゃん♪」

 「え、ええ? 私の名前を知っているの?」

 「うん! ボクはセフィロだよ!」

 「……ええー!?」


 笑顔で抱き着くセフィロを見て驚愕の声を上げるマキナに近づき、俺はここのことを掻い摘んで話をする。最初は戸惑っていたけど、セフィロが可愛いせいか座り込んで自分の膝においていた。


 「なるほどね。ここは夢みたいなもの、ってことか。となると、ラースとセフィロが私と一緒に寝ているから巻き込まれた感じね」

 「そうかも? でもお姉ちゃんと話せて嬉しいよ、ボク!」

 「私もよ。そう言えばセフィロって男の子?」

 「ううん! もう女の子だよ!」

 「え!?」


 いつの間にかそういう風になってしまったらしいとセフィロが言い俺は驚く。まあ、向こうの姿は木だから厄介なことになることは無いと思うけど……


 「で、何の話をしていたの?」

 「ああ、アイーアツブスのことだよ。そういえばマキナはあの【不安定】をモロに食らったけど大丈夫だったのか?」

 「……あの黒もや、ね。正直、アレは受け続けると心が壊されるものだと思うわ。ちょっと恥ずかしいところを見せちゃったけど、まるで心の中を抉られるような感覚があった。幸い私は、ラ、ラースとの時間を邪魔している福音の降臨に対して働いたけど、例えば少なからず親や子供、他人を憎んでいる人が居るとして【不安定】を受けると、思っていたことを行動に移しちゃうってこともあると思うわ」


 心に闇がある人間ほど、か。だからケルブレム達のようにつけいる隙がある人間を引き込んでいるのだろうか? いざという時、簡単に捨てることができる駒にするために。

 

 「それにしてもあの時はマキナが無事でよかったよ。俺は魔力を引っ掻き回されてかなり厳しかった」

 「間違いなく師匠との修行のおかげねー。あくまでもリラックスして挑むというのを守っているからだと思うの。それとライトニングを体にまとわせて防御もできるようになったからね! これはラースのおかげ」

 「あ、ずるい! ボクもー!」


 人目が無いせいかいつもより俺にくっついてくるマキナと、久しぶりの人型で興奮気味のセフィロも背中に乗ってくる。

 

 「……ボク、【ソーラーストライカー】でお兄ちゃんやお姉ちゃんを守るよ。あいつらはボクのお母さんや仲間の命を奪った悪いやつなんだ、死んでも倒さないと……」

 「あんまり気負うなよセフィロ。俺達はそう簡単にやられるつもりはないし、お前が死ぬのを見るのも嫌だからな?」

 「そうよ! セフィロも仲間なんだから頼りなさいよ! 仇、取らないとね」

 「お兄ちゃん……お姉ちゃん……うん、ありがとう……あ、目が覚めるのかな?」


 セフィロがそう言った瞬間、視界が揺れぼやけていく。泣き笑いのセフィロが手を振るのを最後に、俺は意識を手放した――


 ◆ ◇ ◆


 「首尾は?」

 「いい具合だ、もしディビットが近くに居ても間に合わんはずだ」

 「奴には転移魔法があるからな……油断はするなよ?」

 「福音の降臨……アイーアツブスがどこまで足止めが出来るかだな。しかし一週間以上経ってもこちらへくる気配が無いし、上手く言ったとみるべきか」


 逆クーデターを目論む前王の側近であるダルヴァがサンディオラの城から離れた場所で野営をしつつ機会を伺っていた。アイーアツブスと別れた後、同志を集め終わったため攻め入るつもりである。


 「ゲイリー様は地下牢で間違いない。アフマンドは貴族でも無い一般庶民の成り上がりだ、安心しきっているに違いない。そのためわざわざ二年待ったのだからな」

 「では先にゲイリー様を助け出すか?」

 「うむ。あのお方のスキルがあれば覆すことはそれほど難しい話ではない。が、冒険者や城の兵はそれなりに腕が立つ、覚悟はしておけ」


 窮地にあっても助けない、死ぬときはひとりで死ぬか道連れを、と殺伐としたことを続けて言い放つと、決意を持った目で頷く面々。


 「血戦は明日の夜更けだ。各自、英気を養うこと」

 「了解」


 そして戦いの舞台はサンディオラの城へ――

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